SQWガラ・コンサート ~クァルテットの祭典~
今年、晴海の第一生命ホールと、開館と同時にスタートしたNPO法人トリトン・アーツ・ネットワークが10周年を迎えます。それを記念したSQWガラ・コンサートが昨日開催されましたので、思いっ切り楽しんできました。
金曜日の冷たい雨が止み、小春日和を取り戻した首都圏の和やかな午後の一時、これ以上無い雰囲気でコンサートの開始ベルが鳴ります。いつもは最初にプログラムの全貌を書き出しますが、今回は会の進行順に実況中継と行きましょうか。
客席はガラという賑やかさもあって、見た目8割くらいの入り。SQWの例会もこの位入ってくると良いんですが・・・。(いつもはガラガラ、なんて悪い冗談ですぜ)
もちろん常連さんの顔も多く見られましたが、普段とは少し異なる雰囲気です。
最初は裏方を務めるNPO法人トリトン・アーツ・ネットワークのディレクター・田中玲子氏が挨拶、途中で今回のガラ・コンサートをコーディネートした古典四重奏団のチェリスト・田崎瑞博氏が加わって会の主旨や経緯が紹介されました。
本日の出演は、中核としてSQWシリーズを引っ張ってきた3団体と、ゲストとして来日中のカルミナ四重奏団。前半は各団体が独自に選んだ十八番を披露し、後半は3団体入り乱れての混戦という内容ですね。
“では、お楽しみ下さい”
トップ・バッターは、エルデーディ弦楽四重奏団。改めてメンバーを確認すると、第1ヴァイオリン/蒲生克郷、第2ヴァイオリン/花崎淳生、ヴィオラ/桐山建志、チェロ/花崎薫 の諸氏。
最初に演奏されたのは、ホフシュテッター(伝ハイドン)/弦楽四重奏曲ヘ長調作品3-5「セレナーデ」~第2楽章。
団体名にハイドンの四重奏曲集の名前を冠していることでも判るように、SQWでもハイドンを集中的に取り上げてきました。ハイドンは名刺代わりですが、真作ではないところが皮肉になっています。
蒲生ファーストの美しい音色にウットリ。
続いて取り上げたのが、ヒンデミット/ミニマックス~弦楽四重奏のための軍楽隊のレパートリー~より5曲。
恐らくほとんどの人が初めて耳にする音楽でしょう。こんな作品があるのか。そう言えば読響が似た趣向の曲をやりましたっけ。
今回は曲集から5曲が選ばれたようで、次の順で演奏されました。
1.軍隊行進曲606「ホーエンフュルステンベルガー」
2.序曲「ヴァサーディヒターとフォーゲルバウアー」
3.ドナウ水源の夕べ
5.2羽の陽気なくそムクドリ(キャラクター・ピース)
6.アルテカルボナーデン(行進曲)
最初は真面目に始まりますが、時々妙な音が。初めて聴く人は“この団体下手だなぁ。音がずれてるじゃない”と思ったのは瞬時のこと。直ぐにパロディーや冗談であることが判る仕掛け。最初の一品の後で拍手もパラパラと起こります。
途中の拍手が実はミソで、見事にスッペをパロった第2曲が終わるとセカンドとヴィオラはお辞儀をして舞台裏に下がってしまいます。仕方なしにファーストとチェロが3番目を始めますが、直ぐに客席の後ろからラッパを模した弦の音が。
全てこんな調子で、客席は笑いの渦。真面目なエルデーディが極めて真面目に演奏しているので、可笑しさは倍増しましたね。大拍手。
舞台は照明が落とされ、椅子と譜面台が替えられます。後で判るのですが、椅子と譜面台は団体によって全て違うんですな。素人考えでは同じものを供用しても良いように思いますが、そこはプロ。拘りがあるんですねぇ~。尤も座高が人によって違うから、という説もあったりして。
二番目は、古典四重奏団。メンバーは、第1ヴァイオリン/川原千真、第2ヴァイオリン/花崎淳生、ヴィオラ/三輪真樹、チェロ/田崎瑞博 の諸氏。
こちらも2曲で、最初はバルトーク/ルーマニア民俗舞曲集(弦楽四重奏版)。
古典は先日もバルトーク・チクルスに取り組んだばかりで、その流れ。弦楽四重奏への編曲はもちろん田崎氏。途中でスコドゥラトゥーラなんかあったりして、凝ってるゾ。
もう一つ編曲もので、ドビュッシー/亜麻色の髪の乙女(弦楽四重奏版)。
これも田崎編曲版。ピチカートだけになる個所もあって、弦で聴く亜麻色も中々の味わい。
再び暗転し、クァルテット・エクセルシオ登場。こちらのメンバーは、第1ヴァイオリン/西野ゆか、第2ヴァイオリン/山田百子、ヴィオラ/吉田有紀子、チェロ/大友肇 の諸氏。
演奏曲目は、幸松肇/「弦楽四重奏のための日本民謡」より「さんさ時雨」「五木の子守唄」「八木節」。
作曲者、というか編曲者の幸松氏はエクセルシオと強い絆で結ばれている間柄。氏の2集(各4曲)ある日本民謡集から3曲が取り上げられました。各曲とも照明を替え、各民謡に相応しいステージの演出付です。
最後の八木節では奏者自身が掛け声を発する楽しい一品。プログラムによると、幸松編は最近第3集が出版された由で、いずれエクの演奏で聴けるでしょう。これも楽しみ。
