サルビアホール 第103回クァルテット・シリーズ

9月のウィハン・クァルテットによるドヴォルザーク・シリーズで盛り上がったサルビアホールのクァルテット・シリーズ、2018年は残す所シーズン31の4回となりました。このシーズンはサルビアが2度目の登場という3団体と、今回が来日そのものも初めてというグループという構成、演奏される作品にもサルビアでは初体験の曲も複数並んでおり、中々ヴァラエティーに富んだシリーズと言えるでしょう。
そのトップ・バッターが、18日に行われたシュトイデ・クァルテット。2014年11月の第39回に続く2度目で、ウィーンに拘った次のプログラム。

ホフシュテッター(伝ハイドン)/弦楽四重奏曲ヘ長調「セレナード」
ツェムリンスキー/弦楽四重奏のための2つの小品
     ~休憩~
ベートーヴェン/弦楽四重奏曲第13番変ロ長調作品130(大フーガ作品133付)
 シュトイデ・クァルテット

実は前回のシュトイデ、私の記憶からはスッポリ抜け落ちてしまっていたようで、前半が終わるまでは初めて接するクァルテットだと思い込んでいました。平井氏の指摘もあって何とか記憶が復活、4年前はモーツァルト(K387)、ベートーヴェン(セリオーソ)、シューベルト(死と乙女)というウィーン繋がりの3本立てで、こう言っては失礼ながら平凡なプログラムで初登場したのでした。
もちろんその時の感想もブログにアップしており、サルビアらしくない選曲ということにも触れていましたっけ。こういうことがあるので、つくづくブログを書いておくものだと思った次第ですが、興味ある方はそちらもご覧ください。

彼等のホームページ、

http://www.steudequartett.com/indexE.html

を再度検索してみて驚いたのですが、その時から一切更新されていません。4年間も放置しておく辺り、さすがにウィーンの、しかもウィーン・フィルのメンバーで構成されているクァルテットだと思いませんか。時間が止まっているのがウィーン、と言えなくもない。記憶から抜け落ちる訳だ、と勝手に納得しています。
ただし今回はセカンドのホルガー・グローが体調不良のため来日せず、ピンチヒッターとしてアデラ・フレシアヌ Adela Frasineau という若い女性が加わっての公演。彼女も当然ながらウィーン・フィルの団員で、シュトイデ鶴見初登場の2か月前にウィーン・フィルに入団した方だそうです。

2度目のシュトイデ、前回の感想を読んで思い出しましたが、セカンドが替わっても印象は全く同じ。ウィーンの伝統をキッチリと受け継いでいる団体と言う一言に尽きるでしょう。ホームページと同じように、ウィーンという土地は現代の流行や潮流には目向きもせず、自分たちの世界を堅牢に守り続けているのです。何処を取ってもウィーン流。
実はこの日、ウィーンの人たちは大作曲家もファースト・ネームで呼ぶ癖があるということを評論家の奥田佳道氏から伺ったのですが、最初のセレナードも明らかにヨーゼフの作品として演奏していますよね。第1楽章の第2テーマ、ファースト・シュトイデの歌わせ方は線が細くて絹糸のよう。これが骨太なチェロ・ヘルテルと好対照となって、ウィーンの調べを奏でていく。これって、昔からバリリなどで聴いてきた憧れのウィーンじゃありませんか。
第3楽章にも注目。このトリオは、演奏者を前にして聴けば一目瞭然なのですが、ヴィオラはお休みで3人による合奏。文字通りトリオは三重奏(トリオ)なのであって、ハイドン一流のユーモアでしょう。これを根拠に「セレナード」はハイドンの作品と抵抗・固執しているファンもいたように記憶しています。

次のツェムリンスキー。再び脚光を浴び始めたツェムリンスキーには弦楽四重奏のための作品として6曲が数えられており、この日取り上げられたのは3番と4番の間に書かれたとされる2つの楽章。言わば未完成弦楽四重奏曲ですが、シュトイデで聴くと彼もまた、伝統的ウィーンの申し子だったと思わずにはいられません。アレキサンダーの書いた佳曲、ですよね。

休憩を挟んで後半は、ベートーヴェン晩年の大作。軽いフィナーレではなく、本来ルードヴィッヒが考えていた大フーガをフィナーレに置いての演奏です。
これまたかつてのバリリQを髣髴させるような演奏で、現在では絶滅危惧種になった感すらします。好例は第2楽章のプレストで、今やウィーン以外の団体でシュトイデほど遅いテンポを採用するところはないでしょう。現代流プレストに聴き慣れた耳には、彼等のテンポは普通のアレグロにしか聴こえません。
ここを聴いていて思い出したのですが、名前は忘れましたがある高名な大巨匠が若者をリハーサルしていて、最後に一言、“全ての音符が聴こえるように演奏しなさい” と言ったこと。確かに21世紀のプレストは、奏者は全ての音を演奏で来ても、聴き手に全ての音が聴き取れるとは限りません。ウィーンにとってのプレストは、この日サルビアでシュトイデが弾いて見せたテンポなのでしょう。

ということで、オールド・ファンは随喜の涙を流し、一方で若い聴き手には何とも温ま湯的に聴こえたベートーヴェンだったのじゃないでしょうか。

アンコール、シュトイデが譜面を取り出したときに懐かしいベリャエフの表紙が目に入ったので、“えッ、ロシア物をやるのか!”と思いましたが、予想通りボロディン第2のノクターン。これまたウィーン風ボロディンでしたが、ヴァイオリンとチェロの対照的な音色に縁取られ、天下の名作として聴こえてくるのは流石。ウィーンの名手たちの妙技に複雑なに感想を抱いた一夜でした。そう、今回は間違いなく二度目のシュトイデ体験でした。忘れないように・・・。

 

 

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