日本フィル・第599回東京定期演奏会

600回の大台直前、日本フィルの4月定期は飯森範親が指揮します。日本フィルとは度々共演していますが、東京定期には初登場。
飯森といえばドイツ音楽、ということになっているようですが、日本フィルは敢えてフランス音楽を提案、指揮者が快諾して決まったプログラムですね。
オネゲル/交響詩「パシフィック231」
ミヨー/フランス組曲(管弦楽版)
イベール/交響組曲「寄港地」
     ~休憩~
ラヴェル/高雅で感傷的なワルツ
ドビュッシー/3つの交響的スケッチ「海」
 指揮/飯森範親
 コンサートマスター/木野雅之
 フォアシュピーラー/江口有香
私はどうも飯森とは相性が良くなく、あまり良い印象は持っていません。そもそもライヴ経験もあまりなく、東京交響楽団とのドイツ物や協奏曲の伴奏指揮を聴いた程度。その範囲では積極的に聴こうと思う指揮者ではありません。
で、今回はあまり期待せずに出掛けました。本来の土曜日を金曜日に振替、1階4列目という管楽器・打楽器はまるで見えない席です。
しかしこれ、意外に良かったですね。私の飯森体験ではベストでしょう。印象が良かった一つの理由は、やはりフランス音楽という選択。どれも短く (一番長いドビュッシーでさえ20分チョイ)、比較的肩の凝らない作品ばかり。もう一つは協奏曲を避けたこと、でしょうね。賢いぞ、日本フィル。
ドビュッシー以外は演奏機会に恵まれない作品、ということも利したと思います。私が出掛けたのも、これら4曲が聴ける貴重な機会だと感じたから。そのことも聴いて「良かった」という印象に繋がったのでしょう。
オネゲル。
有名な作品ですが、ナマでいつも聴ける作品ではありません。実際私も何時何処で聴いたか記憶にありませんもの。
これ、単なる機関車の描写じゃなく、オーケストラの運動性を巧に演出しています。パシフィック231が発車して徐々にスピードを上げていきますが、音楽上のテンポは逆に徐々に遅くなっていく、という手品。
冒頭は2部音符=60で(発車の合図)、一旦2部音符=80に上がります(車輪が動き始める)。それ以降、4分音符=152、144,138、132 とテンポはどんどん遅くなるけれど、耳には機関車がどんどん加速していくように聴こえる錯覚。ついには4分音符=126にまで落ちたところで音楽にもブレーキがかかり、轟音を立てて停車。
飯森はこうしたスコアの指示を忠実に守って、幸先よくコンサートをスタートさせました。パシフィック231、ティンパニが使われていないのも面白いところでしょう。
続くミヨー。
これは全く初体験です。本来はブラスバンド用に書かれたものですが、今回は珍しい管弦楽版。ミヨーはユダヤ人ですから、第2次世界大戦に伴ってアメリカに避難します。そのアメリカで書かれた作品で、内容は、大戦におけるフランスの激戦地を選び、それぞれの地方の民謡をベースにしたフランス讃歌でもあります。音楽はお気楽な民謡調でも、内容は意外にシリアス。
ノルマンディ、ブルターニュ、イル=ド=フランス、アルザス=ロレーヌ、プロヴァンスの短い5曲。大雑把に言えば急-緩-急-緩-急 です。特にミヨーの生地プロヴァンスでは、ビゼーがアルルの女で使った中太鼓が活躍する楽しげな小品。飯森にはピッタリな一品でしょう。実際彼はこれを海外でも取り上げているそうで、時々飛び上がりながら振ってました。
イベール。
これは時々かかりますが、それでも有名な割にはナマではレアな感じがします。マエストロサロンで紹介していましたが、飯森が学生時代にこれを学生オケで振って、ジャン・フルネに賞賛されたとか。自信の一品だそうです。
恐らく初めて聴いたであろう人達からは“楽しかったねぇ~”という感想が聞こえてきましたが、私には多少不満。問題はリズムにあると思います。
飯森はもちろん若いですからリズム感はシッカリしています。がしかし、そのリズムがどうにも甘い。「切れ」が無いのですねぇ。メリハリにも欠ける。フランス音楽にはドイツ音楽と違って曖昧な部分が沢山あります。だからこそ、シャープなリズム感覚が欲しいと私などは考えてしまいます。この辺が飯森の限界じゃないでしょうか。
第2曲で真田伊都子が素晴らしいオーボエ・ソロを聴かせてくれたのを落としちゃいけません。
後半は比較的聴かれる機会の多いラヴェルと、年中何処でも演奏されるドビュッシー。
ラヴェルでは第4曲と第5曲の間のクラリネット持ち替えが見どころなんですが、席がカブリツキでは一切見えず。持ち替える間もなく音楽が鳴っていましたが、どういう対処をしたんでしょうか。???
ドビュッシーはオケの定番。意外にもこれが良かったですね。飯森はマルティノンが自分の「聖書だっ」、て言ってましたが、そこまではいかないものの、今日一番の力演。客席もこれが一番受けていたようです。
あ、客席ですが、この日は入りが悪かったですね。今シーズンの日本フィル定期では一番空席が目立ちました。私同様、この指揮者が苦手な人が多いのかも・・・。
オーケストラは最近の好調を堅持。特に日本フィルのフランス物は定評があるだけに、各所で素晴らしい管楽器のソロが聴かれました。弦の清々しさなど、前回のインキネン効果が継続している感じ。
もう一つ蛇足。私がこれまで接した範囲では、飯森は暗譜で振る指揮者でした。実際サロンでも、学生時代に250曲暗譜した、なんて言ってましたからね。
ところが今日は全てスコアを見ながら振っていましたヨ。面白かったのは、ミヨー以外は普通に市販されているポケット・スコアを使用していたこと。ミヨーだけは市販スコアはありませんからね。
ということで飯森のフレンチ、いくつか不満は残りましたが、存外楽しめました。ドイツ料理よりずっと美味いぞ。
後で聞いた裏話。
飯森くんはコロッケが好物なんだそうです。昔、葉山に棲んでいた頃は、オーケストラに葉山名物のコロッケを差し入れしてくれた由。今回は、現在の住まいのある品川名物のコロッケの差し入れがあったとか。品川のコロッケってどんなんじゃ。今度ノリチカくんに聞いてみよう。
飯森のフレンチ、洒落たフランス料理というよりは、庶民的なコロッケの味。これもフランス料理には違いないな。うん、納得。

 

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