神奈川フィル・第5回音楽堂シリーズ定期演奏会

梅雨空続く先週の土曜日(7月4日)、昨シーズンから俊英川瀬賢太郎が常任指揮者に就任して充実著しい神奈川フィルハーモニー管弦楽団を聴いてきました。
神奈フィルの定期はみなとみらいホールが会場ですが、川瀬常任の提案で前年度から定期演奏会の種類を増やし、しかも横浜地区にある2つのコンサートホールを会場にするという多彩な企画が好循環を産んでいるようです。

土曜日に私が聴いたのは、その音楽堂シリーズと銘打った第5回定期。会場を小振りで歴史ある桜木町に近い神奈川県立音楽堂に選び、毎回必ずハイドン作品を取り上げるという好企画。
因みに従来から続くみなとみらいホールを会場とする定期演奏会は「みなとみらいシリーズ」、山下公園に面した神奈川県民ホールで行われる「県民ホールシリーズ」、更には都度会場が変わる特別演奏会もシリーズとし、夫々「M」Minato Mirai 、「K」Kenmin Hall 、「O」Ongaku Do、「E」Extra として頭文字で表しているのも川瀬のアイディアでしょうか?
先日「M」シリーズを聴いてオケのレヴェルが急速にアップしているのを確認し、今回は「O」シリーズを初体験することにしました。

もちろん年3回の当シリーズ、今回は指揮者が広上淳一、しかもハイドンとあっては聴き逃すわけにはいきません。今月は私にとって「広上月間」でもあるのですから・・・。

細川俊夫/瞑想~3月11日の津波の犠牲者に捧げる~(日本初演)
ハイドン/協奏交響曲
~休憩~
ハイドン/交響曲第100番ト長調「軍隊」
指揮/広上淳一
ヴァイオリン/石田泰尚
チェロ/門脇大樹
オーボエ/古山真里江
ファゴット/鈴木一成
コンサートマスター/廣岡克隆(前半)、石田泰尚(後半)

実は会場の音楽堂でコンサートを聴いた記憶はありません。恐らく今回がホール初体験かも。ホームページによると桜木町駅前から送迎バスが出るとのこと。折しも雨が降り出したことでもあり、初体験序にバスも試乗してみました。
しかしこのバス、直ぐに桜木町名物の動く歩道を潜ってさくら通りを左折、紅葉橋を渡って直ぐに右側に見えるのが会場。バスを利用せずとも徒歩5分程度で着けるでしょう。但し行程がかなりの急坂で、足の覚束ない人にはバスは有難く、坂道と高低差ファンには余計なお世話ということになるでしょうか。

さて音楽堂、1階から3階までの区分はありますが、ホール内は一繋がり、最前列から最後列まで徐々に階段式にスロープになる形状。縦29列、横は最大で40番まである所謂シューボックス型で、ハイドン位のサイズのオケを聴くには最適な空間でしょう。響きはややデッドながら、楽器の隅々まで聴き取れ、どの席からも団員の姿が見渡せて好ましい印象を受けました。
このシリーズはプレトークが行われるのも特徴で、今回は広上・細川両氏を迎え、指揮をするわけではない川瀬常任が司会進行を務めるというもの。このプレトークが実に面白いものでした。

御存知の様に広上と川瀬は師弟の間柄。学生時代の川瀬を広上先生はハイドンを材料にミッチリとしごき、時には突き放すこともあったとか。それを耐えて忍んで今日にまで成長した川瀬、ハイドン好きは師の影響が極めて大きかったことを告白します。
また細川氏は先の震災をベルリンで知り、以後この災害の犠牲者への想いが消えることは無かった由。実は先月、広上は京都市響のヨーロッパ公演でも氏の震災シリーズの一つである「嘆き」(藤村実穂子のソロによる改訂版)を取り上げて高評価を受けたばかり。広上にとっても、細川作品を何度も初演している川瀬にとっても、今回の冒頭作品は「ゲテモノ」を越えた意義のある作品なのです。

「瞑想」は韓国のトンヨン音楽祭の委嘱で作曲され、音楽監督アレクサンダー・リープライヒに捧げられた15分ほどの作品。大震災と津波で亡くなった人たちへの追悼曲です。
細川氏自身がプログラム・ノーツに書かれているように、災害と、能「隅田川」のイメージをベースにしたもの。恒常的に響く大太鼓が宇宙の鼓動を表現し、旋律が静かな哀しみに発展。金管の咆哮が津波の悲惨さや恐怖を思い起こさせ、最後は「祈り」で閉じられるという緊迫感の上にも最後は安らぎを覚える音楽。
私にはアルト・フルート、イングリッシュ・ホルンといった低音楽器が印象的で、ホールの乾いた響きがより作曲者・演奏家の哀しみを伝えているように感じられました。

そしてここからはシリーズのメイン・ディッシュとなるハイドン。ハイドンにかけては右に出る人がいないほどの広上のタクトに、音楽が躍動します。
前半の協奏交響曲でのソリスト4人は、何れも神奈フィルの首席奏者たち。近年メキメキ腕を上げている同オケを象徴する音楽家達でしょう。この協奏曲の第1楽章には「書かれた」カデンツァが出てきますが、極く自然に広上も指揮として参加する楽しいカデンツァでした。

意外にも4人によるアンコール。曲名が判らない一品でしたが、第1拍に休符がある個所もあるアンサンブルで、如何にもハイドン作品。後で調べたところによると、ハイドン作のディヴェルティメント第46番の第1楽章アレグロ・コン・スピリートの由(ホーボーケン番号Ⅱ-46)。
これは本来は木管五重奏曲で、今回の楽器用にアレンジしたものと思われます。全部で4楽章から成る作品ですが、第2楽章は有名な「聖アントニーのコラール」。あのブラームスが「ハイドンの主題による変奏曲」に使ったメロディーですが、これ自体はハイドンの自作ではありません。しかしブラームスが知ったのはこのディヴェルティメント楽章で、調べると色々判ってきて面白いものですネ。

最後は広上淳一のアイディア満載、音楽性が最大限に発揮される、隅から隅までスリリングな「軍隊」。私は広上の軍隊をかつて神奈川フィルのみなとみらい定期で聴いた覚えがありますが、その時の印象を遥かに上回る絶好調・広上のハイドン。これにはホールのアクースティックも多分に作用していたものと思慮します。
こんな痛快でワクワク・ドキドキのハイドンは海外でも何処でも他では絶対に聴くことが出来ないもの。川瀬賢太郎のシリーズに寄せた意図はまんまと図に当たったと言えるでしょう。これからも絶品のハイドンを聴かせてほしい師弟コンビではあります。

さて個人的な広上月間、このあとは来週の日フィル定期、月末の京響・名古屋公演と続きます。その間に金沢でシベリウスの珍曲というそそられるプログラムもありますが、それは北陸のファンに楽しんでもらいましょう。北陸新幹線初体験はもう少し先まで取っておくことにしました。

 

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