日本フィル・第735回東京定期演奏会

前日は上野でクァルテット・エクセルシオの東京定期でしたが、6日の土曜日には日本フィルの東京定期を聴いてきました。日フィルは本来金曜の会員ですが、11月はエク定期と重なったため、日フィル振替サービスを利用して土曜日のマチネーを聴いた次第。幸い金曜日の自席に近い席が回ってきたので、例月と違和感も無く楽しめました。以下のプログラム。

J.シュトラウス2世/ワルツ「ウィーンの森の物語」
コルンゴルト/ヴァイオリン協奏曲ニ長調作品35
     ~休憩~
シュミット/交響曲第4番ハ長調
 指揮/角田鋼亮
 ヴァイオリン/郷古廉
 ツィター/河野直人
 コンサートマスター/田野倉雅秋
 ソロ・チェロ/菊地知也

土曜日コースにはコンサートの聴き所や楽曲解説が聞けるプレトークがあって、毎月その月のプログラム・ノートを執筆されている評論家諸氏が担当する決まりのようです。今月はヨーロッパ文化史が専門の小宮正安氏。氏はほぼ隔月のペースで横浜定期のオーケストラガイドも務めておられますから、私には馴染み深いプレトークでした。
今回のプログラムはウィーン特集、特に世紀末の作品を集めた定期。ウィーン正統派の音楽というより、本流からはやや外れた作曲家たち、忘れられつつあった作曲家に焦点を当てるという捻った選曲。プレトークのメインテーマはフランツ・シュミットで、何故シュミットがナチスに賛成の立場だったかという解説は真に興味深いものでした。聞き逃した方は、是非配信でご覧ください。

指揮の角田鋼亮(つのだ・こうすけ)は、日フィルとは夏休みコンサートなどで何度も共演していますが、東京定期は初登場。12月には横浜定期で第9を振ることになっており、日本で最も期待される若手指揮者の一人として紹介されています。
先日もセントラル愛知交響楽団常任指揮者の契約が延長されたばかり、得意のウィーン音楽で満を持しての東京定期デビューとなりました。
今回は近年になって復活してきたコルンゴルトとシュミットに加え、ヨハン・シュトラウスのワルツを冒頭に持ってきた辺りが、角田の面目躍如と言えるでしょう。いきなりウィンナ・ワルツで始まり、交響曲の大作で締め括られる定期演奏会って、滅多にあるものじゃない。是非聴いておきたいプログラムでもありました。

そのシュトラウス、珍しくツィターのソロを迎えての演奏。ツィターは、私のようなオールド・ファンには「チター」と表記されて親しんできた楽器で、チターと言えばアントン・カラスを思い浮かべます。何じゃそれ、という若いファンもおられるでしょうが、團伊玖磨が「アントンとマリア」というエッセイで笑わせてくれたことを覚えている方はおられるでしょうか。
そのチター、実はチター人口が最も多いのはウィーンではなく、日本なのだというのも最近知ったこと。個人的なことで恐縮ですが、毎夏訪れていた霧ヶ峰の山荘でチターを弾かれる常連客の紳士と偶々同宿し、直にチターに触れさせてもらったことがありました。その時に伺った話。こんなことなら、あの時もっと詳しくチターについて解説して貰えば良かった。

今回初めてツィターを見、聴かれた方も多いでしょう。音量は小さいのですが、切れのある鋭い音を出すので、サントリーホールのような広い空間でもその音色はシッカリと聴き分けられます。
ツィターは河野氏が楽器を持って登場し、指揮者の左手に置かれた小さな机に乗せて弾かれるのですが、出番は最初と最後の2か所だけ。角田の踊るような指揮が、シンフォニックに聴こえてくるから不思議じゃありませんか。

シュトラウスが華やかに終わると演奏机が片付けられ、その場所がそのままヴァイオリン・ソロの演奏スペースに替ります。
ついこの間まではハリウッドの映画音楽の作曲家と思われていたコルンゴルト。見事にクラシック音楽の作曲家として復活してきたのは、何と言ってもヴァイオリン協奏曲の人気によるものでしょう。私もこの作品をナマで聴くのは4回目か5回目、いやもっとかな。同じニ長調のヴァイオリン協奏曲として、ベートーヴェン、ブラームス、チャイコフスキーに続く第4の名曲として定着した感があります。

少年コルンゴルトをウィーンの檜舞台に押し上げたのは、ツェムリンスキー。クレメンス・クラウスやワインガルトナー、フルトヴェングラーも彼の作品を指揮し、ヴァイオリン協奏曲はアルマ・マーラーに捧げられています。今回のプログラムに登場するのは3人の作曲家だけではなく、他に多くの音楽家が隠されている。
角田との息があった名演を披露してくれた郷古廉がアンコールとして選んだのも、ハイドンが書いて後にオーストリア国家にも採用された皇帝賛歌をウィーンの名ヴァイオリニスト、フリッツ・クライスラーがヴァイオリン・ソロにアレンジしたもの。聞けば定期初日のアンコールも皇帝賛歌だった由、これ以外には考えられない選曲でしょう。郷古君、やるねェ~。

休憩を挟んで後半は、マーラー音楽監督の下でチェロを弾いていたフランツ・シュミット。彼の第4交響曲は今年6月、ヴァイグレ指揮の読響定期で聴いたばかり。昔メータ盤で楽しんできたこの隠れ名曲をナマで聴けるなど、その当時は夢にも思いませんでしたね。ましてや半年の間に二度も、とは。長生きはするものですな。
プログラムには「ハ長調」と記されていたのでそのまま転載しましたが、実際は長調でも短調でもない音楽。その辺りは小宮氏が曲目解説で詳しく触れられています。
6月のブログでもやや詳しく書いたので、シュミットのこと、第4交響曲のことはここでは繰り返しません。これに今回のプレトークを加えれば、私のシュミット第4交響曲は取り合えず完結です。

トランペット・ソロの「ラ」で始まり、「ド」で終わる。名手オッタビアーノ・クリストーフォリのソロは完璧。第4部で同じテーマがホルンで繰り返される個所でも、信末碩才のソロが光ってました。
日フィルの名手たちを、判り易い的確な棒で導いた角田鋼亮の確かなテクニック。これから頻繁に彼の指揮に接する機会が増えるものと確信しました。それにしても若手が次々と登場し、斬新なプログラムを聴かせてくれる昨今の音楽界。もっと長生きしたいな、というのがこの日の感想です。

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