ウィーン国立歌劇場アーカイヴ(24)

ウィーン国立歌劇場のアーカイヴ・シリーズ、4月度の配信も残り少なくなってきましたが、いよいよ「フィデリオ」を取り上げます。

今年はベートーヴェンの生誕250年に当たっていて、ウィーン国立歌劇場ではフィデリオの初稿に当たる「レオノーレ」も上演し、決定版となった「フィデリオ」との聴き比べ・見比べも重要なテーマでした。そのレオノーレは無事に2月に上演、ライブストリーミングもされてご覧になられた方も多いでしょう。それがウィーン国立歌劇場における「レオノーレ」の初演でもありましたっけ。
私も実際に聴き、首を傾げたくなるような演出ではありましたが、フィデリオの最初の姿に接して様々な発見もありました。それは2月のブログ記事を確認してください。

そして「フィデリオ」も本来なら5月2日にライブ・ストリーミングされる予定でしたが、周知のようにコロナ禍のために劇場は閉鎖、公演も中止になってしまいました。
そうした事情もあるのでしょう、今回のアーカイヴ配信に当たっては何と3種類の公演が放映され、更には現地5月3日にも4度目となる「フィデリオ」アーカイヴが予定されています。しかし当欄では限が無いので、本日(4月29日)配信されている公演までを一区切りとして纏めておこうと思います。

以下がこれまで配信された内容で、順に4月23日に放送されたのが2019年4月29日、25日配信が2017年6月2日、そして最後のものは2016年1月14日の公演。ほぼ毎年のように上演される「フィデリオ」は、ウィーンにとっても最も大切なレパートリーであることが良く分かろうというもの。三様の「フィデリオ」を楽しみました。配役を列記しておきましょう。

「フィデリオ」①
フロレスタン/ブランドン・ジョヴァノヴィッチ Brandon Jovanovich
レオノーレ/アンネ・シュヴァーネヴィルムス Anne Schwanewilms
ドン・フェルナンド/クレメンス・ウンターライナー Clemens Unterreiner
ドン・ピツァーロ/トーマス・ヨハンネス・マイヤー Thomas Johannes Mayer
ロッコ/ヴォルフガング・バンクル Wolfgang Bankl
マルツェリーネ/チェン・レイス Chen Reiss
ヤキーノ/ミヒャエル・ローレンツ Michael Laurenz
指揮/アダム・フィッシャー Adam Fischer
演出/オットー・シェンク Otto Schenk
舞台構想/ギュンター・シュナイダー=シームセン Gunther Schneider-Siemssen
衣装/レオ・ベイ Leo Bei

「フィデリオ」②
フロレスタン/ペーター・ザイフェルト Peter Seiffert
レオノーレ/カミラ・ニールンド Camilla Nylund
ドン・フェルナンド/ボアズ・ダニエル Boaz Daniel
ドン・ピツァーロ/アルベルト・ドーメン Albert Dohmen
ロッコ/ギュンター・グロイスベック Gunther Groissbock
マルツェリーネ/チェン・レイス Chen Reiss
ヤキーノ/イェルク・シュナイダー Jorg Schneider
指揮/コルネリウス・マイスター Cornelius Meister

「フィデリオ」③
フロレスタン/クラウス・フローリアン・ヴォイト Klaus Florian Vogt
レオノーレ/アニヤ・カンペ Anja Kampe
ドン・フェルナンド/ボアズ・ダニエル Boaz Daniel
ドン・ピツァーロ/エフゲニー・ニキーティン Evgeny Nikitin
ロッコ/ステファン・ミリング Stephen Milling
マルツェリーネ/ヴァレンチナ・ナフォルニツァ Valentina Nafornita
ヤキーノ/イェルク・シュナイダー Jorg Schneider
指揮/ペーター・シュナイダー Peter Schneider

このオペラに付いては改めて紹介することも無いでしょう。スターツオパーでは、ずっとケルントナー劇場の宮廷オペラで初演された決定版「フィデリオ」が上演し続けられてきました。今回のシェンク演出も長くウィーンで親しまれてきたもので、第2幕フィナーレで使用される跳ね橋が自由の象徴として描かれる古典とも呼べる舞台でしょう。このイメージがあるので、先般の「レオノーレ」初演に違和感を覚えたのかもしれません。

各公演に付いては、指揮者による違いが良く出ていたと聴きました。情熱的なフィッシャーの①、若々しく推進力に富んだマイスターの②、そしてスケールの大きなシュナイダーの③。特に私は大ヴェテランのシュナイダーが指揮した公演に最も感動しました。最後など涙腺崩壊を堪えるのに必死だった程です。

第2幕15番のレオノーレとフロレスタンの歓喜の二重唱と、16番フィナーレとの間にレオノーレ序曲第3番が演奏されるのも伝統ですが、①では冒頭の ff による1小節が省かれ、2小節目から始まったのは初めて体験しました。前の二重唱(ト長調)と序曲(ハ長調)は調が違うのですが、同じ「ソ」が鳴らされるので違和感はありません。再開の感動が静かに序曲の開始に繋がるのは中々良いアイディアだと思いましたが、皆さんは如何でしよう。②と③は通常の演奏です。
この①は丁度1年前の公演で、この次にライブ・ストリーミングされる「リゴレット」がオッタヴァ・テレビでも配信されるようになった記念すべき第一弾でしたから、正に日本から簡単にアクセスできるようになったストリーミング前夜ということになりますね。

3番目の配信を指揮しているペーター・シュナイダーは、地味ではあるもののウィーンでは最も愛されている大ヴェテラン。いわゆる叩き上げタイプのマエストロで、カペルマイスターと呼ばれるのに相応しい巨匠でしょう。気のせいでしょうか、ウィーン国立歌劇場のオーケストラもいつもとは異なる、気合が入った響きがしているようにも感じられました。
さて「フィデリオ」ですが、上記の様に5月4日(日本時間)にも第4のものが配信される筈。それは2015年6月のもので、①と同じフィッシャーの棒ですが、キャストは異なります。レオノーレ序曲第3、どのように演奏するのかな?

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