アメリカン・フェイロー、37年振りの三冠達成!
本来なら昨日の午前中には更新する予定だった6月6日のアメリカ競馬。午後一番から始まる演奏会に出掛けることと、ファンが殺到してサーバーがパンク状態の競馬誌ホームページが中々繋がらないこととで当日のアップを断念。やっと月曜日の朝になってレポートを書くことが出来た次第です。
ということでベルモント・パーク競馬場、この日は第3レースからG戦シリーズに入り、最初がウッディー・スティーヴンス・ステークス Woody Stephens S (GⅡ、3歳、7ハロン)。fast の馬場に6頭立て。ここまで4戦無敗、2歳時にはホープフル・ステークス(GⅠ)を制し、故障による休養を挟んで前走パット・デイ・マイル(GⅢ)にも勝ったコンペティティヴ・エッジ Competitive Edge が2対5の断然1番人気。
スタートが最も良かった4番人気(10対1)の一角シンコー・チャーリー Cinco Charlie が先手を取りましたが、直ぐに3番人気(8対1)のレディー・フォー・ライ Ready for Rye が交わしての逃げ。コンペティティヴ・エッジは3番手を進みましたが、何故かこの日は動きが重く、結局は最下位に終わって連勝もストップしてしまいました。替って2番手追走からシンコー・チャーリーが抜けてゴールを目指しましたが、前半4番手の2番人気(10対1)のもう1頭マーチ March が内ラチ沿いにスルスルと伸び、ゴール直前でシンコー・チャーリーをハナ差交わしての逆転劇。5馬身半の大差が付いてレディー・フォー・ライが3着に粘っています。
チャド・ブラウン厩舎、イラッド・オルティス騎乗のマーチは、前走同じ7ハロンのベイ・ショア・ステークス(GⅢ)の勝馬で、これでG戦に2連勝。短距離の追い込み馬という特質が定着してきたようです。半兄のエイティーファイヴインナフィフティー Eightyfiveinafifty も2010年のベイ・ショア勝馬で、血統的にも筋が通っていることを証明しました。
次の第4レース、ジャイプル・インヴィテーショナル Jaipur Invitational (芝GⅢ、4歳上、6ハロン)はこの日のカード唯一のGⅢ戦で、やや渋った good の芝コースに3頭が取り消して10頭立て。ベルモントの一般ステークス(エルーシヴ・クオリティー・ステークス、芝の7ハロン)の勝馬モスラー Mosler が3対1の1番人気。
レースはダッシュ良く飛び出した3番人気(9対2)で並んだサムシング・エクストラ Something Extra とパワー・アラート Power Alert の激しい先行争いとなりましたが、これを4番手で追走していた7番人気(10対1)のチャンネル・マーカー Channel Marker が3番手で直線に向くと、スムースに外を通って鮮やかに抜け出し、粘るサムシング・エクストラを1馬身抑えて優勝。半馬身差で6番手から伸びた2番人気(7対2)のエイジレス Ageless が3着に入り、後方4番手を進んだモスラーは6着に終わりました。なお5番人気(7対1)に支持されたヘルワン Helwan がレース中に故障を発症し、その場で殺処分になるという悲劇も起きています。
フィリップ・バウアー厩舎、フランシス・トーレス騎乗のチャンネル・マーカーは、これが一昨年10月以来の勝鞍で、ステークスも初勝利、8連敗に終止符を打ちました。これで通算成績は17戦4勝となる6歳牡馬。
第5レースのオグデン・フィップス・ステークス Ogden Phipps S (GⅠ、4歳上牝、8.5ハロン)。これは今年最初のブリーダーズ・カップ対象となる一戦で、勝馬にはBCディスタッフへの出走の優先権が付与されます。6頭が出走し、去年のチャンピオン3歳牝馬でGⅠ5勝馬のアンタパブル Untapable が3対5の断然1番人気。前走アップル・ブロッソム・ハンデ(GⅠ)からの間隔も充分で、ここは負けられない一戦でしょう。
スタートすると誰も行く気配を見せず、ジワッと2番人気(2対1)のウエディング・トースト Wedding Toast が先頭に立ち、アンタパブルは後ろから2頭目に待機。第3コーナーの手前で漸く動き始めた本命馬、第4コーナーを回って2番手に上がって差を詰め始めましたが、前半楽をしていたウエディング・トーストは余力充分、直線はアンタパブルを5馬身突き放す逆転劇でした。前半3番手追走の5番人気(16対1)が最後で本命馬に迫り、頭差で3着。
