アーリントンの前哨戦

7月11日のアメリカ競馬はGⅠ戦こそありませんでしたが、夏の頂上決戦に向けたトライアルが目白押しでした。4つの競馬場のG戦8鞍を順に取り上げていきましょう。

先ず取り上げるのはパークス・レーシング競馬場のパークス・ダッシュ Parx Dash (芝GⅢ、3歳上、5ハロン)。一昨年からGⅢに格上げた5ハロン戦ですが、競馬情報サイトでは9月に同じ条件、同じ競馬場のターフ・モンスター・ハンデと完全に混同しているようです。これを信じてきた私も当然間違ってきました。
改めてレースの歴史を調べてみると、パークス・ダッシュの創設は2011年と未だ新しく、今年が5回目。GⅢに格上げされたのが2013年で、今年はG戦としては3回目。第1回は2着だったベンズ・キャット Ben’s Cat が2回目から去年まで3連覇、そのベンズ・キャットはターフ・モンスターも連勝しているため、二つのレースに混同が生じたのでしょう。
今年は4連覇の掛かるベンズ・キャットも参戦していましたが9対5の2番人気。8対5の1番人気に支持されたのは2走前にトゥイン・スパイアーズ・ターフ・スプリント・ステークス(芝GⅢ)をレコード・タイムで制したパワー・アラート Power Alert でした。
3番人気(9対2)のボールド・サンダー Bold Thunder が逃げましたが、2番手を追走した5番人気(12対1)のタイトゥンド・タッチダウン Tightened Touchdown が捉え、外から追い込む3番手追走のブービー人気(50対1)モンゴリアン・サタデイ Mongolian Saturday を頭差抑えて優勝する波乱。1馬身半差で先行した7番人気(70対1)のモンゴル・ブル Mongol Bull が3着に入り、パワー・アラートは追い込むも4着、ベンズ・キャットは最後方からの競馬と後手後手に回り今回は6着敗退。
ジェイソン・サーヴィス厩舎、フランキー・ペニントン騎乗のタイトゥンド・タッチダウンは、これがG戦初勝利の6歳せん馬。去年一般ステークス(ペンシルヴァニア・ガヴァナーズ・カップ)に勝って以来6連敗中でしたが、去年も一昨年もパークス・ダッシュで2着していた馬。念願のG戦初勝利を、3年来のライヴァルを破って達成しています。

続いはアーリントン・パーク競馬場から。来月に迫った芝GⅠフェスティヴァルの前哨戦と言える芝コースのGⅢ戦4鞍です。シカゴからの中継は最終オッズが表示されないため、人気順は正確ではないことを最初にお断りしておきます。第一弾はアメリカン・ダービー American Derby (芝GⅢ、3歳、9ハロン)で、1着から3着までには来月のセクレタリアート・ステークス(芝GⅠ)への優先出走権が与えられるそうです。去年は9.5ハロンでしたが、今年は距離が若干短縮。good の馬場に7頭が出走し、前走アメリカン・ターフ・ステークス(芝GⅡ)で3着したワールド・アプルーヴァル World Approval が11対10の1番人気に支持されていた模様。
レースは9対2のナン・ザ・レス Nun the Less が逃げ、ワールド・アプルーヴァルは2番手追走。第4コーナーで外から逃げ馬を捉えたワールド・アプルーヴァル、4番手から追い込む7対1のクリッテンデン Crittenden を首差凌いで優勝。2馬身差で逃げたナン・ザ・レスが3着に粘りました。
マーク・カッセ厩舎、ホセ・レズカノ騎乗のワールド・アプルーヴァルは、4月にタンパ・ベイ競馬場で一般ステークス(ソフォモア・ターフ・ステークス)に勝っていましたが、G戦はこれが初勝利。通算成績は7戦3勝3着2回となり、5着以下に落ちたことは無いという堅実な馬の典型と言えそうです。今回はペースが遅いのを見越して2番手に付けましたが、速くなれば追い込みにも対応できるタイプとのこと、セクレタリアートはどうなるでしょうか。

