2015クラシック馬のプロフィール(10)
これを書いている今は6月30日で、今年も前半は今日でお終い。ヨーロッパ・クラシック馬の血統プロフィール、先週行われたアイルランド・ダービーの勝馬を取り上げますが、6月中のクラシック・レースは今月中に片付けてしまおう、ということで急ぎパソコンに向かいます。
ということで、今回は愛ダービー馬ジャック・ホッブス Jack Hobbs の巻。父ホーリング Halling 、母スウェインズ・ゴールド Swain’s Gold 、母の父スウェイン Swain という血統です。
ジャック・ホッブスのオーナーはゴドルフィンですが、英ダービーの直前にゴドルフィンが他のオーナーから購入した馬で、ゴドルフィンの生産馬ではありません。そもそもは去年のニューマーケット・オクトーバー・セールで6万ギニーで取引されたようです。
ゴドルフィンと関係があるとすれば、父ホーリングがゴドルフィンのダーレー・スタッドで供用されていたということでしょうか。そこで最初にホーリングに付いて簡単に触れると、
ホーリングはクラシックには無縁の存在でしたが、古馬になって頭角を現します。名前が知られるようになったのはドバイで活躍してからで、4歳の夏に英国に遠征し、エクリプス・ステークスとジャドモント・インターナショナルと何れも10ハロンのGⅠ戦に優勝。翌年もこの二つを連覇し、ヨーロッパの古馬チャンピオンに選出されました。但しブリーダーズ・カップやドバイ・ワールド・カップでは凡走しています。
5歳のチャンピオン・ステークス2着を最後に種牡馬となりましたが、自身を上回るような競走馬は出ていません。直ぐに名前が挙がるのはパリ大賞典に勝ったカヴァリーマン Cavalryman くらいのもので、このまま行けばジャック・ホッブスが代表産駒と言うことになるでしょう。
ホーリングの初年度産駒は1998年生まれですから、ジャック・ホッブスは15年目の産駒。種馬としてはかなり高齢での活躍馬、と言うことも特徴の一つでしょうか。
ホーリングについてもう少し続けると、このサイアー・ラインはボビンスキーの分類ではE-8、ファラリス Pkalaris 系。ファラリス系はノーザン・ダンサー Northern Dancer 系と並ぶ現代の2大サイヤー・ラインですが、主流はミスター・プロスペクター Mr. Prospector から分岐したアメリカで大発展している系統。ホーリングが属するダイシス Diesis →シャーペン・アップ Sharpen Up と遡るファラリス系は衰退しているラインと表現しても良さそうです。
実際、愛ダービーは近年ノーザン・ダンサー系が10連覇していたほどで、ファラリス系の馬が勝ったのは、不思議なことに愛ダービー史上初でもありました。
ホーリングは奥手の中距離馬で、やはり10ハロンで能力を発揮するタイプという印象。ヨーロッパのダービーでは最もスタミナを必要とされる愛ダービーを制したジャック・ホッブスは、やはり牝系からそのスタミナを受け継いだと言えそうです。
その牝系に入りますが、これもGⅠ級の馬が次々に登場するような派手なファミリーではなく、名前を挙げる様な名馬を探すのにはかなり時代を遡らなければなりません。以上を前置きとして牝系を見ていきましょう。
先ず母スウェインズ・ゴールド(2001年 黒鹿毛)はアメリカで走った馬で、そのプロフィールには不明なことが多過ぎます。4戦3勝2着1回というのが成績の全てのようですが、走ったのはアリゾナ州のターフ・パラダイス競馬場でのこと。アメリカは国土が広く、サラブレッドの数も半端じゃありません。ターフ・パラダイスはG戦が行われる競馬場ではなく、その資料もほとんど手に入らないのが現実。
スウェインズ・ゴールドは3歳時に4戦し、現地のステークスにも勝ったようですが、それがどの程度のレヴェルなのかも測り知ることは出来ませんでした。調教師が誰なのかも不明です。ということで産駒に移ると、
2006年 ドロップト・チェンジ Dropped Change 鹿毛 牝 父ケイム・ホーム Came Home 未出走? 成績は不明
2007年 フリートウッドマックス Fleetwoodmax せん 父アフリート・アレックス Afleet Alex 6ハロンから8ハロンで7戦未勝利
2008年 ミセス・グリーリー Mrs Greeley 鹿毛 牝 父グリーリー Greeley 英国で6ハロンから8ハロンに19戦3勝 勝鞍は6ハロンと7ハロンで、3歳時2勝、4歳時1勝
2009年 ナイスオブユートゥーテルミー Niceofyoutotellme 鹿毛 せん 父エルナンド Hernando 英国で7ハロンから12ハロンに19戦4勝 勝鞍は9・10(2勝)・11ハロン 6歳時にブリガディア・ジェラード・ステークス(GⅢ)で3着 レイフ・ベケット厩舎に所属
2012年 ジャック・ホッブス
