ウィーン国立歌劇場アーカイヴ(70)
ロックダウン解除が先送りされたウィーン、現地時間3月9日にはアーカイヴとしてワーグナーの歌劇「さまよえるオランダ人」が配信されています。
3月も第2週に入り、そろそろアーカイヴもネタが尽きたのではないかと思っていましたが、何とアーカイヴ初登場のオランダ人を急遽見ることが出来ました。
個人的な話ですが、2月中旬には二期会の「タンホイザー」、先週末にはびわ湖の「ローエングリン」、そして今回ウィーンの「オランダ人」と、生演奏、配信の違いがあるとはいえ、ほぼ3週間の間にワーグナーの三つの歌劇を集中体験することとなってしまいました。何とも贅沢な日々ではあります。
オランダ人/ミヒャエル・ヴォレ Michael Volle
船長ダーラント/ハンス=ペーター・ケーニッヒ Hans-Peter Koenig
ゼンタ/リカルダ・メルベス Ricarda Merbeth
エリック/ヘルベルト・リッパート Herbert Lippert
マリー/キャロル・ウイルソン Carole Wilson
舵取り/トーマス・エベンシュタイン Thomas Ebenstein
指揮/ペーター・シュナイダー Peter Schneider
演出/ステファン・マイヤー Stefan Mayer
突然のことだったので、感想は簡単に。オランダ人には三つの幕を休憩を入れながら上演する3幕版と、幕間を置かず一気に上演する1幕版とがありますが、最近のウィーンでは通し上演の1幕が慣例のようですね。
今回配信されたものは2015年9月11日の公演だそうで、コンマスはライナー・キュッヒルさんです。序曲も通常の終結部ではなく、異稿が使われているようですが、この辺りは詳しくないのでそのまま聴き流しました。
マイヤー演出は大きな額縁で囲われているような舞台で、左右の橋が湾曲していて如何にも船の甲板のよう。全3幕がこの設定を基本にし、全体に暗い舞台を紗幕と照明を効果的に使って作品の幻想的な雰囲気を伝えてくれます。
有り勝ちな読み替え、深読みではなく、抽象的ではありながら安心して見ていられる伝統的なワーグナー演出の一つとして鑑賞できました。オーストリア国内向けの映像作品のようで、字幕はドイツ語と英語のみ。長引くロックダウンによる蔵出し映像の一つでしょうか、素直に恩恵に与りましょう。
2時間半のぶっ通し上演ですが、退屈とは無縁。特に第2幕でのゼンタとエリックの二重唱、リッパート演ずるエリックが歌はもちろん、芝居が見事で、オペラ全体が引き立ちます。
合唱の迫力は言わずもがな。通常のレパートリー上演の一つでしょうが、老練なシュナイダーの指揮と言い、こうしたヴェテランたちの伝統を揺るがせにしない演奏はもっと高く評価されるべきでしょう。
思わぬ拾い物と言っては失礼なオランダ人でした。
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