フェスタサマーミューザ2018「日本フィルハーモニー交響楽団」

今年のフェスタサマーミューザ、詳細が発表された時に最も気になっていたのがこの演奏会。ラフマニノフのピアノ協奏曲第5番って何じゃ、というのがその心ですが、多分殆どの人がそうでしょう。
クラシック業界最新事情というものに疎いので初めて知った事実ですが、ラフマニノフの遺作が発見された、と言うことではないことが分かりました。事情を調べていて実際に自分の耳で確かめたくなり、参戦を決意。早目にチケットをゲットしたのが正解だったようで、このコンサートは早々と完売になってしまったとのこと。ホ短調繋がりでもある次のプログラム。

ラフマニノフ(ヴァレンベルク編)/ピアノ協奏曲第5番ホ短調(日本初演)
     ~休憩~
シベリウス/交響曲第1番ホ短調作品39
 指揮/藤岡幸夫
 ピアノ/反田恭平
 コンサートマスター/千葉清加

いつもサントリーや横浜みなとみらいで見ているオケの面々がミューザに登場してくるのを見るのは、何となく不思議でもあります。真夏ということでゲスト・プレイヤーが多かったようですが・・・。
顔ぶれと言えば音楽評論家比率が高いことにも気付きます。この方面もまた疎いのですが、それでも顔と名前が一致する批評家諸氏の姿を何人も見かけましたね。やはりラフマニノフの日本初演は一度は聴いておかないと、ということでしょうか。

事情に詳しいコンサート通に伺うと、チケットがミューザで真っ先に完売となったのはピアニスト人気とのこと。いつもはガラガラの公開リハーサルも、この日ばかりは若い女性ファンがズラリと順番待ちをしていた由。恥ずかしながら私はこのピアニスト、初めて聴くのですが、その面からも興味をそそられました。確か今年の日フィル九州ツアーでもソリストを務めた方ですよね。
2階右寄りに席を取ると、確かに客席はほぼ埋まっていました。若い女性と評論家たち、こんなコンサートは久し振りです。

それはともかく、先ずはラフマニノフ。誕生の経緯に関し、発案者でもあるブリリアント・レーベルのプロデューサー、ピーター・ファン・ヴィンケル氏の紹介文がネットで公開されていますので、これをコピペしちゃいましょう。こんな話です。

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ブリリアント社では、ラフマニノフ作曲 交響曲第2番をピアノと管弦楽用に編曲するという企画を2000年から進めてきました。当時のクリスマス時期に思いついたものです。
この曲はラフマニノフの作品の中でも特に大きな一曲として有名です。私は以前から、ラフマニノフの音楽を聴くと、オーケストラの音よりもピアノの音を連想していました。ラフマニノフの音楽的な個性は器楽に向いていると考えます。交響曲第2番を聴くとピアノを連想し続けてしまうのです。こんな素晴らしい曲がピアノ曲として存在しないことは残念でなりませんでした。ラフマニノフが残したスコアを見て考えていくうちに、作品に対して異論を唱えている訳ではありませんが、何かが足りないのでは…と考えるようになってしまったのです。…ピアノを入れてみるのはどうだろうか…?
ベートーヴェンやチャイコフスキーの交響曲をこのように編曲するのは馬鹿げていますが、ラフマニノフの交響曲第2番の場合は違うと考えます。この作品はもちろん「正統な協奏曲」ではありませんが、しかし例えばフィナーレの部分では、ピアノ独奏者の活躍を想像することが出来はしないでしょうか。美しい旋律に恵まれたこの作品で、ピアノがオーケストラに負けない重要な役割を果たすという協奏曲スタイルへの編曲を完成させたいという夢を、私はずっと抱いてきたのです。
その夢を実現させるためには、まず編曲者を探さなくてはなりませんが、私は、自分の師でもあるアレクサンダー・ヴァレンベルグ氏に編曲を依頼することにしました。この曲のイメージを壊さずに新しい協奏曲という形にすることが出来るのは、豊かな才能と想像力を持った彼が最適と思ったからです。
ヴァレンベルグ氏は最初、「この提案は不可能であり、成功しないだろう。」と言いましたが、私が執拗に依頼し続けた結果、ついに折れ、編曲をしてくれることとなったのです。
私は、今までこれほど具体的なイメージを持ってアルバムをプロデュースしたことがかつてなかったので、まもなく完成してくる編曲には、大きな期待と共に少々の不安も抱いていました。しかし実際にはヴァレンベルグ氏は、私の目指すものを明確に理解されており、そしてついに新たなスタイルの作品が誕生することとなったのです。それはピアノとオーケストラがうまくバランスし、そしてラフマニノフ独特のピアニズムを崩すことなく、技巧的にも高度にアレンジされた見事なものでした。それは何かのコピーや真似では決してなく、新たなラフマニノフの姿と十分に言い得るもので、最初から最後まで実に素晴らしいものとなっていました。
このヴァレンベルグ氏による編曲は、作曲家の権利財団と孫のアレクサンダー・ラフマニノフの許可を得ることができ、出版にはブージー&ホークス社に協力を得ることもできました。
そして今、ここに素晴らしい作品を完成・発売することができることを私は大変喜ばしく思います。