キアラン・マクローリン厩舎、ホセ・レズカノ騎乗のウエディング・トーストは、前走ラフィアン・ステークス(GⅡ)に続くG戦2連勝。ゴドルフィン所有の5歳馬で、GⅠはこれが初勝利となります。
続く第6レースはブルックリン・インヴィテーショナル Brooklyn Invitational (GⅡ、4歳上、12ハロン)。かつてはGⅠだったレースで、ベルモント・ステークスと同じ距離で行われる古馬戦です。2頭が取り消して10頭立て、プレッチャー厩舎の2頭がカップリングされて5対2の1番人気に支持されていましたが、意外にも人気の対象は前走のアローワンス戦を12馬身半差で圧勝したコーチ・インジ Coach Inge という馬。これがステークス・デビューという新星です。
8番人気(23対1)のコール・ミー・ジョージ Call me George が逃げ、コーチ・インジはこれをピタリとマークして2番手追走。第3コーナーで逃げ馬に並び掛けて直線で先頭に立ちましたが、後方3番手を進んだ3番人気(7対2)でベルモント・ステークスの勝馬ヴィ・イー・デイ V.E.Day が一気に外から迫って2頭の叩き合い。一旦はヴィ・イー・デイが抜けたようにも見えましたが、再びコーチ・インジが内から差し返し、首差で接戦を制しました。5馬身4分の1の大差が付いて3番手を進んだ4番人気(4対1)のスカイ・キングダム Sky Kingdom が3着。
トッド・プレッチャー厩舎、ジョン・ヴェラスケス騎乗のコーチ・インジは、これで10戦4勝となる4歳せん馬。初勝利までに5戦を要しましたが、長距離路線に彗星の様に現れた期待の1頭、2冠馬(ダービー、プリークネス)ビッグ・ブラウン Big Brown の2年目の産駒に当たります。
そして第7レースからはGⅠ戦5連発。その第一弾がエイコーン・ステークス Acorn S (GⅠ、3歳牝、8ハロン)です。12頭が出走。前走ケンタッキー・オークスこそ9着だったものの、2歳時のスピナウェイ・ステークス(GⅠ)とドモワゼル・ステークス(GⅡ)を含めニューヨークでは無敵のカンド・コマンド Condo Commando が3対1の1番人気。
2番人気(7対2)のプロミス・ミー・シルヴァー Promise Me Silver が逃げ切りを図りましたが、2番手を追走した4番人気(7対1)のミス・エラ Miss Ella がこれを交わして先ず先頭。しかしそれも束の間、3番手を進んだブービー人気(3対1)のバイ・ザ・ムーン By The Moon がスパートして直線では2馬身差を付けてあわや、と思われた時、前半5~6番手の外を追走していた4番人気(7対1)のカーラライナ Curalina が8番人気(16対1)のワンダー・ギャル Wonder Gal と連れて追い込み、バイ・ザ・ムーンを首差捉える波乱となりました。4分の3馬身差でワンダー・ギャルが3着に食い込み、人気のカンド・コマンドは後方のまま9着敗退です。
ブルックリン・ハンデに続いてプレッチャー厩舎、ヴェラスケスのG戦連勝となったカーラライナは、これがステークス初挑戦という上がり馬。これで4戦3勝2着1回と未だキャリアはこれからですが、実は厩舎では2番目に高評価だった3歳牝馬の由。真価発揮はこれからでしょう。
先を急ぎましょう。第8レースのジャスト・ア・ゲイム・ステークス Just a Game S (芝GⅠ、4歳上牝、8ハロン)は10頭立て。前走ジェニー・ワイリー・ステークス(芝GⅠ)に勝ったボール・ダンシング Ball Dancing が3対1の1番人気、チャーチル・ディスタッフ・ターフ・マイル(芝GⅡ)に勝っているコーヒー・クリック Coffee Clique が7対2の2番人気で、トップハンデを背負った2頭の一騎打ちと思われていました。
レースは4番人気(7対1)の芦毛馬ディスクリート・マルク Discreet Marq が逃げ、これをコーヒー・クリックが追走。しかしディスクリート・マルクの脚色は鈍らず、直線中程までは先頭で粘ります。ここに外から追い込んできたのが3番手を追走していた3番人気(9対2)のテーピン Tepin 、5番手から最後に追い込む、逃げ馬と同じ4番人気(7対1)のフリンビ Flimbi に半馬身差を付ける快勝です。4分の3馬身でディスクリート・マルクが3着に粘り、ボール・ダンシングは6番手に付けたものの8着に、コーヒー・クリックも6着に沈みました。ベルモント・ステークス独特の雰囲気に人気馬の敗退が続き、本命が勝ったのはここまでブルックリン・インターナショナルだけ。
