クァルテット・エクセルシオ第41回東京定期演奏会

11月は聴きたい演奏会が集中していて、正に芸術の秋。どちらかと言えば出不精の小欄も連日のコンサート通いという週もチラホラ。その第一弾が、11月5日の金曜日に上野の東京文化会館小ホールで開催されたクァルテット・エクセルシオの東京定期です。
例年エクの定期は6月が東京と札幌、11月は東京と京都と相場が決まっていましたが、今年はコロナが長引いている影響で6月の札幌は無し。その代わりに秋定期を札幌でも敢行しようということになったようで、今回のプログラムは既に10月23日に京都、11月2日には札幌で披露された以下のもの。エクにとっては本番3公演目でもありました。

ハイドン/弦楽四重奏曲第66番ト長調作品64-4
バルトーク/弦楽四重奏曲第4番
     ~休憩~
ベートーヴェン/弦楽四重奏曲第7番ヘ長調作品59-1「ラズモフスキー第1」

上野は年に数回、エクの定期と二期会のオペラで降り立つ程度になってしまいましたが、公園口の改修工事が一段落したようで、すっかり風景が変わってしまいましたね。以前は改札を出て信号を渡り、文化会館という流れでしたが、今は公園口改札からそのまま車に遮られることもなく公園エリアへ。駅前が広くなったせいでしょうか、人影も疎らに感じられました。
尤も理由はそれだけじゃないのでしょうが、金曜日の夕方だというのにこの寂しさ。文化会館もこの日は大ホール休演だったようで、館内に並んだ人の列は小ホールで室内楽を楽しむ人たちだけ。

さて定期。
チェロ大友曰く、20年くらい定期をやっていて、ベートーヴェンをやらない回は一度もない。ベートーヴェン記念イヤーが終わっても、定期は相変わらずベートーヴェンがメインでした。6月定期ではドビュッシーがメインでベートーヴェンは第3番でしたが、共通するのは冒頭のハイドン、それも作品64から。
作品64と言えばただ一つ、第5番の「ひばり」が演奏会の定番ですが、どうやらエクは作品64全体の真価を探ろうとしているようにも感じられます。因みに来年6月の第42回定期では作品20の4を取り上げる予定。一つとして駄作の無いハイドン作品、余り聴く機会の無い曲に光を当てていくシリーズは楽しみですな。

作品64として纏められた6曲は、番号順に書かれたわけではないようです。作曲されたのは1790年の春と夏と言いますから、ニコラウス・エステルハージ侯が亡くなる(9月28日)直前。既に58歳に達していて、作風は円熟の極み。これが面白くないワケがありません。
通常の4楽章制ですが、第2楽章がメヌエットで緩徐楽章が第3楽章になっているのが特徴。このスタイルは何もベートーヴェンが第9交響曲で試みたのが最初じゃない。

そのメヌエットのトリオでは、ファーストのソロを伴奏する3人が徹底してピチカートなのも、バルトークを先取りしているみたい。緩徐楽章も聴き出して暫くは変奏曲かと思いきや、民謡風主題による3部形式で、中間部が短調。
この中間楽章を囲む速い両端楽章も、良く聴いてみると実に様々な工夫に満ちている。例えば第1楽章提示部の最後の一節は、ファーストに Sopra una Corda という指示があって、要するに同じ弦の上で弾けということ。ここ、ファースト西野の弓使いを観察していると、なるほど弓は同じ弦に当てたままで弾いてる。耳で聞くより見て楽しむ箇所、かな。
第4楽章のテーマにしても、ファーストとセカンドの2本のヴァイオリンがサッと駆け上がるパッセージを一緒に弾く。しかも二度目にはトリルまで付いてる。ここ、聴いていても見ていても目立つところで、ハイドンの面白さに改めて感服してしまいました。ボーッと聴いていてはエクに叱られますよ。

続いてはバルトーク。エクの活動初期、つまり彼らが色々なコンクールに挑戦していた頃は、エクと言えばバルトーク、バルトークと言えばエクと言われていたそうですが、私は知りませんでした。
彼らのバルトークを聴いた最初は、確か現代作品を取り上げるラボ・シリーズが新章ラボと名称を変え、その第1回として代々木のムジカーザで開いたコンサートでの第4番でしたっけ。このシリーズでバルトーク全6曲を取り上げたはずですが、それ以来の4番だと思います。

コンクールと言えば、つい先日もバルトーク国際コンクールでクァルテット・インテグラが優勝。インテグラは本選で5番を弾きましたが、このとき2位に入ったカオス・クァルテットが4番を弾いてましたね。
カオスの4番はかなりアグレッシブ、手に汗を握るような熱演でしたが、エクは大分行き方が違います。遥かにドッシリと落ち着いた音楽創りで、キャリアの差というより世代の差と言うべきなのかもしれません。好みの問題でしょうが、エクのバルトークには安心して聴いていられる安定感が感じられました。コンクール時代のエク/バルトークはどうだったんでしょうか。

今回改めて気付いたのは、第4番はチョッと聴くと拍子が様々に変化するように聴こえますが、実は変拍子は一つも無い、ということ。第1楽章とアーチ形構造の中心となる第3楽章は4拍子。終始弱音器付きで奏される猛スピードの第2楽章は8分の6拍子で、これまたピチカートだけで奏される第4楽章は4分の3拍子。
フィナーレの第5楽章も最初から最後まで2拍子で、第4番は全曲、1小節たりとも別の拍子が入ることは無いのですね。こういうことに気付かせて来れたのは、やはりエクの演奏が終始落ち着いていて、冷静に音楽を捉えているからでしょう。

休憩の後は、定番のベートーヴェン。これまで、クァルテット・エクセルシオの演奏だけに限っても何度聴いてきたか数える気にもならないラズモフスキーですが、何度聴いても素晴らしいのがベートーヴェン。
ファースト西野曰く、この曲を最後に弾けるのは清々しい感じ。チェロ大友も続けて、単独で弾くときは、この先に2番を弾かなくていいんだ、という楽な感じ。二人の言に代表されるように、今回のラズモ1番は、演奏会の最後の演目。ベートーヴェンの長大な傑作でコンサートを締めるというに相応しい名演、と一言で纏めておきましょう。

ラズモ1番の後ではアンコール不要。コロナ前は演奏終了後にサイン会、メンバーを囲んであちこちで談笑の輪が開いたものですが、昨今は終了後は密にならないよう速やかな退場を促されます。
それを慮ってか、彼らはコンサートの最後に客席に向かって大きく手を振るようになりました。上野駅もそうですが、以前とは違って見ることが出来る風景の一つになった感があります。こういう時、客席はただ拍手していれば良いんですかね。彼等に向かって手を振るのが礼儀かしら。チョッと恥ずかしくて出来んな。気持ちはそうだけど・・・。

最後に、エク通信で読んだ最新情報。一つはエク動画が配信されるかも、という話題。もう一つは、ベートーヴェンのCD、最後の1枚が年内発売とのこと。年内発売って、何処で買えば良いんじゃ。

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