芝のGⅢ戦、二つ目は古馬のアーリントン・ハンデキャップ Arlington H (芝GⅢ、3歳上、9.5ハロン)。去年は10ハロンでしたが、こちらも距離短縮。来月のアーリントン・ミリオンのトライアルとなる一戦で、メインのスターズ・アンド・ストライプス・ステークスと掛け持ちで登録している馬も何頭かいましたが、結局は3頭が取り消して7頭立て。こちらは去年のミリオンで4着したアップ・ウィズ・ザ・バーズ Up With the Birds がイーヴンの1番人気だったようです。
9対2のドラムディー Dramedy が大逃げを打ってレースを引っ張りましたが、2番手で追走していた5対1のクワイエット・フォース Quiet Force が第3コーナー手前で一気に差を詰め、直線では外からこれを捉えると、3番手追走から内を通って追い縋る2対1のミドルバーグ Middleburg に4分の3馬身差を付けて優勝。更に2馬身4分の1差でアップ・ウィズ・ザ・バーズは3着でした。
マイケル・メイカー厩舎、ジュリアン・ルパルー騎乗のクワイエット・フォースは、これがG戦初勝利となる5歳馬。去年もアーリントン・ミリオンが目標でしたが、その過程で故障を発症し断念、1年遅れての挑戦となります。今期は5月の休み明け初戦をパークスのアローワンス戦3着でスタートし、これが2戦目。同馬を生産したのは、フランスの名門ウェルザイマー兄弟で、クレーミング戦に勝った際に現在のオーナーに転売されたもの。

続いてはビヴァリー・ディー(芝GⅠ)のトライアルとなるモデスティー・ハンデキャップ Modesty H (芝GⅢ、3歳上牝、9.5ハロン)。1頭が取り消して9頭立て、前走アメリカ・デビューとなるサンタ・アニタの一般ステークス(ポッシブリー・パーフェクト・ハンデ)を快勝したガガ・エー Gaga A が3対1の1番人気。ウルグァイ産馬で、去年はフランスのGⅢ(フィーユ・ド・レール賞)に勝っている国際ホースです。
レースは44対1の伏兵シーキング・トレジャー Seeking Treasure が逃げ、ガガ・エーは5番手追走。しかし最も切れたのは、前半7番手に待機し、馬群を割って伸びた9対2のウォーク・クローズ Walk Close の末脚、4番手を進んだ5対2のマンゴー・ディーヴァ Mango Diva に半馬身差の快勝です。ガガ・エーも追い込みましたが、1馬身4分の3差の3着。
クリストフ・クレメント厩舎、ジェームス・グレアム騎乗のウォーク・クローズは、これがG戦初勝利の4歳馬。3歳時にベルモントで一般ステークス(ワイルド・アプローズ・ステークス、芝の1マイル戦)を含む3連勝したこともあり、ステークスは2勝目。前走チャーチル・ダウンズの一般ステークス(キールターナ・ステークス)では勝馬と半馬身差の3着でした。

アーリントンの最後はスターズ・アンド・ストライプス・ステークス Stars and Stripes S (芝GⅢ、3歳上、12ハロン)。これもアーリントン・ミリオンのトライアル的な性格と、同じ開催で行われるアメリカン・セントレジャーのトライアルの意味もあり、3頭が取り消して8頭立て。アーリントン・ハンデとダブル登録していた前年の勝馬ザ・ピッツァ・マン The Pizza Man が4対5の断然1番人気。去年はここからアメリカン・セントレジャーを制した同馬ですが、今年は明らかにミリオン制覇が目標でしょう。
レースは7対1のローマン・アプルーヴァル Roman Approval が絶妙なペースで逃げ、ザ・ピッツァ・マンはやや離れた中団。直線、外に持ち出した本命馬が先頭に躍り出ましたが、逃げたローマン・アプルーヴァルも余力充分、最後は再び差し返して接戦に縺れましたが、最後はザ・ピッツァ・マンがローマン・アプルーヴァルを首差抑えて連覇達成です。4分の3馬身差で4番手を追走した12対1のアルゼンチン産馬カルヴェイドス Calvados が3着。
ロジャー・ブルッヘマン厩舎、フロラン・ジェルー騎乗のザ・ピッツァ・マンは、これで22戦14勝、胸を張ってアーリントン・ミリオンに向かうことになります。

