読売日響・第511回定期演奏会

新年に入った読響はシーズンが終了する3月までの3か月間、相性の良い指揮者が続々と登場し、聴き逃せないコンサートが続きます。
その第一弾が上岡敏之、既に先週の名曲シリーズでオール・R・シュトラウス・プログラムを振っていましたが、私は定期のみを聴きました。次の選曲。

モーツァルト/交響曲第34番
     ~休憩~
マーラー/交響曲第4番
 指揮/上岡敏之
 ソプラノ/キルステン・ブランク
 コンサートマスター/藤原浜雄
 フォアシュピーラー/小森谷巧

予想した通り、とても面白い演奏会でした。特にマーラーは期待に違わぬ聴き所満載の解釈だったと思います。その前にモーツァルト。

上岡のモーツァルトはこれまで何度か接してきましたが、正直に言って私は感心しません。こういう演奏を表現する言葉が見当たりませんが、「草書体」とでもいうのでしょうか、旋律線に大きくカーヴを描き、「止め」が疎かにされてしまうのです。
これは趣味の問題でしょうが、私は上岡のナヨナヨとしたモーツァルトには相性が合いません。

編成は12型。バロック・ティンパニでしょうか、マーラーで使用するティンパニとは別に置かれた小振りな一対を使用していました。
メヌエット楽章を欠く3楽章構成。以前はK409のメヌエットを第3楽章として挿入するスタイルもありましたが、現在では今回のように3楽章のまま演奏するのが普通なようです。解説にもこの点は一切触れられていませんでした(舞曲が入らないのはザルツブルグの様式とのこと)。

フィナーレの第3楽章だけ前半と後半に繰り返し記号がありますが、上岡は前半の繰り返しのみ実行。東フィルで取り上げたシューベルト「未完成」もそうでしたが、上岡は繰り返しに際して思い切った変化を付けます。つまり最初は普通に表現し、二度目では一層大胆に、アクセントを強めにする。スッピンと厚化粧の違い、かな。
何気なく聴いていれば面白いのですが、私にはこれが疑問の一つ。どうも上岡は同じことを単純に繰り返すことにアレルギーがあるようで、違ったことをやらないと気が済まないのでしょう。

例えば第1楽章の展開部冒頭もそう。音楽が短調に移行し、2小節から成る類似の音型が6回繰り返される個所。スコアでは6回とも sf とp の組み合わせですが、上岡は2回づつの3組と捉え、微妙に音量に変化を持たせます。極端に言えば、mf → f → p でしょうか。
慣れてしまえば気にもならないような些細なことですが、どうも私にはモーツァルト様式から外れているように思えてならないのです。

第2楽章のテンポも私には速過ぎます。確かにモーツァルトの指定は4分の2拍子ですが、もう少しゆっくりと演奏して弦5部の絡みをたっぷりと味わいたかった。
因みに、この楽章は5声部ですが、チェロとコントラバスは同じパートに纏められ、代わりにヴィオラが2声にディヴィジされます。ヴィオラの分割をどうするのか注目していましたが、4プルトを前に座る2プルトと後方2プルトに分けていました。レギュラーと控え、のような扱いですね。

ということでモーツァルトは不満でしたが、マーラーは実に面白い演奏でした。面白い個所が多過ぎて一々取り上げる余裕はありませんが、私が最も驚いたのはポルタメントの多用です。
マーラーはグリッサンドという指定を彼方此方に記していますが、上岡のそれはグリッサンドというよりはポルタメントに近いもの。両者の区別は明確じゃありませんが、上岡は意識して音を滑らせているように聴こえました。しかも全曲を通して何か所も。

これを聴いていて咄嗟に思い出したのは、メンゲルベルクのスタイル。そう思って聴くと、突然のスピードの変化や急停止、思い入れたっぷりの表情とほとんど聴こえない程の極端な弱音。もちろん細部は違えど、かつてメンゲルベルクとコンセルトヘボウが実現して見せた自在表現の世界なのです。
サントリーホールに座っていて、時代が19世紀に逆戻りしたかのような錯覚に陥ってしまいました。
第1楽章のコーダ、ホルン・ソロが終わってテーマが再現する際のほとんど音楽を止めてしまうようなフェルマータと pppp 。第3楽章冒頭の弱音とテンポの遅さ!!

マーラー自身が絶賛したメンゲルベルクの解釈であれば、上岡のマーラーこそ真のマーラー解釈と言えるでしょう。プログラム誌には上岡の魅力を「誰にも似ていない」と紹介していましたが、私には「メンゲルベルクそっくり」と読めてきましたヨ。メンゲルベルク万歳!

第4楽章のソプラノは、第3楽章のクライマックスで舞台に登場し、第1ヴァイオリンの後ろで一旦待機。楽章が終わってから指揮者の横に進む方式でした。なんだかマエストロの面接試験を受けるみたい。
このソプラノ、拍手喝采は凄かったのですが、私はアマチュアみたいで感心しませんでした。日本人歌手でも適材は何人もいると思うのですが・・・。

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