アイルランド、シーズン最後のGⅠたち
この土・日、アイルランドはチャンピオン・ウィークエンドと題してレバーズタウンとカラーで合計10鞍のG戦が行われ、その半分はGⅠ戦でした。
アイルランドのGⅠ戦は全部で12鞍。5月から8月までの4か月間でやっと7鞍を数えてきたものが、9月初旬の2日間だけで5鞍が消化されることになります。彼の地ではこれでGⅠ戦の日程は全て終了、残すは落穂拾いのようにGⅡ戦一鞍とGⅢ戦が数鞍残るのみとなりました。
さて9月11日、日曜日のカラー競馬場も good to yielding の馬場に5鞍のG戦。皮切りはブランドフォード・ステークス Blandford S (GⅡ、3歳上牝、1マイル2ハロン)で、1頭が取り消して5頭立て。3歳上の条件ですが、古馬は1頭も参加せず全て3歳馬となってしまいました。前走コークでギヴ・サンクス・ステークス(GⅢ)に勝ったオブライエン厩舎のベスト・イン・ザ・ワールド Best in The World が5対4の1番人気。もちろんライアン・ムーアとのコンビです。
2番人気(2対1)のシャムリーン Shamreen が逃げ、ベスト・イン・ザ・ワールドは3番手を追走。本命馬が次第に逃げ馬を追い詰めましたが、粘るシャムリーンは最後まで譲らず、ベスト・イン・ザ・ワールドに半馬身差を付ける逃げ切り勝ちでした。3馬身4分の3差で後方から追い込んだ3番人気(6対1)のサンタ・モニカ Santa Monica が3着。
まんまと逃げきったシャムリーンはデルモット・ウェルド厩舎、パット・スマーレン騎乗。前走ギヴ・サンクスではベスト・イン・ザ・ワールドの4着でしたから、ここで雪辱を果たしたことになります。その前はミュンスター・オークス(GⅢ)で2着、更に前はゴウラン・パークで一般戦に2連勝しており、これがG戦初勝利。オーナーはアガ・カーン殿下です。
続いてはアイルランドの短距離では最後のGⅡ戦となるフライング・ファイヴ・ステークス Flying Five S (GⅡ、3歳上、5ハロン)。去年からGⅡに格上げされただけあって、1頭が取り消しても13頭立て。去年のこのレースの1着から4着までが全て参戦してきましたが、人気は勝ったソール・パワー Sole Power (8対1、5番人気)ではなく、4着だったトスカニーニ Toscanini 。その後の成長が勝馬を上回り、前走フェニックス・スプリント(GⅢ)を制して4対1の1番人気です。
去年の3着馬で3番人気(5対1)のテイク・カヴァー Take Cover が逃げ、トスカニーニは2番手追走。3ハロン地点で先頭に立ったトスカニーニでしたが、早くも一杯。替わって後方に待機した9番人気(16対1)の伏兵アードフーメイ Ardhoomey と、同時にスパートした2番人気(9対2)のワシントン・ディーシー Washington Dc が一気に追い上げ、最後はアードフーメイがワシントン・ディーシーを半馬身抑えるサプライズとなりました。1馬身4分の3差で中団グループの後ろに付けていた12番人気(50対1)のイフラネシア Iffranesia が3着に入るという波乱で、トスカニーニは12着大敗に終わっています。ソール・パワーも7着で連覇成らず。
ゲール・ライオンス厩舎、コリン・キーン騎乗のアードフーメイは、去年3歳の5月から13戦連続で最短距離の5ハロンに徹してきた4歳馬。シーズン初めにハンデ戦に3連勝し、前々走のサファイア・ステークス(GⅢ)で5着だったのが唯一のG戦経験。このレヴェルのG戦を勝つと予想する人はほとんどいなかったのではないでしょうか。今後、そして来シーズンは注意。
ここからがアイルランド・シーズン最後となるGⅠ戦の3連発。第一弾のモイグレア・スタッド・ステークス Moyglare Stud S (GⅠ、2歳牝、7ハロン)は7頭立てでしたが、オブライエン・ファミリーの馬が5頭と言う独占状態。より取り見取りの期待馬からライアン・ムーアが選んだプロミス・トゥー・ビー・トゥルー Promise To Be True がイーヴンの1番人気。2戦2勝、前走シルヴァー・フラッシュ・ステークス(GⅢ)を制したクラシック候補で、去年の勝馬マインディング Minding に続く1頭と期待されています。
同じオブライエン厩舎で前走デビュタント・ステークス(GⅡ)2着、パドレイグ・ベギーという若手が騎乗して3番人気(7対1)のハイドランジア Hydrangea が逃げ、これを2番手で追走した最低人気(25対1)のイントリケイトリー Intricately の争いとなり、写真判定の結果、イントリケイトリーがハイドランジアを短頭差で差し切って、またしてもサプライズ。1番4分の3差で3番手を進んでいた2番人気(5対2)のロードデンドロン Rhododendron がそのまま3番手で流れ込み、4番手に付けていたプロミス・トゥー・ビー・トゥルーは馬名とは裏腹に5着と期待を裏切ってしまいました。
