フェスタサマーミューザ2021・東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団
7月22日に開幕した今年のサマーミューザ。小欄も7回ほど選んで川崎に出掛けますが、都響・読響に続いて生演奏を楽しんだのは、フェスタ9日目の東京シティ・フィルのスメタナでした。
土曜日のマチネとあって開演は午後3時。1時間前に開場され、2時20分からは高関健によるプレトークが行われます。
スメタナ/連作交響詩「わが祖国」
第1曲「ヴィシェフラド」
第2曲「ヴルタヴァ」
第3曲「シャールカ」
~休憩~
第4曲「ボヘミアの森と草原から」
第5曲「ターボル」
第6曲「ブラニーク」
東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団
指揮/高関健
コンサートマスター/戸澤哲夫
オープニングの東京交響楽団こそオケの事務局長によるトークでしたが、その後アンサンブル金沢、都響、読響は何れもマエストロ自身によるプレトーク。これが3人3様でとても面白い聞き物でもありました。
この日は如何にも学者肌のマエストロとあって、プレトークから燕尾服。しかも小脇に分厚い書物を2冊抱えての登場です。
学者風であるのは自らも認めていて、1冊は「わが祖国」の合本スコア、もう一冊がスメタナに関する研究書とのこと。トークは作品に関する思い出、スメタナの経歴、わが祖国の作品解説の3部で構成されていました。時間通り20分間、みっちり詰まった内容が聞けます。
中でも面白かったのは、持参した合本スコアはマエストロが中学2年の時に初めて「わが祖国」をナマで聴いた時に合わせて購入したという話。1972年10月に新日本フィルがズデニェーク・コシュラ―と演奏した同オケの第2回定期演奏会だったそうで、氏はスコアに購入日付をキチンとメモしてあるそうな。
この話を聞いて思わずニヤッとしてしまったのは、かく言う小欄も似たような体験をしていたから。さすがに高関氏ほどませていなかった私が初めて「わが祖国」全曲をナマで聴いたのは、大学4年の時。1968年9月のN響定期でのことで、ロヴロ・フォン・マタチッチの指揮でした。
1968年は正にプラハの春、いわゆるチェコ事件が起きた年(8月20日にソ連軍がプラハ侵攻)で、その直後だった定期は、確かマタチッチが書いた抗議文がプログラムに挟まれていたのじゃなかったかしら。
私も演奏会に先立ってスコアを買い揃えましたが、その時は合本が無く、6曲を一つづつバラで入手。高関氏と同じくスコアに書き付けた購入日時は、1968年5月20日となっています。9歳年下に同じようなことをしている音楽好きがいたとは・・・。
ということで、私にとっても「わが祖国」は思い出深い名曲。聴いた時期が時期だけに、一入の感慨を持っての初体験でしたね。
私のような凡人とは違い、高関少年にとってこの体験が指揮者になる切っ掛けに。継続的な関係を持つオーケストラとの大事な初回には、必ずこの曲を提案してきたという大切な作品でもありました。この日のプログラムにはマエストロとの特別インタビューが掲載され、作品のこと、東京シティ・フィルとのことが詳しく語られています。
高関が東京シティ・フィルの常任指揮者に就任した披露演奏会も「わが祖国」でしたが、今回は音響が極めて優れているミューザ川崎シンフォニーホールでのフェスタということで、就任時以来となる再演で6年間の成果を示したいという意気込みがあったようです。
前回と異なるのは、コロナの影響で大編成が組めないこと。この日は弦楽器を通常より減らし、12-10-8-6-6での演奏でした。その分、管楽器が良く聴こえることになり、いつもとは多少趣の異なるスメタナとなっていたのかもしれません。この日はヒナ壇を使わず、全楽器が同じ平面に並んでいたのは、あるいは音響面での配慮だったのでしょうか。
一つだけ気が付いた点を挙げると、第1曲「ヴィシェフラド」のクライマックス、アレグロ・アジタートで弦楽器がブルックナー顔負けの激しいトレモロで頂点を描いた後、第222小節でクラリネットとファゴットが全曲の核となるモチーフを高らかに吹き上げる。この箇所での管楽器の響きが、いつもより明瞭に、意味深く響いていたのは、その成果と言えるでしょう。
20分の休憩を挟んでの全曲演奏。マエストロは譜面台に件の全曲ポケット・スコアを置いたまま楽譜を開くことは無く、暗譜で振り通しました。音符の細部まで頭に叩き込まれているのでしょう。
東京シティ・フィルは、去年は桂冠名誉指揮者・飯守泰次郎とブルックナーを、そして一昨年も首席客演指揮者・藤岡幸夫と芥川也寸志の交響曲でサマーミューザを沸かせました。常任指揮者・高関健との3人態勢が上手く連携され、今や絶好調。
定期演奏会の会場である初台の東京オペラシティコンサートホール、そしてもう一つの人気シリーズの会場であるティアラこうとう(江東公会堂)も、共に拙宅からはやや不便な立地にあります。どちらのシリーズも他の演奏会とバッティングすることが多く、残念ながらシティフィルのライブに出掛ける機会に恵まれません。
そんなこともあり、ミューザ川崎の素晴らしい音響空間で彼らを聴けるのは、フェスタサマーミューザの最大の楽しみの一つ。昨日もその充実したオーケストラ・サウンドに酔うことが出来ました。これからも毎夏、東京シティ・フィルの登場を聴き逃さないようにしましょう。
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