札幌交響楽団・東京公演

昨日は、初台の東京オペラシティコンサートホールで札響の東京公演がありました。そのレポート。曲目等は、
《ホクレン クラシックスペシャル》 札幌交響楽団2008東京公演
ヴォーン=ウィリアムズ/タリスの主題による幻想曲
ディーリアス(ビーチャム編曲)/楽園への道(歌劇「村のロメオとジュリエット」より)
     ~休憩~
エルガー(ペイン補筆完成)/交響曲第3番
 指揮/尾高忠明
 コンサートマスター/大平まゆみ
札響はほとんど毎年のように東京公演を行っていますが、私は初めて聴きました。尤も、札響自体は地元キタラに3度ほど出掛けて聴いていますがね。
実は今回のプログラム、11月定期をそのまま持ってきたもので、当初年間予定が発表された時に北海道遠征を考えたほどのもの。その後東京公演が発表されたので、東京で聴くことに変更したのです。
プログラムはオール・イギリスものですが、私の目当ては何と言ってもエルガーの3番。これまでナマで聴きたくてウズウズしていた作品。やっと念願が叶いました。いゃ~あ、素晴らしい曲だ!!
エルガー3番の情報が入ってきたのは今世紀に入って間もなくの頃だったと思います。最初は、どうせ話題作りのでっち上げだろう、位にしか考えていませんでした。
ところがブージー&ホークス社からスコアが出版され、CDも何種類か登場するようになって、半ば衝動的に両者を購入して楽しんできました。元々英国音楽好き、エルガー・マニアでもありますからね。
最初の内はピンと来なかったのが正直な所ですが、何度か聴くうちに、この遺作に嵌ってきたのです。
エルガーが断片として残したスケッチを材料に、英国の作曲家アンソニー・ペイン(1936-)が苦労しながら補筆完成したもの。途中でエルガー家が反対したため挫折しかかったのですが、エルガー家が考えを改め、実現に漕ぎつけるに至ったのですね。
日本でも何度か演奏されていますが、どれも東京以外だったり、東京だとしてもあまり期待できそうもない機会だったりと、これまでナマで接するチャンスを逃してきました。ですから今回は願ってもない機会、エルガーのスペシャリスト、尾高の指揮ですからね。
それにしてもこのプログラム、客席が埋まるのだろうか。
ホールに着いてみると、結構入っていました。後方や2階席などは空席も目立ちますが、まぁまぁの入り。
ただし客層には問題ありで、クラシックのコンサートにはあまり縁のない人達の比率が高かったのも事実。私の隣席の老紳士は一刻もジッとしていることが出来ず、チラシを捲ったり腕時計を気にしたり。時を弁えずゴホゴホ咳き込む有様。
招待券か何かで紛れ込んだのでしょうが、こういう人は速やかに退席して欲しいですね。クラシック初めて人間にエルガー3番なんて無茶でしょ。
中々演奏報告に入れません。気を取り直して。
冒頭のタリス幻想曲。最初の一音から札響の素晴らしい弦楽アンサンブルに魅了されます。
尾高忠明は、日本の指揮者では最もピッチにうるさい、というか拘る人だそうですね。平均律ではなく純正調。同じEの音でも、調によって微妙にピッチが違う。
特に弦楽合奏の一品は、全パートが完璧に合ったピッチによって生まれる「音のうねり」が凄まじい効果を挙げていました。
(マエストロ尾高がじっくりトレーニングしたあとのオーケストラはレヴェルが数段上がる。だから後から来る指揮者は実にやり易いんです、とは先日のマエストロ沼尻の話)
3部に分かれるパート。ソロは各パートの首席奏者が、第2オーケストラは9名(2-2-2-2-1)が舞台下手奥に配置されていました。
メインボディーの第1オケは、もちろん通常の配置。左から第1ヴァイオリン、第2ヴァイオリン、チェロ、ヴィオラの順で、コントラバスは舞台上手奥。
今日のコンサートは、最初の1曲で成功が約束されていました。
珍しいディーリアス作品が聴けたのも収穫。オーボエ・ソロ(岩崎弘昌?)の独特の音色が魅力。
メインのエルガー。作品を何度も手掛け、隅々まで熟知している尾高忠明の渾身の棒。大変な名演奏と言ってよいでしょう。
第1楽章の提示部には繰り返し記号があるのですが、尾高はこれを実行したことはもちろん、指揮台に置かれたスコアを最初のページに戻さずに振っていました。つまりこの部分はスコアを「暗譜」しているということ。
