ビフテキ、ビフテキ、またビフテキ

昨日の金曜日、上野の東京文化会館小ホールで行われたレクチャー・コンサートを聴いてきました。以下のもの。
東京文化会館レクチャーコンサート 「激動の時代と音楽シリーズ」
第2回 ロシア編
ラフマニノフ/「音の絵」より作品39-1、39-5
プロコフィエフ/ピアノ・ソナタ第7番変ロ長調作品83
ショスタコーヴィチ/ピアノ協奏曲第1番、第2番より抜粋
     ~休憩~
ムソルグスキー/組曲「展覧会の絵」
 ナビゲーター&ピアノ/小川典子
最初に断っておきますが、レクチャーコンサートのシリーズを聴くのが目的ではなく、あくまでも小川典子のピアニズムを楽しむために出掛けたものです。ですからそういう視点でのレポート。
このシリーズはかなり前から行われていた人気番組で、私も大分前にバロック・フルートの会とチェンバロの会に参加した記憶があります。内容はほとんど忘れました。
演奏者自らがテーマに沿った話、あるいは解説を加えながら音楽を楽しむという東京文化会館が主催する企画です。
そのためだけでもないと思いますが、この日は客席に東京文化会館の音楽監督ご夫妻(大友直人)の姿もありました。
さて世界を飛び回る小川典子にとって、このタイプのコンサートはお得意のもの。日本語に限らず英語でもレクチャーとピアノを兼ねたコンサートを無数にこなしてきています。
今日のテーマはロシア音楽ですが、彼女とロシア文化との接点、「激動の時代」というテーマも絡めて巧みな話術でピアノの真髄を堪能させてくれます。
内容は有り勝ちな教科書的・解説書風レクチャーではなく、作品解説にしても小川の実体験や演奏現場でのナマのエピソードが主体。決して肩の張るような固い話にはなりません。
本来の目的であるピアノ演奏。これも彼女としてもベストに属するのではないかと思われるほどの出来栄え。文化会館小ホールというリサイタルには最適な音空間を得て、ピアノ音楽、特にロシアのピアニズムの素晴らしさと凄さを満喫できましたね。
有名な展覧会の絵もそれぞれのピースの解説をするのでなく、「サミュエル・ゴールデンベルクとシュミーレ」、「カタコンブ」、「ババヤーガの小屋」に限って彼女にしか出来ない実体験に基づく聴きどころ紹介。これが実に説得力があり、実際のピアノ演奏でも心底納得してしまうのでした。
このムソルグスキーとプロコフィエフが特にこの日の圧巻。先日某所某ピアニストで聴いた同曲とは、大人と子供ほどの違いを見せ付けてくれました。
特にムソルグスキー、より有名な管弦楽版以上に豊かな色彩と圧倒的な音響。オーケストラ顔負けのダイナミックなピアノ演奏に大喝采が巻き起こります。
クールダウンは、チャイコフスキーの「四季」から4月「松雪草」。
小川に言わせれば、メインのプログラムは重量感を伴う正にビーフ・ステーキの連続。アンコールはサイコロ・ステーキに大根卸し添え、だそうな。
ビーフ・ステーキを「ビフテキ」などと表現する辺りも、彼女のキャラクターが良く出てますよね。
そうそう、後半の開始早々、どこから紛れ込んだかピアノの中に「虫」を発見、スタッフが登場してこれを除去するというハプニングがありました。
私が見た(虫そのものは見えませんでしたが)限りでは、恐らく蛾の一種でしょうか。上野は桜が多いのでアメリカシロヒトリかも知れません。
こういうハプニングすら客席を笑いに誘ってしまう。小川の頭の回転の良さ・速さであり、その英国仕込みのユーモアに感じ入った出来事でもありました。
(“ピアノの中に虫がいるんです”という表現にも、個人的には笑ってしまいました。この瞬間、ベルリン・フィルのティンパニストであるライナー・ゼーガースを思い浮かべてしまいました。判る人にしか判らない話ですけど)

 

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