クァルテット・エクセルシオ第16回東京定期演奏会

昨日は寒い中、上野に向かいます。東京文化会館小ホールで行われたクァルテット・エクセルシオの第16回東京定期演奏会。プログラムは以下のもの。

モーツァルト/弦楽四重奏曲第3番ト長調 K156
ベートーヴェン/弦楽四重奏曲第4番ハ短調 作品18-4
     ~休憩~
ベートーヴェン/弦楽四重奏曲第7番へ長調 作品59-1「ラズモフスキー第1番」
 クァルテット・エクセルシオ(西野ゆか、山田百子、吉田有紀子、大友肇)

ホールに着くと、久し振りに文化会館が人で溢れています。まさか皆エクを聴きに来たわけじゃあるまい。
訊いてみると、大ホールでロンドン交響楽団の来日公演があるようです。どうりで、ね。

小ホールは、これに比べれば静かなもの。自由席なので家内に早目に並んでもらい、前から3列目の中央に着座します。
都会の片隅でひっそりと行われる弦楽四重奏の会ですが、いつもより席が埋まっている様子。エクセルシオ人気も定着しつつあるのは喜ばしいことです。

エクの定期は、モーツァルトとベートーヴェンで組むのが恒例。第16回とあるように、今回取り上げられる第4番を以ってベートーヴェンの全曲演奏が完結します。と同時に、ラズモフスキー第1番によって第2チクルスのスタートも切るのですね。

試演会でも話題になったように、第4番が最後になったのはワケがあったようです。要するにハ短調の第4は極めて演奏が難しい、ということ。技術的な問題だけじゃないことはもちろんです。

渡辺和氏のプログラム・ノートから引用すれば、セカンドが問題。“第2ヴァイオリンがないと音楽がスカスカになる。それでいて曲のエネルギーが凄い。このエネルギーをどうやって解放するか。更に音程が取り難く、音が汚くなる。あるいはベートーヴェンがそんな効果を狙っているのかもしれない”(西野談)。

試演会では当のセカンドさんが、“どうやって演奏すれば良いか、長い間悩んでいました。”と告白していたほどに18の4は難攻不落のクァルテット・ワールドなのです。

そして2008年12月8日。エクセルシオは見事にこの高峰を踏破した、と私は聴きました。いやぁ~、素晴らしかったですね。ベートーヴェンが楽譜に書き付けた音符を、全てベートーヴェンが意図したように音にした。これに尽きます。世界に冠たるクァルテット・エクセルシオにして初めて到達できたベートーヴェン演奏。

第2巡目の開始を飾るラズモフスキーの1番も素晴らしい演奏でした。実は、彼らは大晦日に同じ上野小ホールでラズモフスキー全曲に挑戦します。大友氏によれば、今回は第2番、第3番をも見据えている気持ちで弾きたい、とのこと。
来年以降展開していく第2チクルスでは、新たな発見と新しい視点で臨むエクセルシオが聴けるでしょう。団体のネーミングの通り、より高い目標を目指して。

ところでこの日のベートーヴェン2曲。改めて並べて聴くと、巨大なエネルギーの集積と解放が対になっていることに気が付きました。
そう第4のハ短調と第7のへ長調という組み合わせは、交響曲の「運命」「田園」の組み合わせと同じ調性。まさかそこまで考えたプログラムではないでしょうが、この夜の充実感はこの一点からも生まれたのではないか、と考えた次第。

冒頭に演奏されたモーツァルトの、透明に澄み切った弦の世界にも触れておかなければいけません。“今までより少しヴィブラートを減らしたり、無駄な肉を削ぎ落とし、原始の世界から新しく掘り起こした演奏”(山田談)が極めて新鮮でした。

尚、プログラムには使用楽譜としてベーレンライター版、モーツァルトは1966年版(2005年再版)ヴォルフガング・レーム校訂、ベートーヴェンは2007年版(第4番)と2008年版(第7番)ジョナサン・デル・マー校訂が明記されていたのは極めて良心的。

 

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