日本フィル・第373回横浜定期演奏会
前日の赤坂に続き、昨日15日は川崎でオーケストラを聴いてきました。私にとっては今年最後の演奏会です。
川崎で開催されても、日本フィルの横浜定期。記録に当たったわけではないので間違っているかもしれませんが、横浜定期がミューザ川崎シンフォニーホールで行われたのは初めてじゃないでしょうか。
12月の横浜定期はベートーヴェンの第9。これもある時期からの慣例で、余程のことが無い限り「第9特別演奏会」に出掛ける習慣が無い小欄にとっては、年末の風物詩を体感する貴重な機会でもあります。
去年は横浜定期をお休みしていたこともあり、第9体験はゼロ。そもそもコロナ騒ぎでどのオーケストラも第9は中止したか無観客だったか、あるいは形を変えての公演だったのじゃないでしょうか。今年の第9は2年振り、という方も多いでしょう。
その今年の第9、12月直前の鎖国令によって各オーケストラは指揮者とソリストの確保にてんやわんや、チケットはほぼ販売済みでしたから、関係各所は綱渡りの日々だったことと想像します。
東京在住のオーケストラに被害が集中しましたが、日本フィルは無事。最初から横浜定期も第9特別演奏会も日本人指揮者、日本人ソリストで固めていましたからね。で、予定通りの演奏会は、
J・S・バッハ/目覚めよと、呼ぶ声すBWV645
レーガー/クリスマスの夢作品17-9
J・S・バッハ/トッカータとフーガニ短調BWV565
~休憩~
ベートーヴェン/交響曲第9番ニ短調作品125
指揮/角田鋼亮
オルガン/花澤絢子
ソプラノ/澤江衣里
アルト/金子美香
テノール/村上公太
バリトン/青山貴
合唱/東京音楽大学
コンサートマスター/田野倉雅秋
ソロ・チェロ/菊地知也
予定通りと書きましたが、実はテノールが菅野敦から村上公太に替りました。これは体調不良とのことで、上記ゴタゴタとは無関係です。
6時半からプレトークがあるので、少し早めに入場。改めて確保した1階席中央に陣取ると、コントラバスが4本しかないのに目が行きます。思わず弦楽器の譜面台を数えてしまいました。お、今日はファースト10人、いわゆる10型でやるんだ。密を避けるのを逆手に取って、第9初演当時の演奏スタイルに近づけようという指揮者の配慮に、恐らく違いあるまい。などと考えていると、奥田佳道氏が登場してオーケストラガイドが始まります。
冒頭、奥田氏のプレトークは今年で20年、何と12月、即ち第9の解説は今年が何と17回目なのだそうな。確かに私も何度か奥田解説で第9を楽しませて頂きましたな。毎回15分で17回となれば、総計で4時間超え。そういう記録があるのかは知らないけれど、一つの作品に4時間以上解説されたというのはギネスものじゃないでしょうかね。これだけで本3冊にはなる。
もちろん同じ話が重なることもあったでしょうが、今回の要点は、マーラー指揮による第9から始まっての第9演奏史、特にワーグナーの第9。次第に大型化してきたオーケストラ編成に触れ、楽譜の問題を取り上げます。更には第9と年末の話に転じ、諸説はあれど12月の第9は1918年のライプチヒに始まったこと、日本では1940年にローゼンストック指揮N響(当時は新響)の演奏がNHKから放送されたのが始まりではないか、というガイドでした。(ローゼンストックはこのシーズンに定期でベートーヴェン・チクルスを行っていて、第9は1940年6月に演奏してます。関種子、四家文子、木下保など懐かしい名前がズラリ。アーカイブ音源は残っているのでしょうか)
そして最後に、今回の第9は角田鋼亮の要望で10型で演奏されること、合唱は60人で歌われることが紹介されて締め括られました。確認したところ、弦は10-8-6-5-4、合唱は全員マスク装着での歌唱でした。
少人数の合唱では、かつてベルリン・ドイツ・オペラの日本公演の一環としてオイゲン・ヨッフムが東京文化会館で演奏するのを聴いた時、今回と同じかそれよりも少ない程度の人数で歌い、当時の日本人による大合唱団を遥かに上回る迫力だったことに驚嘆したことがあります。今回はどうなるでしょう。
コンサートの前半は、日フィルの第9ではお馴染みのオルガン演奏。今回は花澤絢子がバッハとレーガーの3曲を披露しました。バッハの2曲は誰もが知る名曲ですが、レーガーって何?