恐らく全体も完璧に頭に入っているのでしょうが、事故を防ぐためにスコアを置いて指揮をしていたのだろうと思います。
第1楽章の第2主題(カンタービレ)はいかにもエルガー節。エルガーの刻印である上向7度が含まれる美しい旋律です。
大きな音で終わる第1楽章の後、かなりの数の拍手が起きたのは、この日の聴衆がコンサート慣れしていない証拠。演奏の素晴らしさのために送られた拍手じゃありません。
ペインが最初に書き上げた第2楽章スケルツォ。ワルツ風の中間部を含む3部形式ですが、冒頭の繰り返しで2回目だけに演奏される弱音器付きトランペット・ソロの素敵なメロディー。時折色を添えるタンバリンの不思議な魅力。
この楽章でも、まだ拍手した粋人が2階に約1名おりましたな。
圧巻は第3楽章でしょう。冒頭のソ→ファの上向7度がヴィオラ・ソロで反復される。これが最初と最後にシンメトリックに置かれるのですが、聴く者の胸をえぐるのが中間部の葬送行進曲。
イングリッシュホルン+ホルン+ヴィオラが創り出す音色、これはエルガーの「パルジファル」じゃないでしょうか。
そして第4楽章は壮大なソナタ形式。最初のブラスによるファンファーレは一瞬ながら「マイスタージンガー」を連想させるモチーフ。
優しげな第2主題が姿を変え、マーチ風に「ノビリメンテ」で登場する時の高揚感。これこそエルガーそのもの。
最後が華々しく終わらないのもこの曲の良い所。下降3度が繰り返され、次第に音力を弱めて、最後はドラの pp が自然に消滅してゆく。最後の音が消えて尚数刻、指揮者は棒を下ろしません。
さすがの客席も、最後ばかりは長い沈黙を守ってくれました。
聴衆に対する不満をたくさん書きましたが、真のエルガー・ファン、最上級の音楽好きも多数来場していたことに間違いはありません。
終了後にマエストロとオーケストラに贈られた賞賛の嵐がそれを物語っていました。
そうした聴衆の一人に、オスモ・ヴァンスカ氏の姿があったことも付け加えておきましょう。
アンコールがありました。当然ながら同じエルガーから「二ムロッド」。決して愛の挨拶なんかやりませんよ。
アンコールのあと拍手を制したマエストロ、“来年も東京公演があります。オール・エルガー・プログラム。今アンコールに演奏した二ムロッドを含むエニグマ変奏曲がメインです。どうぞお楽しみに”。
この日のプログラムに札響の来期のスケジュールが挟まれていました。
これによると東京公演2009は11月定期と同じ演目。エルガーのフロワッサール序曲、チェロ協奏曲、エニグマ変奏曲。チェロのソロはガイ・ジョンストンです。
これも行かなきゃね。そして12月定期は広上淳一がストラヴィンスキー/火の鳥全曲を振ります。これはキタラで聴かなくちゃ。
演奏会を終えてエントランスに向かっていた時、目の前をコンサートマスターが駆け抜けていきました。札響恒例の楽員による見送りのためです。
咄嗟のことで、思わず大平さんに二言三言声を掛けてしまいましたわ。
(尾高マエストロによると、大平さんは以前は読売日響に在籍した由。「ピーター・グライムズ」の演奏会形式を二度体験した唯一のプレイヤーなのだそうです。おぉぉぉぉ~)

 

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1件の返信

  1. nankipoo より:

    こんにちは。通りすがりの者です。
    札響のコンサート、私も堪能できました。感動の余韻がまだ残っています。
    お目当てはエルガーで、尾高さんの安定したお仕事ぶりにいつもながら関心させられました。
    わたしはエルガーに関する書籍を2冊書いております。
    最近、2冊目ができあがりましたので、エルガーにご興味ありましたらご参考にしていただければと思います。
    ありがとうございました。
    https://www.momonoge.com/04_elgar.html

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