サルビアホール 第88回クァルテット・シリーズ

早いもので今年も残り一月チョッととなりましたが、鶴見サルビアホールのクァルテット・シリーズは11月27日に第27シーズンがスタートしました。12月13日までの3回シリーズで2017年を締め括ることになります。
前26シーズンはテンペラ、ヘンシェル、アイズリと女性が優勢なクァルテットが続きましたが、今シリーズは逆に男性が目立つクァルテット・シリーズ。3団体の中で女性は、アトリウムQのただ一人でしょう。
シーズン皮切りは、すっかり鶴見の顔となったウィハン・クァルテット。

ハイドン/弦楽四重奏曲第43(57)番ト長調作品54-1
モーツァルト/弦楽四重奏曲第15番ニ短調K.421
     ~休憩~
ヤナーチェク/弦楽四重奏曲第2番「内緒の手紙」
 ウィハン・クァルテット

ウィハンと言えば、鶴見は今回が4度目。これまでの登場歴は2013年5月、2014年12月、2016年3月で、私は当シリーズ第1回から聴いて感想も全て書いてきましたから、これまでの3回を読めばプログラムを見ただけでどんなコンサートか予想が出来てしまいます。過去の記録を紐解くと、パシフィカやロータスのように全曲演奏会を敢行したクァルテットを別にすれば、4回も出演するのはウィハンが初。実はウィハン、前回も初めて3度目を達成した団体でもありました。

ということで、今回は細部について詳しく触れることも無いでしょう。例として3回目の感想を引用しますが、その時には前2回の記事も参照していますから、これでパーフェクト。

サルビアホール 第57回クァルテット・シリーズ

プログラムには敢えて記載されていませんでしたが、今回はチェロが若い(多分)マチェイ・ステパニク Matej Stepanek に替わっていました。ホームページも彼の写真ですから、正式にアレシュ・カスプジークから代わったのでしょう。これで第1回登場時からヴィオラとチェロが若返ったことになります。止むを得ないことですが、こうしてクァルテットは世代交代を重ねていくのでしょうね。

今回の選曲、冒頭のハイドンは2014年12月にも取り上げました。エステルハージーのクァルテットでファーストを弾いていたトストのために書かれた曲集の1曲で、当然ながらファーストに比重が重く作られています。
ハイドンが終わって舞台裏に戻ることなくモーツァルトへ。これもウィハン独特のスタイルで、闊達な彼らの演奏で聴いていると、どこまでも演奏し続けられるのでは、と思ってしまいました。モーツァルトのハイドン・セットは第1曲を初回登場の際に弾いていますから、今回は第2番。終楽章の変奏曲、そのコーダで頻りに登場する3連音符「タタタター」は、モーツァルトがフリーメーソン入会を決意し、その戸を叩く音、という解説を読んでこともあります。

後半のヤナーチェク、2016年の3月に第1番を取り上げたのに続き、今回で全2曲完奏となりました。

今や親子2世代が同居する構成となったウィハン、若手二人は未だ一生懸命と言う印象を持ちますが、ファーストのレオシュ・チェピツキーとセカンドのヤン・シュルマイスターは演奏スタイルも自由自在。例えばモーツァルト第3楽章のトリオ、ファーストが奏でるソロは殆ど譜面など見ず、空を見つめながら思うが儘にアーティキュレーションを楽しんでいる様子。
音が全て頭に入っている、という意味では、ヤナーチェクの第1楽章コーダ。練習番号17からの第2ヴァイオリンが奏する長いトレモロ風パッセージでヤンは全く楽譜を見ず、体も舞台背面に向けて演奏する風景は唖然とするほど。同じヤナーチェクの第2楽章、連勝番号5ヴィヴァーチェからの激しいファーストのパッセージも、レオシュは譜面から離れて熱情的に弾きまくっていました。

それにしても、ウィハンの音楽は何と素晴らしいのでしょう。自然な流れ、美しい響き、圧倒的な集中力と、思わず手に汗を握ってしまう迫力。何故このような演奏が可能なのかと考えていましたが、思いついたのは、ウィハンが作曲家に忠実だ、ということではないでしょうか。
ハイドンに対してもモーツァルトに対しても素直に作品を受け入れる。もちろんヤナーチェクにも絶対の信頼を寄せ、最近の団体の様に敢えて捻った解釈は施さない。工夫が無いからつまらない、とならないのは、やはりチェコの伝統のなせる業か。
これに第5の楽器、サルビアホールの音響が加わるのですから、鬼に金棒。4度目ともなればホール特性を完璧に極めたウィハン、4本の弦が協和して豊かに響きながらも細部のニュアンスは手に取るよう。恐らく世界の何処にもないような室内楽の醍醐味を堪能できました。

レオシュが極めて聴き取り易い英語で告げたアンコールは、スメタナの第2番から第2楽章のポルカ。滅多に演奏されない作品ですが、思わず聴き入ってしまうほど魅力的なもの。ウィハン・マジックの虜になってしまった一夜です。
そのウィハン、2018年の9月には4回に亘ってドヴォルザーク・ツィクルスを披露してくれる予定。来年の4夜スペシャルが待ち遠しくてなりません。

 

 

Pocket

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です