新日本フィル・第621回定期演奏会(オンライン)

7月2日、ウィーンからの配信を見終えて一休みと思いましたが、日本国内でも立て続けにコンサートのネット配信が計画されており、当欄も早速有料チケットをゲットしてパソコンの前に陣取ります。
漸く活動が再開された日本各地のオーケストラですが、入場者は会員の定員の50%以内で、という縛りがあり、一気に演奏会のネット配信が活発になってきました。

昨夜19時からサントリーホールで開催された新日本フィルの第621回定期もその一つで、実際にサントリーホールに入場して聴く以外に配信サービスで視聴する機会が設けられました。
これまでの多くの無料配信と違い、有料。オーケストラのホームページに記載されている案内に従ってチケット販売会社に会員登録し、所要事項を入力の上チケットを購入します。

ホームページには映像制作がカーテンコール、録音はオクタヴィア・レコードとあったので、当初てっきりカーテンコールのホームページから配信されるものと思っていましたが、これは勘違い。開演時間が近付いても画面が切り替わらないので、慌ててメールをチェック。チケットを購入した ticket board からアクセスすることが判り、何とか開演5分前にサントリーホールに飛び込みました。
ネット配信はメディアによって様々なので、70過ぎの爺には面食らうばかり。それでも何とか一人で視聴まで漕ぎつけることが出来ました。若い方ならサクサクとアクセスするんでしょうね。そして無事に聴いたのが、

フィンジ/弦楽オーケストラのための前奏曲へ短調作品25
ヴォーン=ウイリアムス/テューバ協奏曲へ短調
     ~休憩~
ベートーヴェン/交響曲第6番ヘ長調作品68「田園」
 指揮/下野竜也
 テューバ/佐藤和彦
 コンサートマスター/豊嶋泰嗣

新日本フィルの定期演奏会シリーズにはニック・ネームが付けられていて、この回のジェイドはサントリーホールのシリーズだそうです。現音楽監督に上岡敏之が就任してからのことじゃないでしょうか。
本来ならこの定期は英国からダンカン・ワードが客演指揮するはずでしたが 出入国制限により来日不能となり、指揮者は代役、曲目も変更して開催されたもの。恐らく新日フィルとしても2月以来の定期演奏会だったと思います。

当初予定されていたプログラムで変更が無かったのはヴォーン=ウイリアムスのテューバ協奏曲のみ。冒頭のフィンジとメインの田園は下野氏の選曲でしょう。理由は後で述べますが、さすがにプログラムに拘る下野ならではの凝ったもの。
前半に英国の知られざる名曲を並べ、後半は社会的距離を守っても充分にサントリーホールの音響を生かせるベートーヴェン。もちろんベートーヴェン生誕250年記念の意味合いもあります。

前半にフィンジとヴォーン=ウイリアムスを並べるというのは誠に良いアイディアで、何年か前に尾高忠明が日本フィルの定期で組んだことがあります。実はその時のヴォーン=ウイリアムスも同じテューバ協奏曲でした。
長生きだったヴォーン=ウイリアムスと、逆に短命だったフィンジとの歳の差は親子ほども違う30年弱。フィンジの生涯はヴォーン=ウイリアムスの一生にすっぽりと収まってしまう程ですが、二人は仲が良く、一緒にイギリス国内旅行をする程でした。

下野が幕開けに選んだのは、演奏時間が5分にも満たない弦楽合奏による美しい作品。フィンジには大曲の一部として作曲されたものの全曲が実現せず、小品として残された音楽がかなり残っています。
へ短調の前奏曲も当初は室内交響曲の前奏曲として書かれましたが、後は続かず奇妙にも前奏曲だけとして残った一品。他の大作に転用する計画もあったようですが、それも叶わず、作品はフィンジが亡くなった翌年(1957年)、長男の指揮によって初演されたのだそうです。

