サルビアホール 第96回クァルテット・シリーズ

サルビアホール、6月最初の例会は、これが2012年、2014年、2016年に続いて4度目となるプラジャーク・クァルテット、1年おきに登場しているプロの中のプロとも言える団体です。
今回も、逃げも隠れも出来ない正統的プログラミングで圧倒的な存在感を見せ付けてくれました。以下の選曲↓

ベートーヴェン/弦楽四重奏曲第2番ト長調作品18-2
ヤナーチェク/弦楽四重奏曲第1番「クロイツェル・ソナタ」
     ~休憩~
スメタナ/弦楽四重奏曲第1番ホ短調「わが生涯より」
 プラジャーク・クァルテット

毎年その傾向はありますが、6月は室内楽の演奏会が犇めいています。サントリーホールのチェンバー・ミュージック・ガーデンが再開したこともありますが、海外からの来日団体に加え、国内のクァルテットも集中的に定期演奏会を開催。連日のように日本各所で様々なアンサンブルが繰り広げられるようです。
そのサントリーはカザルスQがベートーヴェン全曲に挑戦しますし、サルビアにも登場するプラジャークとデーニッシュ、更にアルテミスQとディオティマQも飛び込んでの乱戦模様。オペラやオーケストラとは違ってさほど多くない室内楽ファン、何時何処で何を聴くかに頭を悩ませている面々も多いのじゃないでしょうか。頂点となるのは6月8日の金曜日で、正に同じ午後7時からサントリーではカザルスが、紀尾井ではアルテミスが、武蔵野ではデーニッシュ、白寿ホールではプラジャークがバッティングします。クァルテットの常連たちがどれを選ぶのか興味が湧きますが、私は密かにオーケストラを聴きに横浜へ。とても室内楽オタクとは呼べませんな。

もう少しここに拘ると、紀尾井のアルテミスでさえ未だチケットが残っているようで、昨日の段階でもチラシが配られていました。同じくチラシがあったディオティマは、横浜でバルトーク全曲の一気演奏、岡山では望月京の新作・日本初演と言う出来れば行ってみたいコンサートも予定されています。プラジャークは大阪・名古屋と回り、東京では武蔵野と白寿かな。ロータスの山碕も加わってのドヴォルザーク五重奏もあるようですね。
一方国内組は、前回サルビアに登場したモルゴーアは27日に浜離宮の定期でロックバーグのぶっ飛びクァルテットを披露しますし、古典は近江楽堂のショスタコーヴィチ・シリーズで我が道を行く。札幌ではベルリン=トウキョウがバルトークを中心にしたシリーズを継続中ですし、エクセルシオも東京と札幌で定期。更にエクは去る3日の日曜日には直方で、今回のプラジャークとそっくりなプログラム(ベートーヴェン6番にヤナーチェクとスメタナの1番!!)を弾いたそうな。まさか九州から横浜に飛んだコアな追っ駆けはいない、と思いますが・・・。

さて鶴見に戻りましょう。今回が4回目のプラジャークは、選曲の点では一つもダブっていません。ヤナーチェクは既に内緒の手紙を弾いていますし、スメタナも第2番を演奏済み。従って今回でスメタナとヤナーチェク全集が完成したことになります。私は前3回も皆勤賞ですし、一昨年は鵠沼でも聴きました。ということは、7年間で5回も彼等のナマ演奏に接した勘定。
改めてプラジャークがどんなクァルテットで、どういう演奏をするかに触れることはないでしょう。ブログ内で検索して頂ければ、これまで書いてきたことが全て今回にも当て嵌まることに同意して貰えるのではないでしょうか。
前回からファーストは若き女流ヤナ・ヴォナシュコーヴァに替わっており、それがプラジャークに新しい息吹を齎していることも、一昨年の鶴見と鵠沼をレポートした時に紹介しています。

古典から現代まで幅広いレパートリーを誇るプラジャーク。選曲も演奏も弦楽四重奏団の模範とも呼ぶべき実力派で、例えばシーズン29に登場した(そして、これから登場する)アポロンのジャズ、モルゴーアのロック、デーニッシュのフォーク・ミュージックなどのように意表を衝くようなレパートリーには手を出しません。このシーズンでは最も安心して聴ける、正々堂々の王道室内楽が楽しめました。
では陳腐で退屈か、と言えば寧ろその逆。彼等の超絶技巧もテクニックを披露することだけには使われず、あくまでも音楽作品の表現としてのツールに奉仕。難しい場面も決して難曲とは聴こえてきません(例えばスメタナは、作曲当時は演奏不可能と評価されていた)。
ヤナーチェクも然り。ここに描かれた作曲者の怒り、悲しみ、愛などが完璧な表現力を以て描き尽くされる。難しい作品を聴いた、という感想ではなく、堂々たる名作を十二分に満喫したという充足感に満たされるのでした。作品の質が高ければ高いほど、その音楽の真価が伝わってくる。

その秘密、一つだけ挙げるとすれば、当たり前のことではあるでしょうが、シッカリとしたリズム感にあると思うのですね。強拍と弱拍の明確な弾き分け。ベートーヴェンの第2楽章を例にとれば、アダージョ・カンタービレの3拍子が、全く自然なアクセントで歌われる。それが pp の4音動機で締め括られると、同じ4音動機がアレグロの2拍子に変わってスケルツォのような音楽に移る。この3拍子と2拍子の転換が、敢えて聴き手が意識せずとも、自然に耳からハートに沁み込んでくるでしょう? これですよ、これ。これこそがクラシック音楽の醍醐味じゃありませんか。
同じことは、スメタナの第4楽章にも言えます。烈しいヴィヴァーチェが一段落し、ファーストが楽し気に踊りのメロディーを奏し始める。ここで伴奏がリズム感豊かに合いの手を入れ、音楽が弾んでいく。この感覚は、もう体が覚えている、としか言いようが無いでしょう。単にイチ・ニ・イチ・ニという拍子の繰り返しではない。

アンコールは、2年前に鵠沼でもアンコールしたドヴォルザークのワルツ。作品54の第4に相当し、弦楽四重奏版としては2番目、即ち第2番と数えられるものです。作品に付いては鵠沼レポートを参照してください。

恒例のサイン会もありましたが、4度目のサルビアとあって残る人は疎ら。でも、本当はプラジャークのように自然に、本格的なクァルテットを聴かせてくれる団体にこそ、最高の賛辞が与えられるべきじゃないでしょうか。演奏会が激しく競合する中、もっと多くのクラシック音楽ファン、オペラ好きやオーケストラ大好き人間たちにも積極的に聴いてもらいたい団体です。

 

 

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