日本フィル・第326回横浜定期演奏会
先週渋谷でブラームス・チクルス第1回を披露したインキネン、昨日は横浜のみなとみらいホールで第2回を振りました。ブラームス・ツィクルスは全3回、最後は来月の横浜で締めとなります。
昨日はブラームスの2曲に、ニールセンの清新な協奏曲を挟む魅力的な以下のプログラム。
ブラームス/悲劇的序曲
ニールセン/フルート協奏曲
~休憩~
ブラームス/交響曲第2番
指揮/ピエタリ・インキネン
フルート/真鍋恵子
コンサートマスター/千葉清加
フォアシュピーラー/九鬼明子
ソロ・チェロ/菊地知也
横浜定期では批評家や音楽学者によるプレトークが恒例になっていて、今回は「奥田佳道のオーケストラガイド」。コンサートには開演時間ギリギリに来る会員さんも多く見られますが、日フィル横浜のプレトークは毎回新しいファンにも、ヴェテランの聴き手にも興味深い解説が満載。
プレトークなんて、と馬鹿にせず、開演40分前には着席してプログラムの聴き所を確かめておくことをお勧めします。是非是非・・・。
今回も先ずは、悲劇的序曲と第2交響曲の共通点について、という問題形式の開始。3つの共通点があるという話題ですが、私もいくつかは答えが判りました。全問正解ではありませんでしたが、種明かししちゃいましょうか。
①2曲ともチューバが使われること。
②どちらも初演は年末だったこと。
③長調と短調の違いはあれど、共にレを基本とするレ・ファ・ラの世界に抱かれるということ。
この3点は必ずしも偶然ではなく、例えば①については、1875年にウィーン・フィルに入団した16歳!のチューバ奏者ヴァルデマール・オットー・ブルックスと関係があるということで、これは私も初めて知りました。
更に深い話を知りたければ、早めに家を出てプレトークに間に合うように。残りは、聞かれたファンだけの間ということにしておきます。
オーチャードでの東京定期レポートでも紹介したように、インキネンが首席指揮者就任に当たってブラームス全交響曲を選んだのには理由があります。残念ながら第1回の渋谷ではホールの音響が思わしくなく今一の印象でしたが、流石に演奏し慣れている横浜は違いました。
悲劇的序曲の第1音、コントラバスからズシリと入る重厚な響きに、インキネンの意図が見事に表出されています。第2交響曲第2楽章冒頭の厚い低弦とホルンの重層的な響きも同じこと。インキネンによって日フィルの響きがよりドイツ的、いや普遍的な合奏体になっていることを早くも意識させてくれました。
中庸なスタイル、対抗配置の弦、奇を衒わないドイツ人指揮者以上にドイツ的なブラームスは、これ以上書くこともないほど。
もちろんメイン・ディッシュは素晴らしかったのですが、アンコールとして演奏されたハンガリー舞曲の第4番は圧巻。これは以前ラザレフも取り上げたアンコール曲ですが、それ以上に分厚い響きはホールを満たし、空間をうねり、これ以上無いほどの音楽充実感に満たされました。エッ、日フィルってこんなオケだっけ。
間に演奏されたニールセンは、1965年に日フィルが日本初演した縁の作品。実は私はこの初演をナマで聴いていて、その時はシカゴ響の首席ジュリアス・ベイカーが吹きました。
プログラムも実に凝っていて、冒頭はパーセルのアブデラザール組曲(ブリテンが青少年の管弦楽入門で使ったテーマ)、ニールセンを挟んで後半は黛敏郎の涅槃交響曲というもの。当時は日フィル以外では考えられないプログラミングでしたネ。
そのニールセンも、フルート協奏曲とは言いながらクラリネット、トロンボーン、ティンパニ、ヴィオラ・ソロが夫々のコンチェルトの様に活躍する2楽章作品で、この時に私はニールセンの不思議な世界に開眼(とまでは言えないけれど)したものでしたっけ。
今回は多分それ以来のナマ体験、クラリネット(伊藤寛隆)、バス・トロンボーン(中根幹太)、ティンパニ(エリック・パケラ)、ソロ・ヴィオラ(小池拓)も恐らく40年以上昔より遥かに腕達者なメンバー達で、改めてニールセンを堪能した次第。
もちろん初演を振った渡邉暁雄のDNAを受け継いでいるオーケストラ、その伝統を尊敬しているインキネンの好サポートを受け、日フィル首席の真鍋も見事に暗譜でこの難曲を吹き切りました。
アンコールを含めた演奏会が終わり、今回は横浜では初めてとなるマエストロ・インキネンのアフター・トーク。何を話すのか期待して待っていると、直ぐにマエストロ登場。
簡単に自身の経歴を紹介し、話題はこれからの日フィルの予定と、インキネンのコンセプト。
東京ではドイツ音楽の主流を取り上げ、それが基本であり全てであるという路線を続けますが、横浜はそれとは少し異なる方向の由。
ここではオーケストラの首席奏者たちに独奏の機会を提供し、オーケストラとしての更なる飛躍を目指して行くのが狙い。今回のフルート真鍋は皮切りで、来シーズンは千葉コンマスがドヴォルザークの協奏曲を演奏し、クラリネット伊藤とハープ松井久子がソリストとして登場してドビュッシーの没後100年を偲ぶ企画も。
バルトークの管弦楽のための協奏曲は、正にオーケストラ・プレイヤー達へのオマージュにもなることでしよう。
こうしてシェフ自らが献立を語ってくれることで、料理の味は更に旨味を加えるというもの。横浜レストランには全て通わなければ、という気持ちにも誘ってくれるインキネンでした。
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