フェスタサマーミューザ2021・日本フィルハーモニー交響楽団

フェスタサマーミューザ2021、8月6日の東フィルに続き、7日は日本フィルを聴いてきました。二日連続で川崎に出掛けたのは、今年のフェスでは初めてであり唯一のことでもあります。
首都圏は連日のように猛暑に見舞われていますが、気が付けば7日は立秋。申し合わせたように野分が近付いてきているようで、この日は時折強い雨も降る不安定な空模様でした。

この時期、日本フィルは連日のように夏休みコンサートで様々なホールを巡回しており、毎年のサマーミューザは夏休みコンサートが一段落した立秋頃が出番と決まっています。日フィルにとってフェスタは、秋シーズンのスタートという感覚なのかもしれません。
今年は下野竜也を迎え、二大文豪ゆかりの名作を並べたプログラムで、他とは一味違った内容を聴かせてくれました。一見地味ながら、クラシック音楽の通を唸らせる選曲でもあります。

ウェーバー/歌劇「オベロン」序曲
ヴォーン=ウイリアムス/「グリーンスリーヴス」による幻想曲
ニコライ/歌劇「ウインザーの陽気な女房たち」序曲
     ~休憩~
ベートーヴェン/劇音楽「エグモント」全曲
 日本フィルハーモニー交響楽団
 指揮/下野竜也
 語り/宮本益光
 ソプラノ/石橋栄実
 コンサートマスター/扇谷泰朋

プレトークでは、先ずマエストロが今回のプログラムを作るに至った経緯を解説。続いて「エグモント」で語りを務める「歌手」の宮本益光を加えて作品についてのあれこれが対談形式で紹介されます。最後は下野が語る日フィルの思い出で、これはマエストロサロンなどで何度も聞いた昔話でもありました。下野少年が憧れた日本フィルとの出会い。
最初に決まった曲目が広島交響楽団で取り上げた「エグモント」で、これに組み合わせる作品を考慮しているときに思いついたのが、後半のゲーテに対して前半はシェークスピアで、ということだったそうです。如何にも下野らしい凝った選曲。

特に「エグモント」は、序曲以外は滅多にナマでは聴けない作品。これを逃すと次にチャンスが巡ってくるのは何時になることやら。
そのエグモント全曲、一時期はよく演奏されていたし、マタチッチがN響で取り上げたこともりました。序曲の次のナンバーとなるクレールヒェンの歌「太鼓を鳴らし」は単独でも歌われる人気曲でしたし、戦前は時折聴かれていた一品ですが、最近はメッキリ聴かれなくなりましたね。

今回の上演では、宮本の語りは舞台下手の奥。2曲あるソプラノの歌曲は、歌の時だけ石橋が登場して舞台上手奥で歌うというスタイル。語りはもちろん日本語で、藁谷郁美(わらがい・いくみ)氏による素晴らしい翻訳が使用されました。第1曲と第4曲の歌曲は、ドイツ語歌唱。
第3曲に当たる間奏曲第2番は、何処か歌劇「フィデリオ」を想起させる雰囲気があり、ベートーヴェンが好んだ題材であるというのも頷けました。

プレトークで下野が、序曲冒頭に登場する重々しいリズムは実はサラバンドで、これがエグモントにとって敵国のスペインを象徴するものである、と紹介していました。“自慢するわけじゃないけれど”と、さり気無く自慢する所が下野らしくて好感が持てますね。
では独立運動の指導者であるエグモントを象徴するオランダは何処で表現されているのか、と考えちゃいますよね。思うにベートーヴェンは、オランダもその一部であったフランドル系とも言われています。16世紀フランドル楽派の特徴と言えば、4声のポリフォニーでしょうか。冒頭のサラバンドに応える木管の合奏は確かに4声(オーボエ、クラリネット、2本のファゴット)のようだし、コーダ直前の4つの和音もエグモント、即ちオランダの象徴なのかも。などと考えてしまうと、聴き慣れたエグモント序曲もまた新鮮に聴こえてくるじゃありませんか。

一方、前半はシェークスピアから題材を取った名曲が3曲。シェークスピアと言ってもロメオとジュリエットやオセロなどの重いテーマではなく、真夏の夜の夢とウインザーの陽気な女房たちという軽妙洒脱な題材から。
こちらは耳に馴染んだ作品が一気に演奏されましたが、一つ気になったのは、プログラム誌に書かれていたイギリスの作曲家がラルフ・ヴォーン・ウイリアムスとなっていたこと。ファースト・ネームのラルフ Ralph は、素直に読めば確かにラルフですが、その昔、音楽の先輩が物知り顔に「これはレイフと読むんじゃ」と教えてくれたことがあります。これは古い英語の読み方だそうですが、私はずっとレイフ・ヴォーン=ウイリアムスと読んできました。最近は解釈が変わったんでしょうか。また勉強し直さなければいけませんな。

そんなどうでも良いことはさておき、オベロン、グリーンスリーヴス、ニコライの序曲がミューザに美しく響きます。やはり日本フィルは弦が美しく、管楽器とのバランスが良い。
下野竜也のプログラムに接すると、どうしても細部に拘って聴いてしまいます。二大文豪ゆかりのプログラムは有名曲ありレア作品ありと、噛めば噛むほどに味わい深くなる素敵な2時間弱でした。

ところで日本フィルの横浜定期はみなとみらいホールが本拠地ですが、9月から始まる新シーズンは本拠地が改修工事中のため、ミューザ川崎でも3回の定期が予定されています。
どうか無事に開催されることを祈ると同時に、再びミューザで聴ける日フィルを楽しもうじゃありませんか。

Pocket
LINEで送る

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください