サルビアホール 第109回クァルテット・シリーズ

3月第3週のオーケストラ定期3連発の後、一日置いて18日の月曜日には一月振りにクァルテットを聴いてきました。これが私にとっては3月最後のコンサートとなります。
109回目を迎えたサルビアホールのクァルテット・シリーズは、同ホール初登場となるRSBクァルテット、ベルリン放送交響楽団のメンバーによって結成されている団体で、以下のプログラム。

モーツァルト/弦楽四重奏曲第3番ト長調K156
ドビュッシー/弦楽四重奏曲ト短調作品10
     ~休憩~
シューベルト/弦楽四重奏曲第14番ニ短調「死と乙女」
 RSBクァルテット

シーズン最後を締めた団体ですが、チョッと紹介が難しいグループと言わざるを得ません。この日鶴見に姿を見せた4人は、ファーストがアンドレアス・ノイフェルト Andreas Neufeld 、セカンドはマックス・シモン Max Simon 、ヴィオラにサミュエル・エスピノーザ Samuel Espinosa 、チェロがリンゲラ・リエムケ Ringela Riemke という面々でしたが、当初配られていたチラシに掲載されていたメンバーとは大幅に変更されていました。
そのチラシも、記憶が定かではありませんが、最初のものと実際にチケットが送付されてきたときに同封されていたものとは異なっていたようですし、共通していたのはファーストのノイフェルトのみ、という異常さです。

チラシの紹介文によれば、クラウディオ・アバドが設立したグスタフ・マーラー・ユーゲント・オーケストラの初代コンマスを務めたノイフェルトが、現在副主席奏者を務めているベルリン放送響のトップメンバーを集めて2016年に結成した団体の由。従って団名は Rundfunk Sinfonieorchester Berlin の頭文字を取って「RSB」クァルテットなのでしょう。当日手渡されたプログラムには、メンバー交代等、諸般の事情で当初の発表から出演者が変更になった旨の断りがありましたが、それにしてもファースト以外は全て交代している、という所にこの団体の全てが現れていると思います。

これは私の想像ですが、日本のオーケストラにもよくあるように、弦楽器のメンバーが仲間内で適宜クァルテットを組んで活動する。発案者のファーストこそ固定しているけれど、他はその時の都合によって入れ替わる、というスタイルでしょうか。いわゆる常設クァルテットではない。
そのためもあってか、RSBクァルテットとしてのホームページも存在しないし、その名前でSNSなどにも発信していないようです。今回はたまたま上記の4人で来日、ということではないでしょうか。チェロのみ女性で、全員が若手、と見えました。各人のプロフィールは、ノイフェルトを除いては全く分かりません。ベルリン放送響のメンバーであることは間違いないでしょうから、一応ドイツの団体ということで良いのでしょう。

ということで、言葉は不適切かもしれませんが、俄か結成のグループ。そこに特徴も限界もある演奏、と聴きました。
選ばれた3曲、最初のモーツァルトはト長調を主調とする3楽章構成ですが、明らかに作品の核は第2楽章アダージョで、ここはト長調と同じ♯一つのホ短調で書かれています。ですから短調作品という印象が強く、ドビュッシーもシューベルトも共に単調で、どれも決して明るい作品ではありません。聴いた後の印象が如何にも地味だったのは、プログラム構成にも原因があったと思慮します。

2曲目のドビュッシーも、これまでサルビアホールで何度か接してきた演奏たちとは大いに異なるもの。フランス的な軽やかさは消え、如何にもドイツ風と感じてしまう演奏。よく言えば堅実、悪く言えば野暮ったい、ということでしょうか。普通にベルリンのオーケストラで弾いているメンバーが集まれば、全員がドイツ人でなくてもこんなスタイルになってしまう、ということでしょうね。

メインのシューベルトもウィーン風の明るさや洒落気とは無縁で、手堅く纏められた演奏。例えば第1楽章、ソナタ形式の第2主題が終わり、更に3番目のテーマとでも言える小結尾に向けてファースト・ヴァイオリンが3小節間のカデンツァ風のパッセージを弾く所がありますが(提示部では第99小節から101小節まで)、このソロは四重奏の花形でもあるファーストがそのテクニックと音楽性を発揮してかなり自由に弾く場面。ところがノイフェルトは譜面に忠実というか、ほとんどソロと気が付かないほどにアッサリと駆け抜けてしまう。いかにもオーケストラ・プレイヤーのソロという感じで、全体的な印象が弱まってしまうのでした。

彼等の並びは、通常の向かって左からファースト→セカンド→ヴィオラ→チェロの順。アンコールは用意していないようで、客席の拍手をにこやかに受け取って終了。RSBクァルテットとしてのレパートリーも確立していないのでしょう。
ということで、仮に次回の登場があったとしても、同じメンバーで登場するとは思われません。この名前でコンクールを受けた、というニュースも見当たりませんでした。次のシーズンへの踊り場的な一回、と評しては言い過ぎでしょうか。

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