神奈川フィル・第371回定期演奏会
前日の日本フィルに続き、11日の土曜日は神奈川フィルの定期を聴いてきました。本拠地のみなとみらいホールが改修工事中のため、会場はミューザ川崎シンフォニーホールです。
神奈川フィルの定期会員ではないので、もちろん単発券での参加。チケットをゲットした直後に緊急事態宣言の延長によりチケット販売が停止されましたから、速目に手を打っておいてよかったと思います。チケットを売る側も買う側も色々考慮しなければならない、面倒な世の中になってしまいましたね。
お目当ては、もちろん9月定期を振るカーチュン・ウォン。ウォンが神奈フィルの定期に登場するのは今回が3回目で、2017年、2019年に続き2年に一度のペースになっています。
初共演は2017年6月の第330回定期で、この時はピアノに松田華音を迎えてラフマニノフの第2協奏曲と同じくラフマニノフの第2交響曲というプロ。前回2019年11月にはワーグナーのタンホイザー序曲、神奈フィルの看板ソリストである﨑谷のヴァイオリンと門脇大樹のチェロでブラームスの二重協奏曲。メインがエルガーのエニグマ変奏曲というプログラムでした。そして今回は、
ブラームス/ピアノ協奏曲第2番変ロ長調作品83
~休憩~
ベートーヴェン/交響曲第7番イ長調作品92
指揮/カーチュン・ウォン
ピアノ/三浦謙司
コンサートマスター/﨑谷直人
前半のブラームス、第3楽章のチェロ・ソロは門脇大樹が務めましたから、前回に続いて3人の共演が再現されたことになり、神奈フィルの定期会員たちも熱い拍手を贈っていましたね。
カーチュン・ウォンは、先日、日本フィルの首席客演指揮者就任が発表されたばかり。9月2日には、やはり何度も共演を重ねている九州交響楽団の定期を振っていましたが、九響も神奈フィルもウォンに対する信頼は厚く、引き続き客演が期待できると見て良いでしょう。
今回のブラームスでソロを弾いた三浦謙司は、1993年神戸生まれ。13歳で英国政府奨学金を獲得して単身渡英し、ロンドンで学んだ逸材。2019年にロン・ティボー・クレスパン国際コンクールで優勝し、3つの特別賞も獲得しています。因みにこの時の2位が務川慧悟ですし、その前年のヴァイオリン部門では今話題の金川真弓がアメリカ国籍で出場して2位に入賞していました。
しかし三浦は2012年夏に一旦、音楽の世界から「引退」し、様々な仕事をしながらボランティア活動にも参加していたという変わり種でもあります。私の視野から外れていたのは恐らくそのためで、今回初めて聴くことが出来ました。
そのブラームスは如何にも、というブラームス。このところ若手の台頭著しい日本楽壇ですが、また一人素晴らしいピアニストと出会ってしまいました。この後も大阪でのリサイタル、東京交響楽団、新日本フィル、山形交響楽団、京都市交響楽団との共演も予定されており、直ぐにこのピアニストに再開できることを期待しましょう。
演奏後の客席に向かっての挨拶が誠に真摯で、この面でも好印象を持ちましたね。
カーテンコールに注目したのは、カーチュン・ウォンも同じ。先ずソリストを讃えたあと、オケの主要メンバーに起立を求めるのですが、ウォンの場合は必ず演奏した作品で最も重要なパートを受け持った奏者を指し示します。
ブラームスのピアノ協奏曲第2番の場合は、先ず1番ホルン、続いてが3番ホルンなのですね。音だけ聴いていると分からないかもしれませんが、冒頭のホルン・ソロは最初は1番ですが、途中の調が異なる箇所では3番が吹きます。重要度からいえば1番と3番は同等で、もちろんウォンはそれを百も承知。続いてがオーボエの1番で、最後にチェロ首席の山脇大樹。二度目のカーテンコールでは山脇をその場で立たせるだけでなく、舞台正面に押し出すようにして讃えていたのが、如何にもカーチュン・ウォンならではのカーテンコールでした。
拍手に応え、三浦のアンコールはフェデリコ・モンポウの前奏曲第5番。ブラームスとは全く異なる音世界を垣間見せてくれました。
休憩の後は、期待のベートーヴェン第7交響曲。カーチュン・ウォンのベートーヴェンでは田園交響曲が衝撃的でしたが、今回の第7も流石です。第1楽章の序奏部からして、えっ、クラリネットにこんな動きがあったっけ、と初めて作品に接したような新鮮さに満ちたものでした。
ウォンのベートーヴェンは、最近流行の固くて速い古楽スタイルではありません。あくまでも楽譜に忠実、ベートーヴェンが書いたことしか演奏しないという原典主義でもありません。リピートも全て実行するようなことは無く、極めて伝統的且つ現実的。
弦楽器は12型、対向配置でしたが、金管楽器ではスコアの指示がホルン2本なのに対し今回はホルン4本。トランペットも2本の指示に対し、第4楽章だけ第3トランペットを加えるのです。この第3トランペットも最初から最後まで吹くのではなく、見た限りでは要所要所での効果的な使い方のようでした。
如何にもベートーヴェンらしいベートーヴェンで、フォルテ(f)、フォルティッシモ(ff)、スフォルツァート(sf)はキチンと区別されている。もちろん終楽章のコーダで登場する fff 然りで、ここでオーケストラのパワーが最高潮に達して絶大な効果を挙げていたのは当然でしょう。
マエストロは交響曲はもちろん、協奏曲も全て暗譜で指揮しますが、スコアの隅々まで読み込んでいることは、その指揮振りから見て明らか。指示が適切なので、オーケストラのメンバーも安心して弾けるのだろうと想像できます。
今回がナマでは4回目のウォン体験でしたが、その独特な振り方も大分判ってきました。両手を頭上でグルグル振り回す振り方、膝を折るように屈み込み、最弱音を要求する仕草、舟を漕ぐように体を屈伸させ、クレッシェンドを効果的に曳き出す身振り等々。
さすがに来週の仙台フィル定期(ラフマニノフ尽し)遠征は遠慮しますが、差し当たって12月の日本フィル東京定期では得意のマーラーが聴けそう。これからもカーチュン・ウォン追っ掛けは続くことになりそうです。
今回は2階席、時間差退席に従って最後にホールを出ると、途中のザルツブルク市のコーナーに人だかりが・・・。誰かと思って見ると、マスク姿で良くは見えませんでしたが、一人はヘアスタイルから反田恭平じゃないか。とすると、もう一人は先ほどブラームスを弾いたばかりの三浦謙司かしら。二人で肩を組み、ファンの求めに気軽に応じて大勢のスマホにポーズを取っていました。
それにしても頼もしい音楽たちが続々と出てくることよ。
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