次にデラウエア・パーク競馬場のG戦2鞍を見ていきましょう。先ず ロバート・G・ディック・メモリアル・ステークス Robert G. Dick Memorial S (芝GⅢ、3歳上牝、11ハロン)から。firm の馬場に2頭が取り消して8頭立て。同じオーナーでカップリングされたキッテンズ・ポイント Kitten’s Point とチャット Chat がペアで6対5の1番人気。人気の対象は、もちろん前走ビウィッチ・ステークス(芝GⅢ)に勝ったキッテンズ・ポイントです。
レースは6番人気(12対1)のストライキング・スタイル Striking Style が逃げましたが、2番手でピタリとマークしていた4番人気(9対1)のシースタック Ceisteach が第4コーナーで外から逃げ馬を捉えると、内から伸びる2番人気(9対2)クィーンズ・パレード Queen’s Parade の猛追を頭差凌いで優勝。キッテンズ・ポイントも徐々に順位を押し上げましたが、4分の3馬身及ばず3着まで。
トーマス・プロクター厩舎、チャニング・ヒル騎乗のシースタックは、名前から想像できるように、アイルランドでジム・ボルジャー師が管理していた馬。アイルランドでは2歳時にリステッド戦で2着した経験もありましたが、アメリカに転売されてからは5戦3勝。前走チャーチル・ダウンズ競馬場の一般ステークス(キールターナ・ステークス)でこの日モデスティーに勝ったウォーク・クローズを破って穴を空けましたが、それがフロックでは無かったことを証明しました。

そしてデラウエア・オークス Delaware Oaks (GⅢ、3歳牝、8.5ハロン)。去年までGⅡ戦でしたが、今年からGⅢに降格されての一戦。fast の馬場に8頭が出走しましたが、何と言ってもケンタッキー・オークス制覇以来となるラヴリー・マリア Lovely Maria が1対5の断然1番人気。休み明けが唯一の不安材料でしょう。
逃げたのは最低人気(50対1)のカラミティー・ケイト Calamity Kate 、他の有力馬が大本命のスパートを待っていたという利点もあったでしょうが、漸く7番手から追い込む3番人気(8対1)ピース・アンド・ウォー Peace and War に1馬身4分の3差を付けるショッキングな逃げ切り勝ち。3馬身差で4~5番手を追走した6番人気(25対1)のヒップ・ホップン・ジャス Hip Hop N Jazz が3着に飛び込み、ラヴリー・マリアは5着に敗れる大波乱となりました。ラヴリー・マリア陣営からは弁解の弁は出されていません。
ケリー・ブリーン厩舎、エドガー・プラード騎乗のカラミティー・ケイトは、2歳時にドモワゼル・ステークス(GⅡ)で2着したこともある馬。2走前のアローワンス戦に勝った後、前走エイコーン・ステークス(GⅠ)では出遅れたこともあって8頭立ての6着に敗れていました。人気が無さ過ぎた、と言えなくもありません。

今週のアメリカG戦、最後はロス・アラミトス競馬場のグレート・レディー・M・ステークス Grat Lady M. S (GⅡ、3歳上牝、6.5ハロン)です。たった2週間の夏開催、最後を締めくくるG戦ですが、これが新設なのか、あるいはハリウッド競馬場で行われてきたア・グリーム・ハンデ A Gleam H が移管されたものかは不明。今後調べてみましょう。1頭が取り消して8頭立て。G戦は初挑戦ながら前走サンタ・アニタの条件ステークス(カリフォルニア産馬限定のスプリング・フィーヴァー・ステークス)を快勝したキャリアの浅い4歳馬サンデー・ルールズ Sunday Rules が6対5の1番人気。
これもステークス勝馬で6番人気(19対1)のアマランス Amaranth が逃げ、サンデー・ルールズは2番手を追走。直線に向いて直ぐにサンデー・ルールズが先頭に立ちましたが、中団から一気に前との差を詰めてきた2番人気(5対2)のファンタスティック・スタイル Fantastic Style が、その名前の通り一気に突き抜けると、後方から追い込む4番人気(10対1)のリヴィング・ザ・ライフ Living The Life に3馬身半差を付ける圧勝。更に3馬身4分の1差でサンデー・ルールズは3着に終わりました。
ボブ・バファート厩舎、ラファエル・ベハラノ騎乗のファンタスティック・スタイルは、これが古馬との初対決となる3歳馬。アメリカでも3歳が優位なのかもしれません。G戦は3着に終わったキーンランドのボーモント・ステークス(GⅢ)に続く2戦目で、前走サンタ・アニタの一般ステークス(エンジェルズ・フライト・ステークス)を含めてこれが5勝目となります。今年のBCフィリー・アンド・メア・スプリントの台風の目になるかも。

 

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