ジョージ・セル指揮ニューヨーク・フィル(1)

ニューヨーク・フィルのプログラムを紹介するシリーズ。暫く中断していましたが、漸く再開できそうです。
次に選んだのはジョージ・セルなのですが、セルの登場回数は極めて多く、データを整理するのに時間がかかってしまいました。

ジョージ・セルはもちろんクリーヴランド管弦楽団の音楽監督(1946年から1970年まで)でしたが、ニューヨーク・フィルとも深い関係にありました。
1943年の初登場から亡くなる1970年まで、100回を超えるコンサートを指揮しています。1969年にはミュージック・アドヴァイザー兼首席客演指揮者に就任しましたが、僅か1年で死去されたのは真に残念なことでした。

セルのプログラムは同じ傾向のものを毎年のように取り上げていますが、私見では、華やかな音楽監督の活躍を補うべく、基本的なレパートリーでオーケストラをじっくりと鍛え上げる重責を果たしたのではないでしょうか。
楽員からは嫌われたでしょうし、批評家や聴衆からは冷たい演奏と批判されましたが、その真価が認められたときには既にこの世にいない。そんなタイプの指揮者だったように思います。

ジョージ・セル指揮ニューヨーク・フィルのプログラム、そのほとんど全てを紹介できそうです。何回になるか判りませんが、暫くお付き合いの程を・・・。例によって曲目の順番は私の想像です。

《第1回サマー・シーズン》
1943年7月4日 カーネギーホール
 ベートーヴェン/交響曲第7番
 スメタナ/モルダウ
 ワーグナー/歌劇「タンホイザー」序曲
 スーザ/行進曲「星条旗よ永遠なれ」
  指揮/ジョージ・セル

1943年7月11日 カーネギーホール
 メンデルスゾーン/交響曲第4番
 ガーシュイン/ラプソディー・イン・ブルー
 R.シュトラウス/交響詩「ドン・ファン」
  指揮/ジョージ・セル
  ピアノ/ユージン・リスト

《第103シーズン》
1944年12月14・15日 カーネギーホール
 ウェーバー/歌劇「オベロン」序曲
 ベートーヴェン/交響曲第3番
 スメタナ/モルダウ
 R.シュトラウス/ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら
  指揮/ジョージ・セル

1944年12月17日 カーネギーホール
 ウェーバー/歌劇「オベロン」序曲
 チャイコフスキー/ヴァイオリン協奏曲
 スメタナ/モルダウ
 R.シュトラウス/ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら
  指揮/ジョージ・セル
  ヴァイオリン/エリカ・モリーニ

1944年12月19日 キャンプ・ジョイス・キルマー
 ウェーバー/歌劇「オベロン」序曲
 ベートーヴェン/交響曲第3番~第3・4楽章
 スメタナ/モルダウ
 ドヴォルザーク/スラヴ舞曲第1番、第3番
 スーザ/行進曲「星条旗よ永遠なれ」
  指揮/ジョージ・セル

1944年12月21・22日 カーネギーホール
 バーバー/第2エッセイ
 モーツァルト/ピアノ協奏曲第25番
 ブラームス/交響曲第4番
  指揮/ジョージ・セル
  ピアノ/アルトゥール・シュナーベル

1944年12月24日 カーネギーホール
 モーツァルト/ピアノ協奏曲第20番
 ブラームス/交響曲第4番
  指揮/ジョージ・セル
  ピアノ/アルトゥール・シュナーベル

1945年3月8・9日 カーネギーホール
 ハイドン/交響曲第97番
 フォーレ/ピアノと管弦楽のためのバラード
 R.シュトラウス/ブルレスケ
 ベートーヴェン/交響曲第5番
  指揮/ジョージ・セル
  ピアノ/クラウディオ・アラウ

1945年3月11日 カーネギーホール
 ウェーバー/ピアノ小協奏曲
 R.シュトラウス/ブルレスケ
 ベートーヴェン/交響曲第5番
  指揮/ジョージ・セル
  ピアノ/クラウディオ・アラウ

1945年3月13日 プラザ・ホテル
 ベートーヴェン/ピアノ、オーボエ、クラリネット、ファゴットとホルンのための五重奏曲
 モーツァルト/13管楽器のためのセレナード
 ドヴォルザーク/スラヴ舞曲第1・3番 作品46-1、3
 ドヴォルザーク/スラヴ舞曲第10・15番 作品72-2、7
  指揮/ジョージ・セル

1945年3月15・16日 カーネギーホール
 フォス/管弦楽のための頌歌
 シューマン/交響曲第4番
 タルティーニ/ヴァイオリン協奏曲二短調
 プロコフィエフ/ヴァイオリン協奏曲第1番
 ワーグナー/ニュルンベルクのマイスタージンガー前奏曲
  指揮/ジョージ・セル
  ヴァイオリン/ヨゼフ・シゲティ

1945年3月18日 カーネギーホール
 シューマン/交響曲第4番
 ベートーヴェン/ヴァイオリンと管弦楽のためのロマンス ト長調 作品40
 プロコフィエフ/ヴァイオリン協奏曲第1番
 ワーグナー/ニュルンベルクのマイスタージンガー前奏曲
  指揮/ジョージ・セル
  ヴァイオリン/ヨゼフ・シゲティ

     *****

セルが初めてニューヨーク・フィルの指揮台に立ったサマー・シーズンは、ワルター(3)で紹介したように毎週日曜日の午後3時から行われたコンサートで、CBSによってラジオ放送されていたはず。音源も残っている可能性があるでしょう。
スーザのマーチが取り上げられていることなど、仰天モノ。

サマー・シーズンで共演したユージン・リストは、1918年生まれのアメリカのピアニスト。ニューヨークにも縁の深い人で、1985年にニューヨークで亡くなっています。1934年にはショスタコーヴィチのピアノ協奏曲第1番をアメリカ初演したことでも有名。セルとの共演はリスト25歳の時でした。

44年にシュナーベルとの共演があるのが目を惹きますね。シュナーベルはもちろんオーストリアの大ピアニストで、作曲家でもあります。1882年生まれですから、このとき62歳。この1944年にアメリカの市民権を得ています。世界で最初にベートーヴェンのピアノ・ソナタ全曲録音を完成させた人。ベートーヴェンとシューベルトには定評がありました。

45年3月のアラウも注目。曲目がフォーレ、シュトラウス、ウェーバーというのが興味津々でしょう。
次に登場したシゲティもニューヨーク・フィルの常連。特にセルと共演したプロコフィエフは、シゲティが世界中で演奏したことによってオーケストラのレパートリーに定着した作品です。

45年3月15日と16日に演奏されたルーカス・フォスの頌歌 Ode  for Orchestra は、これが世界初演。フォスは1922年にベルリンで生まれた作曲家で、現在も活動されているはずです。作曲だけではなくピアニスト、指揮者としても高名な方。1970年には来日して日本フィルの定期を振っていました。
1937年にアメリカに移住、この当時はボストン交響楽団のピアニストでもありました。

 

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