前半のトリは、カルミナ四重奏団。実は今日(11月13日)も彼らを聴く予定ですが、メンバーは第1ヴァイオリン/マティーアス・エンデルレ、第2ヴァイオリン/スザンヌ・フランク、ヴィオラ/ウェンディ・チャンプニー、チェロ/シュテファン・ゲルナー の諸氏。
プログラムに予定されていたのとは逆に、最初はヴォルフ/イタリアン・セレナーデ ト長調。
続いてシューベルト/弦楽四重奏曲第12番ハ短調「四重奏断章」が演奏されました。
いずれも彼らがアンコールとして、またコンサートでプログラム全体のバランスをとる時に演奏してきた由。どちらも単一楽章ながら、本格的な四重奏作品です。
以上が前半。どれも通常のコンサートでは取り上げられない作品ですが、団体夫々の個性が実に良く出ていましたね。聴いていてクァルテット個々の性格がハッキリ区別できるし、選んだ作品も夫々の方向性が明瞭に出ていることに感心しました。
休憩を挟んで後半。その前に3団体のチェリスト3名が登場し、軽いトークで会場を笑わせます。“皆さん、お楽しみいただいてますか?(拍手)”
困ることってありませんか? 食事なんかどうしてます? という話題に、滅多に見られない3人の素顔。
後半は、どちらかと言うと地味な存在である第2ヴァイオリン奏者がソリスティックに活躍する二重奏で始まります。古典の花崎淳生と、エクの山田百子のお二人。これで3団体のセカンドはオールキャストですな(笑)。
演奏されたのはバルトーク/「44の二重奏曲」より 第44番「トランシルヴァニア舞曲」、第28番「悲しみ」、第43番「ピッチカート」、第36番「バグパイプ」、第11番「子守歌」、第42番「アラビアの歌」。
たとえ二重奏とは言え、古典とエク、あるいはエルデーディとエクの違いが見事に出ているのは可笑しかったですね。二人が合わせたのは当日の朝だったとか。お互い忙しいスケジュールを縫ってのリハでしょ、流石プロというべき。
続いてはチェロ・トリオ。先ほどのお笑い3人組の登場です(花崎薫・大友肇・田崎瑞博)。
弾いたのは、ハイドン/トリオ ニ長調(バリトン・トリオ)。これも3人の個性、楽器の違いが楽しめて貴重な体験でした。二重奏にしてもトリオにしてもガラなればこそ。当分、もしかすると二度と聴けない貴重な時間だったかも。
そして最後は、古典四重奏団、エルデーディ弦楽四重奏団、クァルテット・エクセルシオが入り乱れての舞台。
弾かれるのは、ターサ=キンスキー/ラズモズクスキー弦楽四重奏曲第1番ヘ長調作品599-1、第2番ホ短調作品599-2、第3番ハ長調作品599-3。
今回が世界初演で、作曲者に問い質した所でも再演はほぼ無い、というゲテ、おっと失礼、レアものです。
舞台には四重奏のセットが3組置かれ、舞台に向かって右(上手)から、エルデーディ、エクセルシオ、古典と並びます。先ずメンバー10人が登場し、答礼して着席。
そこに馬鹿デカい蝶ネクタイを付けたターサ=キンスキー(田崎んすきー)氏がヴァイオリンを手に登場、颯爽と弾き始めようとすると、エクがラズモフスキー第1を開始してズッコケるというコントで始まります。
以下、著作権に触れるので省略。ラズモ3曲が夫々3つの楽章として、古今の名作を連想させながら華やかに進みます。くノ一セカンドの花崎女史は上手と下手を行ったり来たり。
開場は笑いに包まれ、3番の最後には再び作曲者? がヴァイオリンでカデンツァを名演!! コーダは聴衆の手拍子に乗ってフーガ主題が堂々と奏され、ジャン、ジャン、ジャ~~ァンと大見得を切るのでした。
キンスキー氏は思わず“ワォ~ッ” と奇声を上げ、客席で腹を抱えていたカルミナの4人も舞台に上がり、珍奇なるガラの華やかな幕が下ろされました。
コーディネーターの本会に掛ける情熱は底なし。プログラム誌には新作に借用されている曲目のリストが隠されており(個人情報が記されたハガキなどで使われている捲って見る仕掛け)、見てから聴くか、聴いてから見るか。とか・・・
また終演後のホワイエには、新作の作曲家自身の自筆楽譜がいかにも古めかしく装丁されて掲示されているとか・・・。
こういうコンサートは終わったら真っ直ぐ帰るというワケにはいきませんね。
顔馴染みのファンと感想を交わしたり、プレイヤー諸氏と談笑したり、アフター・コンサートも実に楽しい時間でした。
こうした時間を過ごせるのも、足繁くクァルテットに通っているから。演奏会通いが無かったらお互いに面識もなく一生を終えた人達です。
その意味では、音楽は絆の接着剤のような役割だと思います。百年にも満たない人生で、時にはこうした楽しい時間、何に気兼ねもなく笑える刻があって良いでしょう。
次のガラは何時かな?
最近のコメント