奥蓼科とエク
8月第1週の週末、室内楽ファンが向かうのは長野県茅野市にある蓼科隠れ山荘「むさし庵」と決まっていたものでしたが、去年はご存知の様にファースト西野が療養中と言うことで休止。我々も無聊を慰めるために新幹線開通前の函館で涼をとったものでした。
その1年を無事に乗り切り、サントリーのベートーヴェン全曲演奏会、ドイツ楽旅を完走したエク、2年振りに「チェルトの森 アフタヌーン・コンサート」を再開するとあって、8月の6日から7日にかけて蓼科に出掛けました。
これまで同様コンサートは土日の2日間、我々は初日を楽しみましたが、2日目のプログラムはヴェルディに替ってドヴォルザークのアメリカが演奏されています。
前半は2日間とも同じで、以下のもの。
モーツァルト/ディヴェルティメントヘ長調K138
ヤナーチェク/弦楽四重奏曲第1番「クロイツェル・ソナタ」
~休憩~
ヴェルディ/弦楽四重奏曲ホ短調
一昨年までは猛暑を避ける意味もあり、霧ヶ峰一泊・蓼科一泊というコースで参加してきましたが、今年は先月ドイツまで出掛けたこともあり、蓼科一泊のみという選択。家内の希望もあって、今年は新しい宿を探すことにしました。
で、選んだのは蓼科湖の先、ビーナスライン沿いにある「ピラタスの丘」というペンション部落の一軒であります。選んだ理由は判りません。近くまで行きながら縁が無かった北八ヶ岳ロープウェイに乗りたい、というのも理由の一つだったみたい。ハイデルベルクに刺激されたのかな?
ということで土日の行程、恐らく高速道路の渋滞必至ということで早朝5時過ぎには東京を立ちました。案の定中央高速は断続的に渋滞、それでも早く出たお蔭で午前10時過ぎには諏訪南インターで高速を降りていました。
あとはナビ任せ、風任せ、予約した宿に無事到着。ここから演奏会場までは車で50分ほどとナビが教えてくれたので、それまでは件のロープウェイを体験することに決定。
宿からロープウェイの麓駅までは車で10分。ロープウェイはほぼ20分間隔で出ており、山頂駅までは7分。山頂駅には坪庭という台地が広がっていて、高山植物を観察しながら散策すれば30分から1時間は掛かる由。
土曜日ということでかなりの混雑でしたが、標高1700メートルほどの山麓から一気に2200メートルほどの山頂へと500メートルも駆け上がります。この日地上は長野でも37度とか。さすがにここは涼しく、羽織るモノが一枚欲しくなるような天国でしたね。
それでも12時過ぎには会場に向かわなければ、ということで写真を何枚か撮っただけ。散策は殆どせずに下山します。ゆっくり楽しむのは次回(があるかどうかは判りませんが)ということにして、今回はお試しロープウェイということで切り上げました。
前置きが長くなりましたが、蓼科行は弦楽四重奏を楽しむのが目的。それを忘れちゃいけません。ドイツ以来の仲間、2年振りに蓼科で再開した人たち、もちろん初めての皆さんと挨拶を交わすうちにコンサートが始まります。
冒頭の爽やかなモーツァルトが終わると、メンバーがそそくさと譜面台と椅子を隅に押し遣ります。何事かと思っていると、大友チェロ一人が登場してやや長めのスピーチを始めました。
前回2014年夏以来の蓼科、その間にエクに起きた様々な「事件」についての報告。特にこの2年間はエクにとっても大波が寄せては退いた期間で、二つの大きな受賞、西野休演等々、全てを語るには時間が足りない位でした。
そうした万感の思いを籠め、大友肇のソロでバッハの無伴奏チェロ組曲第1番が全曲演奏されるというサプライズ。古民家を利用した空間に響く朗々たるチェロの音に、惹き込まれなかった人はいないでしょう。速目のテンポ、楽章間に休みを入れず一気に弾き切ったバッハに、益々大友ファンが増えたことと思います。
