日生劇場「ウィーン気質」

今年はオペラ観戦に縁があって、昨日(11月21日、土曜日)は先週に続いて有楽町の日生劇場に出掛けました。今回は東京二期会主催のオペレッタ「ウィーン気質」の初日、私がオペレッタを見るのは何年振りでしょうか。

ヨハン・シュトラウスⅡ世/喜歌劇「ウィーン気質」
 ギンデルバッハ侯爵/久保和範
 ツェドラウ伯爵/小貫岩夫
 伯爵夫人/澤畑恵美
 フランツィスカ・カリアリ/三井清夏
 カーグラー/鹿野由之
 ぺピ/高橋維
 ヨーゼフ/児玉和弘
 リージ/松原典子
 ローリ/北澤幸
 合唱/二期会合唱団
 ダンサー/西田健二、橋本由希子、吉田繭
 管弦楽/東京フィルハーモニー交響楽団
 指揮/阪哲朗
 演出/荻田浩一

二期会ではオペレッタ路線としてこれまでも数々の名作を取り上げてきましたが、私はこの分野はあまり得意ではなく、恐らく二期会のオペレッタは初体験だと思います。
かつて1970年代の終わりから80年代にかけてウィーンのフォルクス・オーパーが毎年の様に引っ越し公演を打ち、私もヨハン・シュトラウスを初めレハール、カールマンのオペレッタを次々とテレビ鑑賞、遂には「メリー・ウイドウ」だったか「こうもり」だったかをナマで体験したこともありました(忘れてしまうのがオペレッタか)。今回のウィーン気質もその一環で見た記憶があります。

多分それ以来のウィーン気質でしょう。そもそもこの作品はヨハンの真作オペレッタではなく、ワルツ王の名作を様々に組み合わせ、弟子筋に当たるアドルフ・ミュラーが完成させたものだったと記憶します。従ってシュトラウスの正式な作品目録には加えていない資料もありますね。
ストーリーはあって無いようなもので、音楽に合うように歌詞を付けたもの。そもそも目くじらを立てて鑑賞する必要もないのがオペレッタですから、気楽に出掛け、思うが儘に楽しんできました。

今回の公演では「プレミエ・キャンペーン」として先着200名にグラスワインのプレゼントというサーヴィスがありましたが、小生は前日にもお酒を飲む機会があり、「お迎え」にならないように今回は遠慮。
それは正解だったようで、ワインを引っ掛けたと思しき私の両隣は、第1幕の間中ずっと眠りこけていました(今回は第1幕と第2幕の間に休憩)。これもまた、オペレッタの楽しみ方の一つでしょう。

オペレッタでは台詞回しがストーリーを展開させていきますから、このやり取りが判らなくては話になりません。ということで、今回は日本語訳による現地語上演。最近では慣れっこになった字幕スーパーを見ながら原語上演とは一味違う舞台です。
残念ながら日本語は耳だけで聴いていると歌詞が判り難いもので、まずこの日本語歌唱に耳が馴染むのに時間が掛かりました。字幕スーパーの方が理解が速いのは皮肉と言うか、困ったものですナ。
歌は原語、台詞は日本語という解決策も考えられますが、オペレッタではお喋りがそのまま歌に流れ込んでいく場合もありますから、やはり今回のスタイルに落ち着くのが自然でしょう。

題名の通り、オペレッタの中心に据えられているのが円舞曲「ウィーン気質」のメイン・ワルツで、これは第2幕と第3幕の最後に登場します。他にも20曲以上のヨハン作品が登場しますが、確かヨゼフ・シュトラウスからも引用がある筈。中でもワルツ「酒・女・歌」の一節は、私も直ぐ聴いて指摘できました。
歌手たちはヴェテランから初めて聴いた若手までバランスよく選ばれていて、この分野でも日本オペラ界のレヴェル・アップが感じられました。以前の日本人オペレッタは学芸会の延長でしたが、この分野でも達者な歌手が増え、日本的なスタイルも生まれつつあるように感じます。

やや久しぶりになる伯爵夫人の澤畑恵美は、昔から様々な役で楽しませて貰いましたが、今回も流石に貫録と言うか、円熟した歌と芝居が光ります。ヴィブラートを大きめに取り、表現は不適切ながら誤魔化し方が実に見事。もちろん悪い意味で言っているのではなく、大女優の風格と言い換えておきましょうか。
こうしたノスタルジックな雰囲気もオペレッタには大切な要素で、ウィーンでの実績もある阪哲朗のタクトもこの辺りを的確に振り分けていたのが印象的。東フィルも、例えば第3幕冒頭の金管などは大昔の同オケを思い出させるようなノスタルジーがありましたが、阪氏の指導よろしく実に柔らかい響きを出していました。

演出の荻田は宝塚出身とのことで、時に応じ折に触れてダンサーを歌手に絡ませたり、合唱を横一列に動かしたりするところが如何にも宝塚的。これは私の先入観かも知れませんが・・・。
舞台装置も至って簡素なもので、台本では第3幕のヒーツィングには3つの四阿があることになっていますが、今回はテーブルやソファーなどで「ある積り」という設定でした。第2幕と第3幕は続けて上演されましたが、第2幕のフィナーレで合唱団が舞台前に壁を作り、その間に舞台上の配置を変更してしまう、という手法。

オペレッタではナンバーをカットしたり、途中に鋏を入れる上演が一般的ですが、私が確認出来た限りでは、今回はカットは一切無かったように思います。むしろ逆で、私が知っている過去の演奏では「ウィーン気質」ワルツの大合唱で幕を閉じましたが、本上演では最後に「酒・女・歌」のメロディーが室内楽風に静かに奏されて幕、となるもの。
このような処理が最近のウィーンでの流行なのかは知りませんが、少なくともクランツ社から出版されているヴォーカル・スコアには書かれていない無い終わり方。そういう意味では、完全版プラス、と記録される上演だったと思います。

と言うことで先週のドン・ジョヴァンニからは一転、正反対の何とも緩~い公演を見てきました。
なお、今回はA・B二つのキャストが夫々2公演づつ、25日の水曜日が千穐楽となります。

 

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