2009クラシック馬のプロフィール(11)

今年のヨーロッパのクラシック・レースに勝った馬の血統をやや詳しく紹介して来ましたが、今回が最終回です。先週の土曜日に行われたセントレジャーを制したマスタリー。
実は「セントレジャー」という競馬はアイルランドにもフランスにもありますが、どちらも現在では古馬にも解放され、厳密な意味でのクラシックという意味を失ってしまいました。
従って英国のセントレジャーが最後、アイルランドもフランスもここでは扱いません。悪しからず。

さてセントレジャー馬マスタリー Mastery は、イタリア・ダービー馬でもあります。もちろんイタリア・ダービーはクラシックの位置付けですが、ドイツとイタリアについては資料等が不備のものもあり、原則として私の守備範囲外です。

マスタリーは父スラマニ Sulamani 、母モイェーシ Moyesii 、母の父はダイシス Diesis という血統。母の名前の正確な発音は判りませんので、一応こうしておきます。

モイェーシはフランスで走り7戦1勝。繁殖牝馬としては、マスタリーの半兄に当るカークリース Kirklees (2004年生まれ、父はジェイド・ロバリー Jade Robbery)が未だ現役。9月6日の日記で紹介したように、今年のケンプトン競馬場で行われたセプテンバー・ステークス(GⅢ)に勝ってメルボルン・カップへの参戦を表明している馬です。
この馬もマスタリーと同じくゴドルフィンの所有馬です。カークリースは2歳時にイタリアのグラン・クリテリウムも勝っていることにも注目。兄弟揃ってイタリアのパターン・レース勝馬なのですね。

モイェーシの母、つまりマスタリーの2代母がチェロキー・ローズ Cherokee Rose であることにも着目しましょう。
ああ、あの馬か、とピンと来る方は少ないでしょうが、1995年にドーヴィルのモーリス・ド・ギースト賞とヘイドックのスプリント・カップの二つのスプリントGⅠ戦を制した快速馬です。不思議なことに、チェロキー・ローズの父は凱旋門賞馬ダンシング・ブレーヴ Dancing Brave であったことも驚きでした。

チェロキー・ローズの母ケルティック・アセンブリー Celtic Assembly はループ・ステークスの2着馬で、唯一の勝利は1マイル2ハロンでのもの(14戦1勝)。

更にその母ウェルシュ・ガーデン Welsh Garden はアイルランドのチャンピオン2歳に選ばれたスピード馬で、6戦5勝の成績を残しました。
ただしウェルシュ・ガーデンは極めて気性が激しく焦れ込むタイプ。ゲートにすんなり収まったことは無く、態々アイルランドの未だスターティング・ゲート(ヨーロッパではスターティング・ストールと言いますが)が使われていない競馬場を選んで走ってのチャンピオンだったのです。
1975年の時点でスターティング・ゲートを使わず、昔ながらのバリアー(英語では、これをスターティング・ゲートと呼びます)によるスタートが行われていた、ということも驚くべきエピソードでしょ。

このウェルシュ・ガーデンは繁殖牝馬としても成功し、1983年生まれのケルティック・ヘアー Celtic Heir (父はツァラヴィッチ Czaravich)は2歳の重賞ホーリス・ヒル・ステークスに勝ちましたし、1990年生まれのモレスネス Molesnes (父はアレッジド Alleged)はフランスの長距離戦カドラン賞を制しています。

マスタリーの5代母に当るガーデン・オブ・エデン Garden of Eden は未勝利だったものの、やはり繁殖に上がってから優れた産駒に恵まれ、1976年に生まれたギャラクシー・リブラ Galaxy Libra (父ウルヴァー・ハロウ Wolver Hollow)はアメリカでGⅠに2勝、1989年(母が22歳の時の高齢出産!)産のガーデン・オブ・へヴン Garden of Heaven (父アークティック・ターン Arctic Tern)もフランスでコンセイユ・ド・パリ賞の勝馬になっているのです。

更に遡った6代母メソポタミア Mesopotamia もまたアイルランドのチャンピオン2歳で、孫娘のウェルシュ・ガーデン同様に極めて気性の激しい馬。その彼女の別の娘たちからも注目すべき競走馬たちが出現しています。
例えばメソポタミアの娘ハウス・タイ House Tie はドラー賞(GⅡ)に勝ってガネー賞2着ながら障害のGⅠ戦にも勝ったというユニークなアルダーブルック Alderbrook の2代母。
エクリプス・ステークスとジャドモント・インターナショナルと二つのGⅠを制したホーリング Halling も、3代母はメソポタミアの娘カモジー Camogie という具合。

ファミリー・ナンバーは10号族-C 。

以上、今年のセントレジャー馬マスタリーの牝系は多士済々。スプリンターがいるかと思えば、障害で活躍した馬も出るファミリー。1頭の母が複数の活躍馬を出す、というのも特徴かも知れません。

マスタリーの父についても簡単に触れておきましょう。

スラマニはフランスダービーに勝って凱旋門賞は2着でした。スラマニの父エルナンド Hernando も全く同じで仏ダービー馬にして凱旋門賞2着馬。
世界を制覇した感のある、ノーザンダンサー Northern Dancer からニジンスキー Nijinsky 、ニニスキ Niniski と受け継がれているサイヤー・ラインです。
マスタリーは、そのスラマニの初産駒。まだまだこれからの活躍が期待される父系でしょう。

 

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