快い緊張が解れ、残る女性3人が加わってのヤナーチェク。ファースト西野による短い作品解説があり、「刺激的」なヤナーチェクが興味深く演奏されました。ベートーヴェンから引用されたというフレーズを打ち消すようなスル・ポンティチェロ、なるほど刺激的だぁ~。
休憩時にはゼーリゲンシュタットでの写真が閲覧できる仕掛けもあり、コンサートは後半へ。
ヴェルディが書いた唯一の弦楽四重奏曲は、西野氏によれば「ほとんど埋もれかかっている作品」。確かにナマ演奏で聴ける機会は貴重でしょう。私が土曜日を選んだのも、実はヴェルディが聴けるから。
作曲の経緯を読めば、やはりこの作品はアイーダを連想させますね。特に冒頭、セカンド山田が弾き始める第1主題はアイーダそっくり。エレガントに始まる第2楽章も、中間部で大きく盛り上がってハタと休止する辺りが如何にもオペラ的。
第3楽章は何と言ってもチェロが歌うトリオでしょう。この四重奏曲で印象に残る個所を一箇所だけ選べ、と言われれば文句無くトリオを挙げますね。
第4楽章はフーガ風のスケルツォ。オペラ作家とは言え、ヴェルディが“ズン・チャッ、チャッ”だけの人では無かったことを実感させてくれます。
最後は西野氏から若干の宣伝とお願い、もちろん感謝の言葉もあってアンコール。エクのアンコールはいつも意外性を宿すものですが、今回も全く予想外だったパーシー・グレンジャーのスコットランド民謡「岸辺のモーリー」弦楽四重奏版。
聴いてはもちろん、視覚的にも楽しいアンコールで、第6回エク蓼科音楽祭の初日を終えました。
演奏会のあとは、例年通り隣の部屋に移ってワインと軽食のサービス。終始和やかに話が弾み、また来年と再会を約しました。私共は、宿の主人から“6時には食卓に付いていたください”と釘を刺されていましたから、適当な所で暇乞い。
以上が今年のコンサートの簡単なレポートでしたが、今回は翌日の行動を少し書き留めておきましょう。
冒頭に書いた宿選びの理由。もう一つあったようで、それが奥蓼科にある「御射鹿池」(みしゃがいけ)に行くこと。私は良く知りませんが、この知られざる池は某テレビ・コマーシャルで有名になり、それ以来写真家たちの撮影スポットになっている由。何でも早朝だけ見られる朝霧を撮りにプロ、アマチュアを問わずカメラが列を成すのだそうな。
宿の主も写真好きで、聞けば車で40分ほど、朝は三脚がズラリと並びます。早朝は気温が5度まで下がるということで、朝霧は無理にしても取り敢えず現地を見てみよう、ということで朝食を済ませて速攻でチェックアウト。天下の撮影スポットを目指しました。
地理的に言えば「御射鹿池」はペンションの真南に当たりますが、南北を貫く道路が無いため、一旦ビーナスラインを下って市内まで降り、そこからメルヘン街道の更に南を走る県道を上る。この道を更に登れば奥蓼科の渋の湯に着くというロケーションで、ナビ通りに進むとなるほど三脚がズラリと並ぶ「みしゃがいけ」に到着。
家内も夢中になって何枚か撮っていましたが、何れブログにでもアップするんでしょう。
要するにこれは灌漑か何かのための人造湖で、プランクトンがいない。従って魚も棲まないので、湖面が汚れない。汚れないので辺りの風景が湖面に映って神秘的な風景を創り出す、と言うことですな。
私は遠慮しますが、道も判ったことだし、次回は4時起きして朝霧でも何でも撮りに来てください。
このあとは再びビーナスラインを蓼科湖に戻り、味を占めたペーターでハム・ソーセージをゲットし、渋滞に巻き込まれないように早目の帰京と相成った次第。
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