サルビアホール 第134回クァルテット・シリーズ

これが4度目になるんでしょうか、東京都にまたまた緊急事態宣言が発出された初日、不謹慎にも多摩川を渡って鶴見に出掛けてしまいました。サルビアホールのクァルテット・シリーズ、シーズン43の1回目となる第134回です。
去年からのコロナ騒動は1年半経った今も収まらず、シーズン制を敷いているサルビアのクァルテット・シリーズも混乱の極み。この日はシーズン43の1回目ということになりましたが、既にシーズン44が2公演を終えており、シーズン途中。本来ならアマービレはシーズン43の最後だったはずですが、毎回通っている小欄も何処にいるのか判らない状態になっていますね。中止と延期、チケットの券面に記してある日付とは異なる演奏会もあったりして、期日が近付くと毎回のようにホームページとチケットを確認しなければなりません。

相変わらず海外の団体については先行き不透明。昨今の政府対応のゴタゴタを見ていると、正常に戻るのは未だ数年先のことになるのじゃないかと暗澹たる気持ちになります。
そんなモヤモヤを吹き飛ばしてくれるのが、去年秋から始まっている日本の団体の健闘で、昨日もシーズン43と44のライジング・スターたちの元気一杯の演奏を楽しんできました。

ベートーヴェン/弦楽四重奏曲第1番ヘ長調作品18-1
ドヴォルザーク/弦楽四重奏曲第12番ヘ長調作品96「アメリカ」
     ~休憩~
ピアソラ/ブエノスアイレスの四季(山中惇史編曲)
 カルテット・アマービレ

最近あちこちでその名を目にするようになったカルテット・アマービレは、2018年2月以来となる3年5か月ぶりの再登場。前回は彼らの師でもあるヴィオラの磯村和英、チェロにキリル・ズロト二コフを迎えてシューベルトの五重奏曲とブラームスの六重奏曲というプログラム。純粋な弦楽四重奏はシューベルトの断章のみという演奏会でしたから、本格的に彼等だけの四重奏はこの日が初めてでした。

メンバーや経歴は前回(第91回)を参照して頂くとして、今回はメンバーこそ変更は無かったものの、4人の並び方はガラリと変わっていました。つまり、3年前は極めてオーソドックスな配置でしたが、今回は舞台下手からファースト→チェロ→ヴィオラ→セカンドの順。外声チームと内声チームに分かれる形で、チェロとヴィオラは正面を向くような座り方。チェロとセカンドが電子楽譜を使用し、後半のピアソラではファーストもタブレットを足で操作しながら演奏してました。
変わったことはこれだけではなく、ヴィオラ(中恵菜)が新日本フィルの首席に就任したばかりなのだとか。会場では就任記念のコンサートだ、という声も聞こえてきました。新日って結構忙しいオーケストラですから、カルテット・アマービレが今後も常設団体として活動を続けていくことが出来るのか、老婆心ながら心配してしまいます。クァルテットに立ちはだかる壁、ですな。

鶴見にはコアな室内楽ファン、本当の音楽好きが集うのは半ば常識になっているようで、この回はチケット完売。いかにも追っかけファンが多そうなグループに成長してきましたね。彼らが使用している楽器は、すっかり常連になった宗次ホールのコレクションと聞いています。
アマービレは王子ホールで6年がかりのベートーヴェン全曲をスタートさせたばかり。直近では調布国際音楽祭に出演し、現代作品ばかりのコンサートが好評を博した由。その時に演奏したピアソラが、鶴見でもメインとして選ばれたワケ。明日は桐生だそうですし、霧島国際音楽祭にも出演。個人的には夏のミューザでもアダムスのアブソリュート・ジェストを聴くことになっています。

今や日本中から引っ張りだこ状態のアマービレ、その変化というか成長は演奏にも明らかで、前回の初登場時と比べて自信満々で弾いている姿を見ても確認できました。冒頭のベートーヴェンは、これから全曲演奏に挑んで行くスタート地点。意気込みを見せつけるように攻めのベートーヴェンに徹していたようです。
その流れは前半2曲目のアメリカでも顕著で、ドヴォルザークの郷愁感に満ちたメランコリックな表現とは程遠いものがありました。ドヴォルザークは鉄チャンとして有名ですが、特に第4楽章など、長閑な田園風景を眺めながらの鉄道旅というよりは新幹線でのビジネス旅という印象。これが若者の、今時の弦楽四重奏なのでしょう。

後半のピアソラが演奏されるのは、本編ではサルビア初。私の記憶では、アトリウムQがアンコールでリベル・タンゴを披露してくれたことがあっただけでしょう。もちろん今年が生誕100年に当たることからの選曲でしょうが、この選曲にもアマービレらしさが出ているのだと思います。
調布では三善晃、ヴィドマン(狩りの四重奏)、鈴木優人の新曲などを演奏したようですが、彼らにとってベートーヴェンやドヴォルザークより共感度が高いのが現代作品であろうと想像できます。実際、生き生きとした、ノリの良いピアソラに追っかけファンたちは大喜びしている様子でした。サルビアホールなら、作品に使われる特殊奏法や悲鳴を挙げる楽器たちの様子が手に取るように判りますからね。

私は常日頃からピアソラを聴いている人間ではありませんから、正直なところ良く解りません。今回は作曲家でピアニストとしても、料理愛好家としても活動している山中惇史が弦楽四重奏用に編曲した版での演奏でしたが、夏から始まって春で終わる順序は、アルゼンチンが南半球なので1年は真夏に始まるから、なのだそうな。そう言えば最初から四季として書かれた作品ではなく、個々に書き進む中で四季として纏められた音楽。
本来はピアソラ自身が弾くバンドネオンを中心にした五重奏(他はヴァイオリン、ピアノ、コントラバス、エレキギター)で演奏するのが前提だそうですが、大はオーケストラから小はギター・ソロまで、極めて多様な編曲版が存在します。

ただ、南米の四季は日本とは全く異なるのでしょう、聴いている限りでは春夏秋冬の区別は全く付きませんでした。これなら演奏順も季節の順番に拘る必要は無いのじゃ、とも思いましたね。
最後は笹沼チェロが、“サルビアホールは日本一耳の肥えた弦楽四重奏の聴き手が集うホール” と持ち上げ、“そこでピアソラは如何なものかと思われるかもしれませんが、今年は生誕100年でもあり、その流れからアンコールもリベル・タンゴ” と締めました。

大丈夫ですよ、カルテット・アマービレの皆さん。ここサルビアではこれまでもジャズを弾いたグループもあれば、何とロックが登場したこともあります。タンゴなんて全然怖くないですよ。
ということで、次は何を披露してくれるかな。現代音楽ばかり並べて隠居老人たちの度肝を抜いて下さいな。

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