神奈川フィル・第319回定期演奏会
昨日は気候も良く、音楽会日和。ラザレフの日フィル定期二日目も渡辺和解説で聴こうか、とも思いましたが、ここはこの日しかない神奈フィルの広上指揮を聴きに桜木町に出掛けました。
神奈川フィルは最近の注目株として注目しているオケですが、いわゆる「定期」はみなとみらいホールで開催されるシリーズ。川瀬賢太郎が常任指揮者に就任してからはハイドンを中心にした音楽堂シリーズ、親しみ易い名曲を中心にした県民ホールシリーズと、多彩で意欲的な活動を展開しています。
川瀬のオックスフォード、キュッヒルが弾くゴルトマルク、カムのオール・シベリウスなども日程をやりくりして聴きたいコンサートですが、昨日のオール・ドヴォルザークを聴いても真にフレッシュ。何とか積極的に通いたいという意を強くした次第。
昨日はアンコールの定番でもあるドヴォルザークのスラヴ舞曲を一晩(といってもマチネー)で全部聴いちゃう、というところがミソでしょう。
ドヴォルザーク/スラヴ舞曲集第1集作品46
~休憩~
ドヴォルザーク/スラヴ舞曲集第2集作品72
指揮/広上淳一
コンサートマスター/石田泰尚
フォアシュピーラー/崎谷直人(さきや・なおと)
スラヴ舞曲と言えばブラームスのハンガリー舞曲と姉妹兄弟のような印象ですが、前曲演奏という意味ではドヴォルザークの方が機会に恵まれていると思います。
昨日のプレトークは同団の副指揮者に就任した阿部未来の司会、加えて広上の他に首席の川瀬も加わってのトリオで進められましたが、やはり話題はブラームスとドヴォルザークの友情からスタートしていました。
今回の選曲は川瀬の提案。彼が2011年から「指揮者」を務めている名古屋フィルの定期で広上がブラームス/ハンガリー舞曲の全曲を振ったことがあり(私も名古屋まで聴きに行きました)、その時から温めていた企画とのこと。
チェコの指揮者が日本のオケに客演する際には時々組まれる全曲演奏ですが、日本人指揮者による全曲は珍しい部類でしょう。広上も今回が初めて、と語っていました。
第1集と第2集の間に休憩が挟まれますが、全部で16曲。一つ一つの印象を書くのは省きます。
全体的な感想を言えば、やはり後半の第2集が作品としても、演奏としても優れていたと思います。第1集にはアンコールの定番第1番や第8番、他の6曲も馴染な作品ばかりですが、聴き慣れていることもあって、やや普通という印象。
これに比べると第2集は情感に溢れた舞曲が多く、第9番(72-1)からして広上の棒は冴え渡り、マエストロ自身も第2集の方に思い入れが強いのではないかと想像されました。
個人的な思い出に触れれば、その第9番は大昔にロンドン交響楽団がイストヴァン・ケルテスと二度目の来日公演を行った際、どのプログラムだったかは忘れましたが、これをアンコールしました。
その時はシンバルが一閃する第67小節で、楽員が一斉に掛け声を揚げる大サーヴィス。聴いているこちらは初めてのことに仰天し、体中の血が逆流するような感動を覚えたものです。
またバイエルン放送交響楽団の初来日の際、これもどのコンサートだったかは忘れましたが、ラファエル・クーベリックが第15番(72-7)をアンコール。
亡命して祖国を去った巨匠が、目に涙を一杯に浮かべながらドヴォルザークを振っていたのも強烈な記憶として蘇ります。
今回の広上/神奈フィルも、同じ15番の第99小節から始まるヴィオラとチェロのパッセージは恰も木々が触れ合って森の中を闊歩するよう。チェコの奥深い自然を連想させるような望郷の情を湛えた名演でした。
特に私が好きなのは、最後の第16番。グラツィオーソで奏されるワルツ風の一品ですが、全体の最後とは思えないような穏やかさで締め括られます。時折響く鐘の音が、東欧の夕暮れを懐かしむよう。
スラヴ舞曲集はどれもドヴォルザークの天才的なメロディーに満ちていますが、これからは第2集、特に余りアンコールに出ることは無い第11・12・13番など、そして何と言っても16番と長く付き合っていきたいと思いました。
全編アンコールの様な演奏会ですから、本当のアンコールは無し。
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