2010年と2011年の記録は見付かりませんでしたが、あるいは空胎だったのでしょうか? いずれにしても兄弟で名前を残すような馬は今のところ出ていません。ジャック・ホッブスは少なくとも母の3頭目の勝馬と言うことになります。
2代母ゴールデン・ポンド Golden Pond (1993年 黒鹿毛 父ドント・フォゲット・ミー Don’t Forget Me)は、アイルランド産馬で23戦7勝。ヨーロッパで走った後にアメリカに転じ、オーキッド・ハンデ(GⅡ、12ハロン)とスワニー・リヴァー・ハンデ(GⅢ、9ハロン)とG戦に2勝した長距離馬でした。
その産駒ではスウェインズ・ゴールドの他にブラジリアン Brazilian があり、この馬はアメリカで11戦4勝、一般ステークスの勝鞍があるようです。
ゴールデン・ポンドについてはこれ以上の資料が無いので、3代母ゴールデン・ブルーム Golden Bloom (1985年 栗毛 父メイン・リーフ Main Reef)に飛びましょう。
ゴールデン・ブルームは未出走でしたが、繁殖に上がってから成功。その産駒ではゴールデン・ポンドの他に、チェスター・ヴァーズ(当時はGⅢ)で3着など1マイル半を得意にしたゴールデン・ウェルズ Golden Wells 、より短い距離で走ったストラットン Stratton などの勝馬がいます。特にストラットンは4歳時に英国で7ハロン戦で8勝するという大活躍をしてアメリカに渡りましたが、残念ながら新天地では勝鞍を挙げられませんでした。
更にゴールデン・ブルームの産駒ではシアノータス Ceanothus という牝馬が重要で、9戦して2着が2度あるだけの成績でしたが、少なくとも5頭の勝馬の母となりました。3勝したプリンス・ヘクター Prince Hector 、1マイル半の距離(主にポリトラック・コースですが)など8勝を挙げたせん馬のコンペティター Competitor 、リステッド戦を含めて2勝したウエディング・パーティー Wedding Party など。
中でも5番仔のポリネイター Pollenator は日本にも関係があり、2歳時にはリチャード・ハノン(父)師が管理し、現在はGⅠに格上げされているメイ・ヒル・ステークスに勝ってクラシック候補に挙がったほど。1000ギニーは3番人気に支持されながら11着に終わりましたが、10ハロンのリステッド戦では3着し、陣営では距離延長は問題無いと見做していました。
ポリネイターはその後日本に輸出されて繁殖入り。現在までの所競馬年齢を迎えた産駒はいませんが、ゼンノロブロイ、ステイゴールドなどを配合されており、近い将来にはジャック・ホッブスの近親馬として評判になる馬も出てくることでしょう。
4代母ダッフォディル・デイ Daffodil Day (1978年 鹿毛 父ウェルシュ・ページェント Welsh Pageant)は2戦して未勝利に終わった馬ですが、当時はGⅢだった(現在はGⅠ)マトロン・ステークスの勝馬スプリング・ダッフォディル Spring Daffodil を出します。その後オーストラリアに輸出され、1992年のオーストラリア・ダービー馬ダンス・ザ・デイ・アウェイ Dance The Day Away を出して南半球の競馬史に名を残しました。
そして5代母ナガイカ Nagaika (1954年 栗毛 父ゴヤマ Goyama)に至って、漸く競馬ファンにも馴染の名前に到達することになります。
ナガイカは英国の名門競馬人であるハリー・ジョエル(愛称ジム・ジョエル)氏の所有馬で、フランス馬ながら英国で勝った後にジョエル氏が購入、現在ではGⅠ戦として知られるプリンセス・ロイヤル・ステークスに優勝します。この辺りはジャック・ホッブスをクラシック直前に購入したゴドルフィンと似た所もありますね。
そのままジョエル氏の繁殖牝馬に編入されたナガイカは、いきなりセント・ジェームス・パレス・ステークス勝馬コート・センテンス Court Sentence を出して注目されます。しかし何と言っても1968年のダービーで2着したコンノート Connaught を出し、人々の記憶に留められることになりました。
コンノートはダービー2着という点ではジャック・ホッブスと共通しますが、その後はエクリプス・ステークスに勝ち、ロイヤル・アスコットのプリンス・オブ・ウェールズ・ステークスを2連覇したことでも有名。このファミリーでは最も高名な競走馬でしょう。
ナガイカを更に3代遡るとネオメニー Neomenie という牝馬に行き当たりますが、この馬から別の娘を通して4代を経ると、フランスの牝馬三冠馬で凱旋門賞にも勝った女傑ニケロラ Nikellora が登場することを、最後に付け加えておきましょう。
ファミリー・ナンバーは4-h。ポインセチア Poinsettia (1866年生まれ)を基礎とする牝系です。
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