日本フィル・第722回東京定期演奏会

「日本フィルハーモニー交響楽団が、サントリーホールに帰ってきました!」
演奏を終え、マエストロが客席に向けて語り掛けた第一声に感動しなかった人はいなかったと思います。

当欄でナマのコンサートをレポートするのは2月下旬以来、個人的には4か月以上の空白を挟んでの「演奏会」でもありました。思えば、日本フィルの定期演奏会を聴いたのは、今年初めてのこと。1月定期は生憎パスしていましたので、日本フィルをナマで聴いたのも2月の九州公演以来ということになりましょう。その最後、鹿児島で堪能したのも同じブラームスの第1交響曲(ラザレフ指揮)でしたっけ。
3月から6月までの定期は全て中止、何とか再開に漕ぎつけることが出来た7月定期のプログラムは、当初の予定から1曲が割愛された以下のものでした。

バッハ/ブランデンブルク協奏曲第3番ト長調BWV1048
ブラームス/交響曲第1番ハ短調作品68
 指揮/広上淳一
 コンサートマスター/扇谷泰朋

この定期、当初の予定ではリゲティのヴァイオリン協奏曲が演奏される筈でしたが、舞台上でのソーシャル・ディスタンスに配慮してカット。指揮者は予定通り広上淳一でしたが、海外渡航が制限されている現在では、出演者や曲目を変更せざるを得ないオーケストラも続出しており、当面この状況が続くものと思われます。
私にとっては、演奏活動が再開されて初めて出掛けたコンサート。事前に様々な要請があり、例えばマスクを着用すること、ホール入り口で手指を消毒すること、チケットもぎりは自分で行い、プログラムも自身で取ること等々。

入場にも時間が掛かる旨の案内がありましたので、いつもより早めにサントリーホール着。開場時間も開演1時間前に繰り上げられていました。エントランスには間隔を空けた列が出来ているのかと思いきや、人影疎ら。本当に開場しているのかと拍子抜けするような光景でした。
入場時に体温チェックをします、ということでしたが、ピストル型の体温計を額に当てる方式ではなく、サーモグラフィーカメラでのチェック。ここで時間を取られることはありませんでした。消毒液も足踏み散布式になっており、これは初体験。
客席は満席の50%ということでしたが、送られてきたチケットはほぼいつもの定席。前後左右が空席なので、殿様になった様に贅沢な気分。いつもより見通しは良いのですが、マスクが外せないので、些か息苦しくはあります。

演奏時間と休憩時間については再開後のいくつかのオーケストラで対応が異なっているようですが、日本フィルの場合は休憩無しの1時間前後と徹底しています。7月から8月にかけて同じサントリーホールで3回の特別演奏会が企画されていますが、これも同様のプログラムになりました。
この3回も50%客席で実施し、その模様が配信されることになっていますが、この日の演奏も配信される由。会場には数か所、カメラが据えられていました。ただ今回の定期演奏会は日本フィル定期会員限定ということで、それ以外の方々は次なる3公演から有料で視聴してください。と、これは宣伝。

やはりナマのコンサートは独特の緊張感がありますね。事情が事情だけに、楽員登場を待つ客席でも私語はほとんど無し。張り詰めた雰囲気の中でメンバーが登場すると、自然に拍手が起きます。これまで東京では楽員登場を拍手で迎えることは稀(海外オケは別)でしたが、他のオーケストラの配信を見ていても共通しているように、再開を待ち望んでの “待ってました!!” という客席の気持ちが爆発するのでしょう。
一呼吸あって指揮者の登場。恒例のコンマスとの握手は無く、エア・ハイタッチという仕草に一瞬和みます。

冒頭のバッハは、弦楽器のみの合奏曲。今回はヴァイオリン3、ヴィオラ3、チェロ3に通奏低音としてコントラバス1とチェンバロという11人構成。チェロとチェンバロ以外は立奏での演奏でした。扇谷コンマスにアシスタント・コンマスの千葉清加、セカンド首席の神尾あずさによるヴァイオリン・チーム。今回のヴィオラ・トップはゲストの安達真理が座り(いや、立ち)、チェロはソロ・チェロの菊地知也以下。通奏低音はコントラバス首席の高山智仁とチェンバロが支えますが、チェンバロ奏者の名前はクレジットされていませんでした。
当初からこのスタイルを予定していたのか、やはり密を避けるために敢えて各パートを1名づつに絞ったのかは不明ですが、現代楽器による小振りなバッハで久し振りのナマ音に浸りました。

演奏が終わり、指揮者とメンバーがエア・ハイタッチ。客席はそのままで、舞台転換を静かに見守ります。
ブラームスはもちろん2管編成ですが、弦楽器は本来の編成に比べてプルト一つ程度少なくした構成。譜面台は1プルトに一つと、これまで通りの扱いでした。オーケストラによっては弦楽器も一人1台の譜面台というケースも見ましたが、弦楽器は息を使うわけではなく、実証実験でのこの程度の距離で問題なしという結論を踏まえたものと思われます。

流石にナマで聴くブラームスには圧倒されました。第1楽章提示部の繰り返しを実行し、少しでも長く音楽を楽しんで貰いたいという配慮とも受け取られます。
どんなに配信環境が向上しても、楽器が空気を震わせ、その振動が聴く者の身体を揺すってくる感覚までは再現できません。特にオーケストラがクライマックスで唸りを挙げるとき、実際に耳に届く音たち以外にも何かが鳴っているような実感。今日の例で言えば、第1楽章再現部直前や、第4楽章のコーダなど、マエストロと楽員たちの作品に寄せる、音楽への熱い思いが伝わってきます。
備長炭が燃え盛り、最良の食材を調理する趣と言えば良いでしょうか。この燻りこそが、正にブラームス。

ブラヴォ~などの掛け声は禁止されていますが、スタンディング・オヴェーションと手を高く掲げた拍手で演奏を称える客席。思わず目を潤ませる楽員たちもチラホラ。その拍手は、オケのメンバーの最後の一人が舞台を降りるまで続きました。
尤も、コロナ禍以降のコンサートでは、密集を避けるために座席ブロック毎に分けての退場が求められています。今回は2階客席→1階後方ブロック→1階前方ブロックの順。余程急いでいない限りは、拍手が止むまで自席で待機していなければならない、という事情もあるのでしょうが・・・。

これまでの演奏会は少し長過ぎると感じていた私などの隠居老人にとって、今回のような休憩無し1時間程度のコンサートは案外良いものです。帰りの時間を気にすることなくゆったりと楽しめるので、自ずと豊かな気持ちになる。御馳走は量より質、ということも改めて実感させてくれた再開定期でもありました。

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