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ナクソスのNMLでも予習用にということで別録音(ドイツ・グラモフォン盤)が配信されていますので、事前にそれも聴いてきました。なるほどラフマニノフ節満載(本人の第2交響曲だから当たり前か)のピアノ協奏曲で、ピアノ部分も最初からピアノ用に書かれたかのように響きます。4楽章の交響曲を3楽章の協奏曲に凝縮していますが、協奏曲の第2楽章は、交響曲のアダージョに交響曲の第2楽章中間部を挟み込んで3部形式のように作り変えています。第3楽章は、ピアノに有名な第2・3協奏曲を髣髴とさせるようなパッセージを盛り込んでおり、ここは笑えましたね。
オーケストレーションは交響曲第2番と全く同じ(?)で、3管編成(ファゴットのみ2管)を基本に打楽器も全て揃います(ティンパニ、大太鼓、シンバル、小太鼓、鐘)。当然ながらこの大音量ではピアノが埋没してしまいますが、そこは第1楽章にカデンツァ相当の部分を置き、ピアニストにも十分な配慮が感じられました。このカデンツァは冒頭の序奏部分を再現するもので、交響曲本体には無い展開。

プログラムによると、ロシア初演は2009年にモスクワ音楽院大ホールでデニス・マツーエフのピアノ、ウラディーミル・スピヴァコフが行ったそうで、その音源と映像もあるそうな(反田氏の解説)。ナクソスで聴けるジョンウォンというピアニストが2010年にアジア初演し、今回が日本初演。この解説だけでは世界初演が誰で、何処かは判りませんが・・・。

その日本初演、今回は使用されたピアノ自体にも注目が集まります。反田が好んで使用しているというニューヨーク・スタインウェイで、かつてホロヴィッツが使っていたピアノ。何故これが日本で弾けるのか詳しいことは知りませんが、かなり以前に江口玲が弾いていたのを聴いた覚えがあります。確かに艶消ししたようなピアノの顔に見覚えがありました。今回は態々この骨董的逸品をホールに持ち込んでの演奏。
ホールに備えられているスタインウェイとは明らかに音色が異なるのは誰の耳でも明らかで、演奏終了後にピアノの周りに人だかりが出来ていた程。低音部のジーンと響く張りのある音を聴いていると、気の所為かホロヴィッツを思い出してしまいました。

初めて聴いた反田、この演奏、この作品だけで云々は言えませんが、テクニックは完璧で、スケールの大きなピアニズムが多くのファンを惹き付けていることに納得。何れはソロ・リサイタルなども聴いてみたいと思いますが、チケット争奪戦が激しそう。
私が会員になっているオーケストラの定期演奏会に登場してくれる機会を待ちましょうか。

後半は、藤岡の師である渡邉暁雄譲りのシベリウス。アンコールのエルガー(「夕べの歌」。本来のピアノ伴奏付きヴァイオリン曲を「朝の歌」と共に小オーケストラ用に作品15として纏めたもの)共々、藤岡が得意とする作品で客席の喝采を浴びていました。

 

 

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