日本フィル・第584回定期演奏会

最近の日本フィルはコンサートにキャッチフレーズを付けるのが好きなようで、今回(10月27日)の定期は「HEROのみに与えられた華とプライド」。どうもネェ~。

マエストロ・沼尻竜典は先日のマエストロサロンでこの辺を茶化すかのように、「英雄の生涯」は副題を付けて《妻への気配り》としたら、なんて言っていましたっけ。沼ちゃん、これが気にいったとみえて、コンサート当日もプレトークで紹介し、会場の笑いを誘っていました。
サロンではもっと過激なことを言っていたのですよ。「英雄の生涯」、何と読みますか? 《ヒデオノイキガイ》ですって。
そこでボクも考えましたね。この曲のフランス語のタイトルを誤訳すれば、《エロの生きざま》ですわな。

さて本題。
先日の読響定期でも紹介した通り、これはサントリーホール国際作曲家委嘱作品再演シリーズの一環。ナッセンのホルン協奏曲が取り上げられました。初演は1994年10月、バリー・タックウェルのソロ、ナッセン自身が指揮する東京都響によって行われました。

今回は日本フィル期待の若手・福川伸陽(ふくかわ・のぶあき)がソロを吹きました。実に達者ですね。
スコアを見ていないので詳しいことは判りませんが、時にゲシュトップ奏法を交えて多彩な響きを創り出します。オーケストラの書法も典型的な「現代音楽」ではなく、調性の存在を意識させるような馴染み易いもの。とは言いながら古臭さは感じません。
演奏時間は12分と短いながら、イントラーダ、幻想的に、カデンツァ、結句という四つの部分で構成されています。カデンツァも古典的なカデンツァではなく、コントラバスの保持音が支えていたりして、色彩豊かな佳曲です。
福川くん、巧かったですね。この11月にはロンドンに留学するそうで、格好の手土産。現地のオケに転職しないで下さいよ。

聴衆の喝采に応えてアンコール、ロッシーニの「グランド・ファンファーレ」。これも良かった。ガッツ・ポーズも決めていました。

前後はリヒャルト・シュトラウスの、これもホルンが大活躍する交響詩「ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら」と「英雄の生涯」。《ホルン定期》と銘打たなくとも、シュトラウスはホルン吹きの息子ですから、どの曲でもホルンの聴かせ所はふんだんにあります。

「ティル」も敢えてキャッチフレーズを付ければ《梟鏡男の冒険譚》でしょうか。ドイツ語でオイレンは梟(フクロウ)のこと、「知」を意味するのだそうです。シュピーゲルは言うまでもなく鏡。ティル・オイレンシュピーゲルは実在の人物という説もありますが、知恵を映し出す鏡という隠れた意味合いもあるのですね。
こちらのホルン・ソロは客演首席奏者・丸山勉(1番)と副首席・伊藤恒男(3番)のコンビ。実に安定していて落ち着いて聴けました。ティルといえばホルンの難所にドキドキしたのはついこの間までのこと。日本のオーケストラの、特に管楽器のレヴェルは著しく向上していますね。

同じことは「英雄の生涯」にも当てはまります。私はこの大曲の日本初演を、放送ながら聴いております。1960年6月、ウィルヘルム・シュヒター指揮NHK交響楽団の演奏でした。このときまで「英雄の生涯」は日本のオーケストラにとっては演奏不可能なシロモノだったわけです。
爾来半世紀、これをレパートリーに定着させていない日本のオケはないでしょう。さすがに楽々とはいかないでしょうが、いくつもの名演を体験してきました。

今回の沼尻竜典=日本フィルの演奏も間違いなくその一つ。8本のホルン群も、協奏曲を吹いたばかりの福川をアシに据えるという豪華メンバーで吹き捲りました。
大事なヴァイオリン・ソロを受け持つコンサートマスターの扇谷泰朋、素晴らしい出来でした。彼のヴァイオリンは独特な音色があって、もう一人のコンマス・木野雅之とは違った趣があり、これからの日本フィルを代表するスターになるでしょう。

先日の横浜でのショスタコーヴィチでも感じましたが、沼尻の音楽作りはいよいよ「熱さ」が増してきたようです。特に今回はレコードを裏返す所あたりから、B面相当部が出色の出来でした。

全曲を終えた後の客席の静寂がまた素晴らしかった。恐らく聴衆のほとんどがこの熱演に圧倒されていたのでしょう。マエストロが指揮棒を下ろしてからもなお数呼吸、会場を沈黙が支配しました。
拍手が湧き上がってからの喝采、ブラヴォの掛け声は最後の最後まで鳴り止みませんでした。

 

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