日本フィル・第371回横浜定期演奏会

日フィル横浜、定期会員復帰第2弾は、10月16日にカルッツかわさきで開催された第371回です。5月に続いて待望のラザレフが来日し、宮田大との夢の共演が実現しました。

ドヴォルザーク/チェロ協奏曲ロ短調作品104
     ~休憩~
ブラームス/交響曲第2番ニ長調作品73
 指揮/アレクサンドル・ラザレフ
 チェロ/宮田大
 コンサートマスター/木野雅之
 ソロ・チェロ/菊地知也

今シーズンの横浜定期は、3つの会場での開催。ホールによってオーケストラの響きがどのように変わるかを体験するのも、楽しみの一つかも知れません。10月定期の会場となったカルッツかわさきは初体験。先ずホールのことに触れておきましょう。
川崎と言えばミューザ川崎シンフォニーホールが有名ですが、カルッツかわさきはミューザとは反対の駅東側に位置します。駅からは少し遠く、徒歩15分ほどでしょうか。市役所(工事中)通りを真直ぐ海の方角に向かって進み、第1京浜を跨ぐ大きな歩道橋を渡って左手、裁判所や税務署など厳めしい施設を過ぎた場所。辺りを見渡すと、北に川崎競馬場、南には川崎競輪場と、何ともバラエティーに富んだ街並みが見渡せます。

2017年10月に開場したホールで、カルッツかわという名称の川崎市スポーツ・文化総合施設の一つ。丁度4年目を迎えたばかりの新しい施設で、トイレなども新しく清潔なのが印象的でした。
客席は3階まであり、2013席とミューザを僅かに上回ります。ミューザとは違っていわゆるシューボックス型で、舞台を囲む3面の壁が木材。今回聴いた限りでは響きも豊かで、その上にオーケストラの細部まで明瞭に聴き取れる素敵なホールだと思いました。
みなとみらいホールが改修工事中ということもあり、様々なオーケストラがここで演奏会を開催しているので広く知られるようになったのでしょう。日本フィルも既にカルッツでコンサートを開いているそうです。

ホール前の信号表示が「川崎球場前」。それで思い出しましたが、子供の頃に親父に連れられて川崎球場で大洋ホエールズの試合を見に行ったことがありましたっけ。野球のことは殆ど覚えていませんが、球場のトイレがひどく汚かったことだけが記憶に残っています。それに比べて現ホールのトイレがきれいなこと、妙なことに感心してしまいましたわ。

開演前のオーケストラ・ガイド、今回は音楽評論家・奥田佳道氏。奥田氏と言えば、確か専門がブラームス。この定期には最適な方でしょう。ブラームスの交響曲第2番と言えば、ヴェルタ―湖畔ペルチャッハに触れないわけにはいきません。オーストリア政府観光局の公式ホームページに飛んでみると、正に「夏の作曲家・ブラームスお気に入りの避暑地」という記事が掲載されており、この文章の寄稿者こそ奥田佳道氏ご自身。今日の解説に併せてこの記事を読めば、ブラームスの第2交響曲に付いてはほぼ万全の情報が得られることになります。
ブラームスはもちろんですが、今回のガイドではドヴォルザークのチェロ協奏曲についても、中々普通の解説では触れられない話題も紹介。特に作品を書く切っ掛けとなったヴィクター・ハーバートのチェロ協奏曲や、協奏曲を書くことに示唆を与えたというチェリスト、ハヌシュ・ヴィ―ハンについての解説は、思わずメモってしまったほどでした。

いつもなら楽員が拍手に迎えられて入場し、最後にコンサートマスターが登場してチューニング。客席が静まり返ったところにラザレフ将軍が床をドンと蹴って入場するという手順ですが、この日は異例づくめ。
何と真っ先に舞台に姿を見せたのがマスク装着のラザレフその人で、指揮台に上がると消毒スプレーを取り出し、広く取られた指揮台周りをシュシュッと消毒。このパフォーマンスには唖然としましたが、マエストロのお茶目なキャラに思わず吹き出してしまいましたね。安全を確認し、徐に楽員が入場してチューニング。

その後もマエストロは指揮台を離れず、協奏曲が終わってソリストが舞台裏と舞台を行き来してカーテンコールに応えている間も、指揮台で仁王立ち。宮田大のアンコール、カザルス編の「鳥の歌」も指揮台に立ったまま耳を傾けていました。宮田の素晴らしく美しいチェロの音が消え、再び大きな拍手が沸き起こると、ラザレフの目にも光るものが。
ソリスト、楽員たちが楽屋に引き上げると、最後にラザレフが客席に答礼して指揮台を去ります。

これは後半も同じで、ラザレフが真っ先に登場し、最後まで舞台に残ってオケを讃え、客席の拍手に応える。オーケストラのアンコールはブラームスのハンガリー舞曲第2番でしたが、全てのプログラムを終え、最後の一人として舞台を去る時、又してもマエストロは両の目を手で拭っていました。もしかしたらマスク装着の弾みかも知れませんが、マエストロの目が光っていたのを私は見逃しませんでしたね。
プログラムにも書かれ、奥田氏も触れておられましたが、ラザレフの横浜定期は3年振りだそうな。ということは、2018年11月の第342回、チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲(小林美樹)とプロコフィエフのロメオとジュリエット以来ということでしょうか。

ブラームスを得意とするラザレフは、横浜定期では既に交響曲第1・3・4番を取り上げていたはず。今回の第2交響曲でブラームス・ツィクルスが完成したことになりましょう。
2012年3月はオール・ブラームス、ピアノ協奏曲第1番(河村尚子)と交響曲第3番で、ソリストのアンコールが間奏曲第2番、オケのアンコールがハンガリー舞曲第4番で、1-2-3-4というプログラムに感激したのがつい昨日のことのように思い出されました。去年の九州公演でも第1交響曲と、同じく河村尚子とのピアノ協奏曲第2番がありましたね。
多分マエストロも同じだったのでしょう。これまで何度も日本フィルと演奏してきたブラームス。これで最後の輪が繋がったという感慨か、大好きな日フィルと共演できる喜びが誘った涙か・・・。

前半のドヴォルザーク、宮田の繊細なチェロを活かし、哀調を歌い上げた名演に文句無し。
ブラームスの第2も、ペルチャッハを想像させる自然の息吹が一杯。咲き誇る花々に鳥の囀り。時には黒雲が沸き起こり、遠雷も聞こえる。第4楽章ではライオンの咆哮も聞こえる、と思ったら、ラザレフがオーケストラを煽りながら発した唸り声だった。
アンコールのハンガリー舞曲がまた絶品。これほどゆったりと、ジックリ聴かせてくれた第2番は初めてで、ラザレフは少しでも長く音楽に浸っていたいという気持ちが強かったのじゃないでしょうか。聴き終わってみれば、舞曲第2番はニ短調で、中間部はニ長調。そう言えばドヴォルザークのチェロ協奏曲もロ短調と、全て筋が通っているじゃないか。流石にラザレフ御大。

大満足の横浜定期でしたが、次の東京定期は愈々ショスタコーヴィチの第10交響曲。正に満を持してという作品で、一体どんな演奏が繰り広げられるのか。これは待ち切れんぞ。

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