マーク・カッセ厩舎、ジュリアン・ルパルー騎乗のテーピンは、これで芝コースは3連勝、G戦も前走チャーチル・ディスタッフ・マイル(芝GⅡ)に続く2連勝で、GⅠは初制覇となりました。
GⅠ第3弾、第9レースのメトロポリタン・ハンデキャップ Metropolitan H (GⅠ、3歳上、8ハロン)は、第5レースのオグデン・フィップスに続いてブリーダーズ・カップの対象になる一戦。勝馬にはBCダート・マイルへの優先出走権が与えられます。BCを目標にするマイルのスター・ホース10頭が出走し、8対5の1番人気に支持されたのは去年のベルモント・ステークスでカリフォルニア・クローム California Chrome の三冠を阻んだトーナリスト Tonalist でした。ベルモント/メトロポリタンのダブルなるか。
レースは4番人気(6対1)プライヴェイト・ゾーン Private Zone が逃げ、2番人気(7対2)のバイエルン Bayern が執拗に競り掛けます。トーナリストは後方3番手で前がハイペースになるのを待つ流れ。バイエルンを斥けてプライヴェイト・ゾーンが粘るところ、後方一気の鬼脚を爆発させたのは、前半大きく置かれる最後方に付けていた5番人気(7対1)のオナー・コード Honor Code 。トーナリストも良く追い上げましたが、それを上回る劇的なレースで本命馬に3馬身4分の3差を付ける圧勝でした。2馬身差で逃げたプライヴェイト・ゾーンが3着に粘り、バイエルンはバテて最下位入線。
クロード・マゴーヒー厩舎、ハヴィエル・カステラノ騎乗のオナー・コードは、前走アリシェバ・ステークス(GⅢ)5着からの巻き返し。しかしその前にはガルフストリーム・パーク・ハンデ(GⅡ)に勝っており、GⅠ戦は初勝利となる4歳馬です。2歳時にはレムゼン・ステークス(GⅡ)に勝ちましたが、故障のためダービーを断念した逸材でもあります。
メイン・レースの一つ前、第10レースに組まれたのがマンハッタン・ステークス Manhattan S (芝GⅠ、4歳上、10ハロン)。ここも11頭と多頭数が揃い、一昨年ながらGⅠを2勝(ユナイテッド・ネーションズ・ステークス、ソード・ダンサー・インヴィテーショナル)しているビック・ブルー・キッテン Big Blue Kitten が3対1の1番人気。
先手を取ったのは4番人気(6対1)のウォー・ダンサー War Dancer 、これを7頭がほぼ一団で追走し、3頭が後方待機の流れとなり、ビッグ・ブルー・キッテンは最後方で虎視眈々。直線、先団グループの最後8番手に付けていた7番人気(14対1)の伏兵スランバー Slumber がややインコース寄りに馬群を巧みに捌くと、ゴール前は一気に突き抜けて3頭が並ぶ大接戦の2着争いに2馬身4分の3差を付けて鮮やかな差し切り勝ちを決めました。2着は頭差で本命ビッグ・ブルー・キッテンが追い込み、頭差で2番手を追走していたブービー人気(19対1)のレジェンダリー Legendary が3着。ここでも本命馬は勝てませんでした。
チャド・ブラウン厩舎は勝馬と本命馬を管理しており、師のワン・ツー・フィニッシュ。イラッド・オルティス騎乗のスランバーは英国産の7歳馬で、英国ではニューマーケットのリステッド戦(ジェームス・セイマー・ステークス、10ハロン)の勝鞍の他にG戦での入着もありました。2013年8月にアメリカに転じてからは10戦して未勝利の状況でしたが、それでも今期はG戦で2度2着(ガルフストリーム・パーク・ターフ・ハンデ、マーヴィン・ミニュッツ・ハンデ)しており、英米を通じてのG戦初勝利がGⅠ戦となりました。
さて愈々三冠馬達成の期待が掛かるベルモント・ステークス Belmont S (GⅠ、3歳、12ハロン)です。これまで何頭もの馬が三冠に挑んできましたが、ほとんどは「三冠達成なるか」という雰囲気でした。しかし今年は若干違っていて、3冠は確実、興味は何馬身差で勝つか、ということにあったように個人的には感じていました。僅かに8頭が参戦したのみという事実もその印象を強めていましたが、もちろんアメリカン・フェイロー American Pharoah が3対5の圧倒的1番人気。2番人気のフロステッド Frosted は4対1で、3番人気(5対1)のマテリアリティー Materiality までが単勝10倍を切るというオッズ。