勝ったイントリケイトリーは、オブライエン・ファミリーでも息子ジョセフ・オブライエンの管理馬で、騎乗していたのは弟のドンナチャ・オブライエン。ジョセフにとってもドンナチャにとっても、これが記念すべきGⅠ戦初勝利となりました。2・3着は前走デビュタント・ステークスの2・1着馬で、その時3着だったのがイントリケイトリーです。
ゴウラン・パークでデビュー勝ちし、シルヴァー・フラッシュとデビュタントで続けて3着。ここまで父エイダンの馬たちの後塵を拝してきましたが、頂点のGⅠ戦での逆転劇です。前走で負けていたとは言え、着差は1馬身。25対1というオッズは低く見積もられ過ぎたということ。この結果、父も満足しているようでした。
その父が流石という馬を見せつけたのが、ナショナル・ステークス National S (GⅠ、2歳牡牝、7ハロン)。7頭が出走し、来年のクラシック候補の1・2番手に挙げられているチャーチル Churchill が4対5の1番人気。鞍上ライアン・ムーアはブランドフォードとモイグレアで共に本命に乗りながら勝てず、漸くフライング・ファイヴでは2番人気の馬で2着。こここそ、という思いはあったでしょう。
大本命のペースメーカーを務める6番人気(40対1)でドンナチャ騎乗のランカスター・ボンバー Lancaster Bomber が逃げてペースを作り、チャーチルは3番手から。残り2ハロンから進出したチャーチル、6番手から追い込む2番人気でデットーリを背に英国から参戦してきたメーマス Mehmas との一騎打ちとなりましたが、7ハロンと言う距離が明暗を分けたか、チャーチルがライヴァルに4馬身4分の1差を付ける完勝となりました。2番手を進んでいたこれも英国馬で4番人気(11対1)のロッキード Lockheed が首差で3着。ジュライ、リッチモンドと何れも6ハロンのGⅡ戦に連勝していたハノン厩舎のメーマスでしたが、やはり伸びた1ハロンが敗因と見て間違いないでしょう。
デビュー戦こそ3着だったチャーチル、その後は既報の通りリステッド、GⅢ、GⅡと3連勝し、遂に4連勝でGⅠのタイトルを獲得しました。来年の2000ギニーのオッズは、レース前の6対1から5対2に一気に上昇して現時点の本命。ダービーのオッズも20対1から6対1に急上昇しています。
同馬の牝系にはスプリンターが多いこともあって、オブライエン師はチャーチルをギニー・タイプと見ています。ムーア騎手は1マイル4分の1までは問題ないと述べていますが、果たしてどうなるでしょうか。去年のナショナル・ステークスを制したエア・フォース・マーシャル Air Force Marshall のその後については触れますまい。いずれにしても来年の2000ギニー、オブライエン師がチャーチルとカラヴァッジョ Caravaggio をどう使い分けてくるのかに注目が集まります。
そしてアイルランドのGⅠ戦線の掉尾を飾るのが、アイリッシュ・セントレジャー Irish St Leger (GⅠ、3歳上、1マイル6ハロン)。それにしては2頭が取り消して4頭立てと寂しいレースになってしまいました。去年のこのレース、今年のアスコット・ゴールド・カップを含めて6連勝中のオーダー・オブ・セント・ジョージ Order Of St George が、まず負けることは考えられないということで、1対7という馬鹿々々しいほどのオッズで1番人気。ナショナルでフラストレーションを晴らしたムーアがGⅠダブルを目指します。
先ず飛び出したのが、3番人気(11対1)のウィックロウ・ブレイヴ Wicklow Brave 、本命馬は最後方を悠然と進みます。ムーアの手が動き始め、オーダー・オブ・セント・ジョージも徐々に順位を上げてきましたが、快調に逃げるウィックロウ・ブレイヴとの差は思ったように縮まりません。結局、歓声が悲鳴に変わる中、3番人気の馬が大本命に半馬身の差を付けて逃げ切ってしまいました。2番人気(10対1)で一昨年のゴールド・カップ覇者トリップ・トゥー・パリ Trip To Paris が3着とはいえ16馬身差でしたから、本命馬が走らなかったというより、勝った馬が走ったというべきでしょうか。いずれにしてもペースメーカーを出さなかった(ユニコーン Unicorn が取り消したので出せなかったのか)ことが悔やまれるかも。
典型的な「荒れる小頭数」を演出したウィックロウ・ブレイヴは、本来は障害馬の調教師であるウィリー・マリンズ師の管理馬で、ランフランコ・デットーリ騎乗の7歳せん馬。マリンズ師ににとってはクラシック初制覇(厳密な意味ではクラシックと呼べませんが)で、デットーリの頭脳プレイが光りました。
このあとの予定として、アスコットのチャンピオンズ・ロング・ディスタンスに16対1、メルボルン・カップには20対1のオッズが出されました。2走前のグッドウッド・カップ(GⅡ)が4着、前走ロンスデール・カップ(GⅡ)でも3着とそこそこ走っていた典型的なステイヤーです。
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