サンティのオール・チャイコフスキー
放送音楽
これでやっと追いついた感じ。衛星放送の音楽番組を撮り貯めしたものを見終わりました。やれやれスッキリ。それなら止めりゃいいじゃないか、と思わないでもないけれど、まぁ暇だし。
これは11月のN響定期で、ネルロ・サンティの指揮するオール・チャイコフスキー・プログラムです。前半に交響曲第1番があり、後半は「エフゲニ・オネーギン」のポロネーズと「ロメオとジュリエット」。ロメジュリはいくつかある版のうち、最も普通に演奏される決定稿。
サンティとチャイコフスキーというのは、直ぐに結びつくような感じはしませんが、完全に掌握し切っているレパートリーなんでしょう。全て暗譜ですし、交響曲の冒頭でのテンポの与え方など、実に堂に入ったものです。第1楽章では1小節を1拍で振り、基本を3拍子で指示していきますから、実に安定した音楽が実現されてくるのです。正に老獪。
NHK音楽祭のときには触れなかったように思いますが、サンティは完全な対抗配置ですね。コントラバスが左奥。
以前の話ですが、某指揮者がN響に対抗配置を希望したところ、“うちはそんな配置は伝統的にやりません”、と断られたそうな。この指揮者本人の口から聞いたので間違いないでしょう。
ところが多分ブロムシュテット名誉指揮者の希望以来、N響も柔軟に対応しているようですね。オーケストラと指揮者の力関係か。
ドビュッシーの海でも気が付きましたが、サンティは老獪なマエストロ。スコアを知り尽くしています。ロメオとジュリエットでは、シンバルを楽譜とは違った叩かせ方をさせていました。具体的に指摘すると、446小節からの3小節。ロシアの版と西洋の版に違いがあるのかもしれませんが、オイレンブルクのポケット・スコアではシンバルは出ません。
ここは確かミュンシュ/ボストンがシンバル入りだったように記憶していますが、カラヤン/ウィーンで確認したら、カラヤンはスコア通り、シンバルなしで大太鼓だけ。
ロメオとジュリエットのような(誰でも知っている)名曲でも、演奏現場ではいろいろ変更があるもの。大ヴェテラン・サンティの指揮振りを面白く鑑賞しました。
いずれ手元の録音を片っ端からチェックしてみようかな。“誰も書かないチャイコフスキーの裏技” なぁんちゃって。
チャイコフスキーの管弦楽作品には、トランペットとコルネットを使い分ける作品が多いのですが、この日の3曲はどれもコルネットを使わない曲。この辺にも、現場叩き上げ親方指揮者による選曲の妙を感じてしまいました。
それにしてもサンティ、オペラ畑の指揮者ですね。テンポの取り方、歌い回しなど、聴かせ所というより見せ所的な要素が多分に含まれています。特に交響曲では顕著で、シンフォニーというよりバレエ組曲のように聴こえてしまうのでした。(もともとチャイコフスキーのシンフォニーにはそういう性格がありますから、それで大いに結構でしょう)
それ故に、例えば第3楽章のスケルツォなど、私にはどうにもテンポが遅く、トリオ部などは芝居ッ気が勝ち過ぎているように感じられてしまいます。
ポロネーズやロメ・ジュリは、作品の性格上、文句の付けようもありませんが・・・。
それにしてもN響のアンサンブル、もう少しアインザッツが揃わないものでしょうかねぇ。ロメオの序奏から主部に移る場面の木管の和音。いつもバラバラなんです。真面目に聴いているとチョッとイライラしてしまいました。
あとは気の毒なことですが、サンティさん、テレビ撮影用の照明の強さが気に食わなかったみたい。交響曲の楽章間で2度ほど眩しくてたまらん、という顔をしていました。N響には年配のマエストロが数多く登場しますから、こういう所も少し配慮が必要じゃないか、などと余計な心配もしてしまいました。
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