神奈川フィル・第12回音楽堂シリーズ

7月の第3土曜日、本来この日は日本フィル横浜定期のチケットがあるのですが、特殊なクラシック・ファンに絶大な人気のある西本智美の指揮。私共のチケットはより熱心なファンに譲って、横浜は横浜でも別の演奏会を聴いてきました。
二つのコンサートには3時間の時差があるので梯子は十分に可能ですが、私は信条として一日演奏会は1回と決めています。神奈フィル1本に絞りました。

吉松隆/鳥は静かに・・・
モーツァルト/協奏交響曲変ホ長調K297b
     ~休憩~
ハイドン/交響曲第94番ト長調「驚愕」
 指揮/川瀬賢太郎
 オーボエ/古山真里江(こやま・まりえ)
 クラリネット/齋藤雄介(さいとう・ゆうすけ)
 ファゴット/鈴木一成(すずき・かずなり)
 ホルン/豊田実加(とよだ・みか)
 コントマスター/石田泰尚(いしだ・やすなお)

このコンサート、日フィルを敬遠しても行きたかった理由が二つ。一つは川瀬賢太郎のハイドンは絶対に聴き逃したくないから。
もう一つは、シリーズの会場である神奈川県立音楽堂が来年改修工事に入るため、聴き慣れたホールでは最後の演奏会になるからでもありました。しっかり今の素晴らしい木質の響きを耳に止めておきましょう。

時間は少し早いけれど、余りにも暑いので早めにホールのロビーで涼むことにしました。それに開演30分前からはプレトークがあり、経験上これも聞きたい。
そのプレトーク、神奈フィル副指揮者の阿部未来が川瀬にインタヴューするという司会進行ですが、コンサートの伏線も張られていて、ちゃんと聞いておかないと後で理解できない事が必ず出てくるという仕掛け。川瀬の、クラシックをより身近なものに感じてもらえるようにと言う努力に好感が持てます。
今回はハイドンの交響曲「驚愕」が英語では「Surprise」、ドイツ語では「Paukenschlag」であることに拘っていましたが、演奏会を全部聴き終わると、“なぁるほど”と納得してしまいましたね。

さり気無く始まるのは、吉松隆の弦楽器のみで演奏される8分ほどの小品。実はこれも仕掛けがあって、演奏会当日が暑い一日になることは最初から予想でき、暑い中を態々足を運んでくれるファンのために少しでも涼しく感じてもらえるための川瀬の配慮、おもてなしでもありました。
確かに吉松独特の静謐な世界、哀感の伴った不思議なメロディーを聴いていると、体感温度が2度ほど下がったように感じられるから不思議です。川瀬/神奈フィル弦楽奏者たちの丁寧で、心の籠った演奏に拍手。

続いては、モーツァルト作とされている協奏交響曲。リハーサルの際にも彼らは「何となくモーツァルトらしくない」と感じていたそうですが、だからと言って誰が書いたかは現時点では謎。川瀬が言うように、モーツァルトの可能性は半分で良いのじゃないでしょうか。
個人的な思い出を述べれば、この曲の第3楽章が子供の頃に良く聴いていた音楽番組のテーマ音楽だったこと。ラジオだったかテレビだったかも忘れましたが、オーボエが歌い出す主題を聴いていると懐かしさが湧いてくるのです。

ソリストたちはもちろん同オケの首席奏者たちで、オーケストラの中でソロを務めるプレイヤーに協奏曲のソリストとしても登場して貰うことは大切な試み。これこそがオーケストラ活動の要だとさえ思っています。
和気藹々たる雰囲気の中にもライヴァル意識、より演奏能力を高めようというモチヴェーションも感じられ、有名ソリストが出演するコンチェルトより遥かに舞台と客席の距離は縮まりました。

客席からの喝采と拍手は、もちろんソロを務めたメンバー達への感謝が含まれています。カーテンコールの最後で、斎藤主席のクラリネットを川瀬が取り上げて拍手に応えていたのは、プレトークを聞かなければ分からない仕掛けでもあります。

そして当シリーズが続けているのが、メインのハイドン交響曲選集。100曲以上あるハイドンの交響曲で私が最も聴きたいものの一つが第94番だし、こういう演奏で聴きたいという願望を満たしてくれたのが川瀬/神奈川フィルのハイドンでもありました。
ある程度期待、予想もしていましたが、この日の演奏は期待を大きく上回る出来栄え。かつて録音でこれほど見事な驚愕は聴いたことがなかったし、今後もこれ以上のものは聴けないだろうと思えるような圧巻のハイドンでしたね。

神奈川県民ホールは、どちらかと言えばデッドな空間。逆に言えば誤魔化しが効かないアクースティックですが、彼らはそれを逆手に取って如何にも手作り風、丁寧なアンサンブルで古典派交響曲の形式感を聴き手に強く印象付けていきます。もちろんハイドンの意外性も・・・。
どちらかと言えばゆったりしたテンポで着実に、フレージングにも工夫を加味して緻密に描く。そしてプレトークで暗示していた「サプライズ」と「ティンパニの一撃」が結合して炸裂。それは有名な第2楽章に止まらず、終楽章のコーダでは決定的なサプライズが待っていたのでした。

正に度肝を抜くような超名演。万雷の拍手を受けた川瀬、“皆さん、これで終わりだと思いますか?”。そう、待ってました。“全部は出来ません、第2楽章だけもう一度演奏します”ということで再び指揮台に。
しかしここから起きたことは、正に捧腹絶倒の「サプライズ」。途中で起きる客席の笑いで時に音楽が聴こえなくなったり、余りの楽しさに涙が出たりと、これを期待して来た甲斐があったという超絶ハイドンに大満足でした。
エッ、どんな演出だったのかって? それはヒ・ミ・ツ。一つだけ教えると、出るはずのないあの人も出ましたよ。その仕掛けは実際に足を運んだ聴き手だけの内緒として胸に仕舞っておきましょう。あ~~~~、面白かった。だから川瀬のハイドンは止められないんだ。

 

 

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