藤原歌劇団公演「どろぼうかささぎ」

日曜日、藤原歌劇団によるロッシーニの歌劇「どろぼうかささぎ」の3日目、最終日を観てきました。都民芸術フェスティヴァル参加公演の一つです。
ロッシーニと言えばセヴィリアの理髪師、時々シンデレラという認識しかありませんでしたが、一昨年の「ランスの旅」で驚かされ、今回の「どろぼうかささぎ」でも感動。ロッシーニに対する認識は完全に改まりました。
このオペラ、序曲だけは知っていましたが、全曲の舞台上演は今回が日本初演。当日のプログラムと事前に行われたプレトーク(ランスの時と同様、朝岡聡氏)を頼りに楽しんできました。主な配役は次の面々、
 二ネッタ/チンツィア・フォルテ
 ジャンネット/アントニーノ・シラグーザ
 代官ゴッタルド/妻屋秀和
 フェルナンド/三浦克次
 ルチーア/森山京子
 ファブリーツィオ/若林勉
 ピッポ/松浦麗
 イザッコ/小山陽二郎
 その他
 管弦楽/東京フィルハーモニー交響楽団
 指揮/アルベルト・ゼッダ
 演出/ダヴィデ・リヴァーモア
このオペラ、題名から想像して軽いブッフォかな、と考えていましたが、もっとシリアスなもの。正式にはオペラ・セミ・セリアという分類に入るそうです。
オペラ・セミ・セリアとは何か、については書きません。いろいろ約束事があって、それにキチンと即しています。これについてはプログラムが充実していて、永久保存版ですね。ただ一言、セリアながら、ハッピーエンドです。
全体は2幕。それぞれ1時間半はかかりますから、途中の休憩25分を入れ、3時間半の舞台でした。午後3時開演、ホールを出たのは6時半を過ぎていましたからね。
オペラそのもの、ぜぇ~んぜん退屈しません。展開や終末が見えているとは言え、手に汗を握るような個所がアチコチに散りばめられています。
何より音楽が素晴らしい。私に言わせれば、ロッシーニこそオペラ作曲家の中のオペラ書き。持論ですが、知と情のバランスが取れている点で、ロッシーニのオペラこそ最高のエンターテインメントでしょう。後のヴェルディやプッチーニももちろん素晴らしいのですが、あれらは私には刺激が強すぎます。
今回の上演はダブルキャスト、私が見た組は2回公演がありました。主役の二ネッタとジャンネットには、イタリアから第一級の歌手を招き、他を日本人キャストが固めます。もう一組は日本人だけの組み合わせ。(こちらも見たかったなぁ)
フォルテ、シラグーザの二人が素晴らしかったことは当然ですが、本来の主役ではないかと思われるほど存在感があったのが代官役の妻屋秀和。上背はイタリアの二人をはるかに上回り、歌唱でも柔らかく、素晴らしく軽やかなバスを聴かせてくれました。先ず彼にこそ金メダルを・・・。
他も充実していました。オペラでは完璧なキャストというのは滅多にありませんが、今回はこれに近かったですね。
ズボン役の松浦麗。軽やかな演技で舞台を華やかに彩ってくれましたし、第2幕では二ネッタとの二重唱で絶妙な歌を聴かせてくれました。
ルチーアの森山京子。彼女も第2幕のアリアで喝采を浴びます。それにしても何と素晴らしいロッシーニの筆致。
二ネッタの父親フェルナンドを歌った三浦克次も存在感充分。第1幕の二ネッタ、代官との三重唱は唸らせました。バス二人とソプラノによる三重唱。音楽はあくまでもロッシーニでありながら、時にフィデリオ(ロッコ、ピツァロ、レオノーレ)やオランダ人(オランダ人、ダーラント、ゼンタ)を連想させてしまうあたり、実は極めて斬新な音楽を書いた大天才の姿が垣間見えてくるのでした。
その他、誰一人として不満、違和感を覚えるようなキャストはありませんでした。
忘れてならないのは隠れた主役・かささぎ。今回はイタリアの特別製だとか。リモコンで舞台上を飛び回るのですが、1・2幕で一度づつ盗みの瞬間が登場します。その時に“ピカッ”と光るんですね。
プログラムによると、かささぎの学名は Pica pica Linnaeus(1758) だそうな。正にピカ・ピカ。属名・種名ともピカ、命名は二名法の創始者リンネというのですから凄いです。おぉ、このオペラは勉強になるなぁ。
(このかささぎ氏、カーテンコールでは鷹匠ならぬ、鵲匠が装置と共に登場、かささぎを客席一杯に飛ばせて喝采を集めていました。操作はディミートゥリ・ロッシさん)
しかし何と言っても最大の功績は、ロッシーニの権威・ゼッダ氏。ロッシーニのオペラを多数本来の姿で復活させた学者でもありますが、それ以前に素晴らしい音楽家です。彼のブリオに満ちた音楽に乗って、東フィルも大健闘。
例えば有名な序曲。序奏がフェルマータで終了、やや休止があって主部のアレグロに入りますが、ゼッダはほとんど休止を置かず、間髪を入れずにアレグロに突入する。そのことで生まれる緊張感がオペラ全体を支配していくのですね。
実はこの序曲、第2幕の緊迫した遣り取りの音楽を使っているのですが、その場面と合わせ聴いてみると、ロッシーニの斬新さが理解されてくる仕掛け。冒頭の小太鼓連打の意味も、オペラ全体を見て初めて理解できるのです。
その他、幕切れ寸前に演奏される葬送行進曲の素晴らしいこと。ワーグナーはこれにヒントを得てジークフリートのために葬送行進曲を書いたのじゃないでしょうか。そのはるかな前身。
とにかくロッシーニは大天才。「どろぼうかささぎ」はその中でも大傑作でしょう。どうしてこれまで上演されてこなかったのか? 光を当ててくれたゼッダ師こそ称えられるべきでしょう。
今回見逃したみなさん、この日はたくさんのテレビカメラが舞台を取り囲んでいました。いずれNHK(多分)でオンエアされるでしょう。そのときは絶対に見逃さないように・・・。

 

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