丁度100年ほど前の作品で、正にスペイン風邪が猛威を振るっていた中で書かれたもの。もちろん下野はそれを意識してコンサート再開に当たって選んだのでしよう。調性が次のヴォーン=ウイリアムスと同じであり、メインの田園とは同名調でもあるという見事な選曲じゃありませんか。私が演奏曲目リストに態々調性を記したのはそのためでもあります。
それを暗示するように、前奏曲は時折ヴァイオリンやチェロのソロを挟みながら進行し、最後に音量的にも盛り上がり、ピークに達したところで明るさが(スコアを見ていないので断定できませんが、恐らくヘ長調?)射し込み、クライマックスで閉じられる。イギリスのなだらかな「田園」風景を連想させる佳曲と言えましょう。

フィンジ作品については、下野は既に読響正指揮者時代に「霊魂不滅の啓示」という大作を指揮していましたし、先に紹介した尾高忠明が日本フィルで(クラリネット協奏曲)、同じ日本フィルで広上淳一も取り上げましたし(小山実稚恵との共演でエクローグ)、英国作品を得意とする大友直人も何処かで取り上げていたと記憶します。フィンジをレパートリーに持つ日本人指揮者が少なくとも4人はいる日本、50年後の演奏会ではフィンジを聴く機会が更に増えるであろうことを予感させる演奏会幕開けではありました。

2曲目のヴォーン=ウイリアムスでソロを吹いた佐藤和彦は、新日本フィルの首席テューバ奏者。この作品については以前に日本フィル定期で演奏された際にやや詳しく紹介したので、ここでは繰り返しません。重低音担当の金管楽器としては意外な感もある美しいメロディーに満ちた協奏曲。普段ならヴィオラの第1プルトが座る席にテューバ・ソロが位置するのは、日本フィルの時と同じ。理由もその時に書いておきました。
珍しいテューバ・ソロのアンコールは、同じくヴォーン=ウイリアムスのイングランド民謡による6つの習作よりアンダンテ・ソステヌートという極く短い小品でした。

再開以後の演奏会は休憩無し、1時間程度のコンサートが主流のようですが、この定期はここで20分間の休憩があり、パソコン前の配信視聴者もトイレタイム、後片付けの時間として活用できるのがステイホームの良い所。
後半のベートーヴェンについては特に触れることもないでしょう。下野の田園は初めて聴きましたが、彼にしてはゆったり、良く歌う演奏で、やはり生演奏に餓えていた思いが滲み出ていたのかもしれません。

第3楽章が始まる前に3人(トランペット2とティンパニ)、演奏中ながら第4楽章前にも3人(ピッコロ、トロンボーン2)が舞台入りしてきたのは、感染防止対策の一環だろうと見ました。
その感染対策、コンサートの開始に当たって指揮者とコンマスが右手手袋で登場、二人がガッチリ手袋越しに握手していたのには楽員諸氏も大笑い。コンサートの最後も同じスタイルで締め括られましたが、手袋は新しいものと交換していたようにも見えました(モニター越しには軍手のようにも見えましたが)。更には協奏曲のソリストに対し、下野は「ブラボー」と大書した団扇を振っての声援。マエストロの面目躍如たるものがありましたね。

オーケストラのアンコールは、バッハの管弦楽組曲第3番よりアリアでしたが、チェロが朗々と歌うストコフスキーが編曲したヴァージョン。編曲作品にも拘る下野ならではのアンコールでした。

今回の映像画質、恐らくハイレゾ配信と思われる音質は、私がこれまで体験した日本国内のライブ・ストリーミングでは最高クラス。これなら有料(今回は1500円、他に寄付金付きもあり)でも十分納得のレヴェルでしょう。
聞き逃し配信、追加チケット販売もあるようで、9日一杯まで視聴可能とのこと、聞き逃し・見逃しされた方は、是非新日フィルのホームページからアクセスしてみてください。
7月に入って、様々な配信事業が急展開してきました。今回の映像を制作したカーテンコールでは10月から本放送がスタートするようですし、夏の音楽祭サマー・ミューザも全17公演が配信されるそうな。もちろん私は全部聴きセット券を購入する積りです。また日本フィルは3回の特別演奏会をテレビマンユニオンチャンネルで配信することを決定。本格的なコンサート全体の有料配信が始まるようです。

コロナ後のコンサートはライブとネットの同時進行、私が常々考えてきたことが一気に実現してしまう。そんな昨今の演奏会事情ではあります。

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