レーガーもバッハと同じオルガニストでしたが、この日紹介された「クリスマスの夢」は、確か本来は「青年時代より」というタイトルのピアノ小曲集に含まれる1曲で、聴いてみれば恐らく知らない人はいないほどのメロディーが出てきます。そう、「きよしこの夜」に装飾を付けた小品なのですが、オルガンへの編曲はレーガー自身なのでしょうか、それとも別人か、そこまでは判りません。花澤氏自身が執筆されたプログラムノートでも触れられていませんでした。
ところでレーガー、ストップの選択を間違えたのでしょうか、演奏が始まって直ぐに停止するアクシデント。これが却ってストップによって音色がこうも違うのかというオルガンの面白さを垣間見ることが出来ました。こう言っては失礼に当たりますが、怪我の功名、でしょうか。
最後は、コマーシャルにもなって知らぬ人の無いトッカータとフーガ。ニ短調からメインの第9に繋がるという選択は、分かっちゃいるけどやめられない、でしょうね。
そして20分の休憩を挟み、いよいよ第9。
東京音大の60人は最初からP席一杯に陣取ります。オーケストラが登場、ピッコロと打楽器は第2楽章の後、4人のソリストと同時に入場するスタイルですが、ファゴットは最初から3人。見るとコントラファゴットを吹く3番奏者はファゴットも担当し、第1楽章から第3楽章までは随時ファゴットを吹いていました。1番奏者の代奏もありましたが、時には3人で吹く場面も。
第9に付いては細々報告することもありませんが、気になるポイントを挙げておくと、第3楽章のホルン・ソロ。ベートーヴェンの指定は当時の楽器の制約から4番奏者の担当ですが、今回は1番で首席の信末碩才(またしても)が吹きました。ソリストは上記のように第2楽章と第3楽章の間で入場し、オーケストラの後ろで歌います。入場の際に客席から拍手は起きませんでしたね。
あ、使用楽譜はべーレンライターで間違いないでしょう。指揮台に置かれたスコアで判ります。中には表紙だけべーレンライターにすり替えて中身はブライトコプフという指揮者もいるそうですが、実際の演奏でこの版特有の相違点が聴こえてきたので、べーレンライターに違いありません。
ミューザ川崎は舞台と客席との段差が低く、どの席からもオーケストラのメンバー、楽器の上げ下げなどが見渡せるホール。例えば第2楽章スケルツォのトリオ部で初めて登場するトロンボーン、特にバス・トロンボーンの出番などがハッキリ確認することが出来、オーケストラ好き、特にマニアックなファンにとっては第9を200%楽しめるスペースでもあります。
2年振りにナマで聴く第9。コンパクトな編成が極めて新鮮で、特に第3楽章など速目で音楽の流れが停滞する場面はありません。角田の的確な指揮も見ていて清々しく、最後は大きな感動に襲われました。
日フィル横浜定期がミューザ川崎で開催されるのはあと2回。来季の途中から本来のみなとみらいホールに戻ることになっています。みなとみらいがどのように改修されるのかは分かりませんが、ミューザでの演奏会は是非継続して貰いたい。決して濁らない完璧な音響空間、ここで大編成の日フィルを聴いてみたい、と思うのは私だけじゃないでしょう。
ということで、今年は図らずも第9で締め括るコンサート通いでした。年末を弦楽四重奏で過ごすのも良いけれど、これはこれで1年を振り返る絶好の気分にもなれます。
このあと年内、当ブログは12月の演奏記録をアップするだけ。少し早い気もしますが、皆さま良い年をお迎えください。
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