札幌交響楽団・第511回定期演奏会

9月19日・金曜日、休暇を取って札幌交響楽団の定期演奏会・第1日目を聴いてきました。もちろん札幌コンサートホール・キタラでの公演です。以下のもの。
《特別企画》
ブリテン/歌劇「ピーター・グライムズ」(演奏会形式)
 指揮/尾高忠明
 ピーター・グライムズ/福井敬
 エレン・フォード/釜洞裕子
 バルストロード船長/青戸知
 アーンティ/小川明子
 姪1/鵜木絵里
 姪2/平井香織
 ボブ・ボウルズ/小原啓楼
 スウォロー/久保和範
 セドリー夫人/岩森美里
 ホレイス・アダムス/湯川晃
 ネッド・キーン/吉川健一
 ホブスン/三原剛
 合唱/札響合唱団、札響アカデミー合唱団、札幌放送合唱団
 合唱指揮/長内薫、大嶋恵人
 福指揮/長田雅人
 コンサートマスター/大平まゆみ
今年は日本とイギリスの外交関係が結ばれて150年を迎えます。今回の特別企画は、駐日英国大使館とブリティッシュ・カウンシルが開催しているUK-Japan 2008 が公認しているイヴェントで、プログラムには駐日英国大使デイヴィッド・ウォレン氏の祝辞も掲載されていました。
尾高マエストロはBBCウェールズ交響楽団の桂冠指揮者でもあり、承知の通り、かつて読売日響でも「ピーター・グライムズ」を演奏会形式で演奏した経験もあります。今回の札幌初演、正に人を得た公演ですね。
これは単に札幌での演奏と言うに止まらず、日本全国区としても話題になる公演であることは間違いないでしょう。
全3幕、第1幕と第2幕の間、第2幕と第3幕の間に休憩が15分づつ入りますので、6時半開演。平日公演の初日はサラリーマンには厳しいのでしょう、2幕から来た人、帰りが遅くなるので2幕までで帰った人もいたようです。
それでも8割ほどの入りでしょうか。いつもと比べてどうなのかは判りません。
6時からはロビー・コンサート。ドヴィエンヌのファゴット四重奏曲ハ長調作品73-1という珍しい室内楽が演奏されていました。
さて私がチケットを入手したのはギリギリ、1階3列7・8番というのはいかにもステージに近く、あまりにも左端に寄り過ぎています。良い席はほとんどが定期会員で占められているのでしょう、止むを得ません。
しかし今回は設置されている字幕スーパーは見難いし、歌手はオーケストラの最奥部に一列に並びますので、これもほとんど見えません。オケの管楽器も絶望的。辛うじて指揮者と第1ヴァイオリン、P席の合唱団だけが見渡せます。
さすがのキタラでも、ここでは音響の良さも効果は半減。その意味では公演の素晴らしさが半分くらいしか伝わってこない憾みはありました。
それでも作品の素晴らしさ、出演者全員の熱意、尾高の熱い指揮は充分に伝わってきたのです。
ピーター・グライムズを歌った福井は、先日のことがあったばかりでやや心配でしたが、それは全くの杞憂。相変わらず劇的な表現で聴衆を唸らせます。ややオーバーな表現や独特な英語の発音が気になる部分もありましたが、歌唱には演技も伴い、個性派・福井を印象付けました。
対する釜洞のエレン、良く通る澄み切った声が印象的で、これは絶好調だったと思います。
席が席なのであまり細かい印象は書けません。特に心に残った場面にいくつか触れると、先ずはプロローグ。
この最後でピーターとエレンが二人だけ、さしで歌う場面。エレンが♯4つ、ピーターは♭4つという、いわゆる復調で書かれ、二人が互いに溶け込めない様子を表すのですが、最後の7小節でピーターが♯4つに寄り添い、遂には二人が相和す様が良く出ていたと思います。
第2幕冒頭の教会の場面。合唱とオルガン(多分ハーモニウムが使われたのでしょう)は舞台裏で演奏されていたようですが、私の席からは全く見えず。ここの合唱は札幌放送合唱団。
第2幕の最後で少年ジョンが足を滑らせて崖から落ちる場面。ここではシェーン・ターノフという少年の声を録音して使ったようです。もちろん視覚は伴いませんが、それなりの効果を挙げていました。
第3幕の第1場。村人たちが“罪人ピーターに罰を”、と迫る合唱が見事。ff で2度爆発する“ピーター・グライムズ!”の叫び。そして止めの3度目は fff で。ここは札響の二つの合唱団の総力が激突する箇所です。珍しくも必死の形相で指示を出す尾高マエストロ。
短い間奏に続く第2場こそ、このオペラのクライマックスです。ピーターのとりとめのない嘆き。それに応えるかの如きフォグ・ホーン(霧笛)。恐らくこの楽器も舞台裏で吹かれていたのでしょうが、私の席からは全く見えません。それでも、固唾を呑んで聴き入る聴衆の静寂が、この微かな響きをクッキリと浮かび上がらせるのでした。
そしてバルストロード船長とエレンの会話。ここは完全な台詞となって、ピーターの自殺を暗示します。
完全な沈黙。それを僅かに破るように、第1幕冒頭の音楽が高いヴァイオリンに戻ってくる。
村人たちは、何事も無かったかのように、いつもと変わらぬ生活を始めるのです。ホールにはひたひたと感動の波が打ち寄せ、聴衆たちは、舞台となったバラー Borough に夫々の思いを重ねるのでした。
もちろん私は、小樽の海を思い浮かべましたね。だから翌日、この感触を忘れないように小樽に向かったほど。
カーテンコール。札幌の聴衆は随分大人しいですね。もしこれが東京なら、もっと激しい拍手喝采になったのは間違いないでしょう。
それでも鳴り止まない拍手。マエストロがマイクを持って登場し、この日で定年退職を迎えたファゴット奏者・一戸哲を称えていました。
一戸氏、尾高氏とは桐朋での学生時代に1年違いの仲間だったそうで、微笑ましいエピソードを紹介していました。
道理で一戸哲、この日のロビー・コンサートでもファゴット・ソロを担当していたわけだ。
ということで、公演が全て終わり、いつものように団員の見送りを受けてホールを出たのは午後10時。寒いくらいに気温が下がった中島公園には、煌々と冴え渡った月が青白く人々の帰りを照らしているのでした。
キタラは、この雰囲気が良いですねぇ~。東京では絶対に味わえない・・・。

 

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