スタートから観衆は大興奮、歓声とも悲鳴ともつかない轟音が競馬場を揺るがし、実況アナウンサーの声も聞こえないほど。一人冷静だったのはアメリカン・フェイロー本人だけだったのじゃないでしょうか。それほど良いスタートではなかったものの、直ぐに先頭に立った大本命、後続を引き連れながら2馬身差で直線。この間もスタンドのノイズは鳴り止むことを知らず、ひっくり返る様な騒ぎの中で直線に向かいます。2番手を追走したマテリアリティーは早々と脱落、5番手から追い上げる作戦のフロステッドが伸びてきましたが、最早独走状態に入ったアメリカン・フェイローはライヴァルを引き離す一方。最後は2着フロステッドに5馬身半差を付けてアファームド Affirmed 以来37年振り、12頭目の三冠を達成しました。更に2馬身差で3番手を追走した6番人気(17対1)のキーン・アイス Keen Ice が3着。
強い馬が強いレースをして圧勝。敗軍はただ勝者を讃えるのみで、何のエクスキューズも出ていません。三冠達成朱時の着差は、セクレタリアート Secretariat の31馬身、カウント・フリート Count Fleet の25馬身、サイテイション Citation の8馬身に次いで史上4番目の大差でした。
三冠調教師のボブ・バファート師は、2001年のポイント・ギヴン Point Given に続く2度目のベルモント・ステークスですが、これまでシルヴァー・チャーム Silver Charm (1997年)、リアル・クワイエット Real Quiet (1998年)、ウォー・エンブレム War Emblem (2002年)と3度も挑戦して跳ね返されてきただけに、感動も一入でしょう。騎乗したヴィクター・エスピノザは、ベルモント初勝利。オーナーはアームド・ザヤット氏です。氏は、少なくとも2015年中はアメリカン・フェイローを現役で出走させることを約束しています。
それにしてもスタンドの歓声はこれまで見聞きした中では最大だったように思います。私が海外の競馬を見始めた頃にビデオで見たセクレタリアートも圧巻でしたが、当時は競馬場の雰囲気までは判りませんでしたからね。改めて三冠達成の瞬間がどんなものかに圧倒されました。
最後にチャーチル・ダウンズ競馬場で行われたミント・ジュレップ・ステークス Mint Julep S (芝GⅢ、3歳上牝、8.5ハロン)。firm の馬場に12頭が出走し、去年のこのレースの2着馬で、前走チャーチル・ディスタッフ・ターフ・マイル・ステークス(芝GⅡ)では8着に終わっていたGⅢ馬アイム・オールレディー・セクシー I’m Already Sexy が3対1の1番人気。
レースは7番人気(14対1)のメイド・オンナ・ミッション Maid On a Mission が逃げ、アイム・オールレディー・セクシーは2番手で前を突きます。直線、逃げ馬を交わして本命馬が先頭に立ちましたが、前半4番手に付けていた5番人気(8対1)のキス・ムーン Kiss Moon が外から追い上げ、最後は差し返すアイム・オールレディー・セクシーを頭差捉えて優勝。1馬身4分の1差で3番手を進んだ3番人気(5対1)のストライク・チャーマー Strike Charmer が3着に入りました。
デヴィッド・ヴァンス厩舎、コーリー・ラヌリー騎乗のキス・ムーンは、これがG戦初勝利となる4歳馬。前走は5か月の休養明けとなるチャーチル・ディスタッフ・ターフ・マイルで11着と敗退していましたが、先着を許していた本命馬にも雪辱を果たした形です。去年はファンタジー・ステークス(GⅢ)の2着、ハネービー・ステークス(GⅢ)とリグレット・ステークス(GⅢ)で共に3着と、勝利まで一息のレースが続いていました。母キス・ザ・デヴィル Kiss the Devil は2003年のミント・ジュレップに勝っており、母娘の2代制覇でもあります。
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