日本フィル・第327回横浜定期演奏会

日本フィルの5月定期は、先月に続いて首席指揮者ピエタリ・インキネンの指揮。もちろん4月からずっと日本に滞在していたわけではなく、その間は別の仕事で他国を飛び回っていたはず。
航空機が無かった、あるいは発達していなかった時代は首席指揮者が年間を通して演奏会を振っていたものですが、今はそんな時代じゃありません。インキネンにしてもチェコ、ニュージーランド、ドイツと主要ポストを兼任して忙しく飛び回っているのは、時代の産物でしょう。

ということで5月の横浜は、先月に続いて≪ブラームス・ツィクルス≫の3回目。東京定期との組み合わせで取り上げてきたブラームス交響曲全集の最終回となりました。

リスト/交響詩「レ・プレリュード」
リスト/ピアノ協奏曲第1番
     ~休憩~
ブラームス/交響曲第1番
 指揮/ピエタリ・インキネン
 ピアノ/田村響
 コンサートマスター/扇谷泰朋
 フォアシュピーラー/千葉清加
 ソロ・チェロ/菊地知也

客席には横浜会員以外の顔もチラホラ見られ、インキネンのブラームスを完走したファンも多かっただろうと思慮します。
今回もプレトークは奥田佳道氏。従来の定説を見直す立場から、様々な視点で多層的、対位法的な解説で新しいファンも、古株もブラームスの世界に誘ってくれました。
前回はレ・ファ・ラの世界に包まれるという予告、今回はド・ミ・ソの響きという解説。なるほどインキネンの拘りを伝達してくれる話題です。今回の3曲は、見方は様々なれど4つの部分で構成されている、という極秘?情報も。

ということでリストから。インキネンが拘る対抗配置、じやなかった対向配置が最も効果を挙げるというレ・プレリュード、それが何処だか判りましたか?

2曲目は同じリストのピアノ協奏曲。メッキリ貫録を増した田村氏、プログラム解説に2007年に20歳でロン・ティボー国際コンクール優勝と紹介されていたのを見て、“これ、ミスプリじゃないかしら”と思った方もいたほど。
いえいえ、間違いじゃありませんよ。彼は12が生まれですから、年齢は計算通りです。
故中村紘子氏が絶賛したように、またロン・ティボーで優勝した実績の通り、田村ならではの美しい響きと、今や懐かしくさえなった独特の節回しがリストの別の面を引き出します。バリバリと、テクニックに任せて弾きまくるリストじゃ決してありません。

それはアンコールで弾かれたショパン(華麗なる大円舞曲 変ホ長調!! 作品18-1)では猶更のこと。これ程抒情性に溢れたショパンを弾く日本人ピアニストは稀でしょう。さすがロン・ティボーで評価された人。

後半は、ブラームスの交響曲では最も人気のある第1番。
これまで楽しんできたインキネンのブラームス、いやドイツ音楽の総決算とでも呼べる演奏で、第1楽章の冒頭、両極に当たる終楽章の最後の和音が、何れもコントラバスの「ヅーン」という響きから入る所にインキネン/ブラームスの全てが集約されていました。
この音こそ、インキネンが日本フィルに求めているもの、新たに移植しようと試みている響きで、古き良きウィーン・フィルやベルリン・フィルのブラームスを蘇らせたかの感動がありました。もちろん若きマエストロの新しい感性が加えられていることは当然です。

久し振りにゲストとして演奏に加わった日橋くんのホルンが実に安定し、素晴らしかったことを付け加えておかなければならないでしょう。

アンコール、そしてブラームス・ツィクルスの締めは、ハンガリー舞曲の第5番。このプログラムは前日の埼玉、翌日の杉並と3度披露され、愈々東京定期の「ラインの黄金」へと引き継がれます。

 

 

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