日本フィル・第181回サンデーコンサート

昨日は、一昨日に続いてラザレフ/日本フィルの連荘です。会場は池袋に替わって、東京芸術劇場。
「サンデーコンサート」のレポートは初めてだと思いますが、このシリーズそのものに出掛けたことも初めてかもしれません。
オーケストラには申し訳ないけれど、このシリーズは私のような天邪鬼には食指が動かない出演者・曲目が多いのです。
しかし今回は別。チケット売り出しと同時に手配したものですから、1階中央の良席で楽しみます。
リスト/交響詩「レ・プレリュード」
リスト/ピアノ協奏曲第1番
     ~休憩~
チャイコフスキー/交響曲第4番
 指揮/アレキサンドル・ラザレフ
 ピアノ/小山実稚恵
 コンサートマスター/木野雅之
メインのチャイコフスキー、実はラザレフで聴くのは今回が3度目です。特に前回の読売日響との共演は去年の6月でしたから、まだ半年しか経っていません。
それでも出掛けたのは、何度でも聴きたくなる魔力を秘めたラザレフの指揮にあります。
私の日記から前回のその部分をコピペすると、こんな具合。
『この独特な弱音囁きは、第1楽章の134小節目から、ベン・ソステヌート・イル・テンポ・プレセデンテ。第4楽章なら157小節からの民謡主題にフルートが絡まる、そのヴァイオリンのテーマの歌わせ方。
これとは対照的に、強音は徹底して盛り上げます。驚きを通り越して、もう笑うしかないほどに痛快だったのが全曲の最後の大クライマックスでしょう。
フォルティッシシモの頂点ですら、3段ギアーを使ってヒート・アップ。楽譜にそんな指示はないけど、音楽がそれを要求している。その説得力。
最後の最後は空手チョップ10連発でオケを煽り、最後は仁王立ち。“どぉだぁ~”』
この大袈裟な感想は、今回も全く同じ。いや、それ以上に徹底したものでした。
今回、椅子から飛び上がらんばかりに驚いたのは、第2楽章です。
オーボエ(如何にもオケのオーボエ、前日に続いて見事)の独白の後、練習記号Aからのフレージングの際立たせ方に「ラザレフ」を感じていた私は、冒頭の主題が回帰する第200小節、思わず事故が起きたのではと目を擦って、いや、耳をそばだててしまいました。
ここは第1ヴァイオリンが主題を回想し、木管楽器が「タリラリラ」という装飾音符で彩を添える場面。
何と、弦のメロディーが聴こえず、木管だけが・・・。
しかしこれは事故ではありません。ラザレフは弦の音量を極端に落とし(楽譜は p )、木管の装飾に主役を演じさせたのです。
これは第4楽章の第157小節からと同じであり、見事なシンメトリーを形作っているのだ、と聴きました。
読響との時は、ここまで徹底してはいなかったように記憶します。
思うに、読響は分厚い弦合奏が美点。対して日本フィルは分厚さとは無縁。むしろ薄い響きと称してもよいほどに質感の違いがあります。
ラザレフはこの特質を逆手に取ったのではないでしょうか。
最後のクライマックス3段ギアーは、 fff を基点として ffff → fffff にまでヒートアップ。空手チョップ10連発と最後の仁王立ちに客席は大喝采。
正にラザレフのチャイコフスキー第4は天下の聴きものなのです。
前半にはリストの代表作が2曲演奏されました。並べて聴いてみると、2曲には双子とも言えるほどに共通点があり、一つの素材を様々に変容させていくリストの作曲法が浮かび上がってくるのでした。
本来ならピアニストのショーピースとして聴こえる協奏曲が、ラザレフのバックにかかると、一編の交響詩に変貌する。
ソロの小山はいつもの通り。アンコールに「愛の夢」を取り上げましたが、ラ・カンパネラでないところが如何にも小山。賢明な選択でしょう。
ラザレフもアンコールを一つ。チャイコフスキーの「くるみ割り人形」から行進曲。思う存分笑わせてもらいました。
エッ、あの曲で笑う所あるの? と思われるあなた、もう一度楽譜を見るなりCDでチェックするなりして見てください。作品を新たな目で見直す眼力が問われることになりますから。
コンサートが全て終了。何度もカーテンコールに応えるラザレフは、両の親指を真っ直ぐに立て、それを“素晴らしいのは作曲家だ、そしてこのオーケストラの皆だ” と言わんばかりにオーケストラに向かって 突き立てます。
この日池袋に集まった聴き手たちはラザレフに魅了され、次のプロコフィエフも知らない人だけれど聴いてみようじゃないか、と思ったに違いありません。
ラザレフの、クラシック音楽をより多くの人に楽しんでもらいたい、決してクラシックは閾の高いものではない、ということをアピールしようとする姿勢に熱いものを感じたのは私だけではないでしょう。
粗探ししか感心がない批評家や一部のマニアを除いて、ほとんどの聴衆は満足してホールを後にしたはずです。

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