第240回・神奈川フィル定期
ここでいきなり問題ですが、ベートーヴェンがエロイカ交響曲の次に作品番号を付けたのは、何という曲でしょうか?
そう、正解はトリプル・コンチェルトですね。でも、何故この曲はエロイカほどには演奏されないのだろう。ということで、正解を求めて、横浜のみなとみらいホールまでやってきたコンサート。
ベートーヴェン/序曲「コリオラン」 作品62
ベートーヴェン/ピアノ、ヴァイオリンとチェロのための三重協奏曲 ハ長調 作品56
~休憩~
サン=サーンス/交響曲第3番 ハ短調 作品78「オルガン付」
指揮/広上淳一
ピアノ/アブデル・ラーマン・エル=バシャ
ヴァイオリン/堀米ゆず子
チェロ/山崎伸子
オルガン/室住素子
コンサートマスター/石田泰尚
別に正解なんかないんですけど、トリプル・コンチェルトが聴けて幸せ、素晴らしい演奏でした。改めて三重協奏曲が立派な大作であることを認識した次第。
ベートーヴェンの音楽には人を鼓舞し、生きる勇気を与える力がある。今日のコンチェルトの演奏は、正にそれに尽きるような気がしました。何という推進力と、過ぎて行く瞬間への慈愛。
ソリストの並び。まずピアノは、普通のピアノ協奏曲の位置。その左隣にチェロが座り、更に左にヴァイオリンが並びます。つまり、第1ヴァイオリンの前に、ソリストが横一列に並ぶ。
堀米さんは、現在、ブリュッセル王立音楽院の客員教授。このコンサートのほか、ベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ連続演奏会のために来日中です。
彼女と同行してリサイタルを開いているエル=バシャ氏。彼はエリザベート王妃音楽院ピアノ科教授にも就任していますね。堀米さんとは同じベルギーで後輩を育てている間柄。
山崎さんは東京芸大の准教授。晴海でも後進を指導しています。
ということで、今日のソリストたちは、皆夫々の場で教授として教育に携わっている面々です。それは指揮者の広上も同じ。しかし彼等が再現芸術に懸ける姿勢は、「教授」より以前に「人間」なのです。
先生としてのお手本を示す、というようなよそよそしい演奏では全然なく、作品の本質に食い込み、一見するとギャランとなスタイルの協奏曲から、エロイカを作曲したばかりのベートーヴェンの意欲を掬い上げ、堂々と提示してくれました。
第2楽章。ここは最初、チェロのソロとオーケストラの弦楽器が対話しながら進むのですが、石田コンマスはほとんどチェロに向き合うように、互いの弓を確認しつつ音楽を創っていく。もう、まるで室内楽ですね。
アタッカで流れ込む第3楽章の入り。広上の棒が冴え渡る瞬間です。3人のソロとオーケストラの呼吸の見事な一致、ブリオに満ちたポロネーズの躍動。
“えっ、トリプル・コンチェルトって、こんな凄い音楽だったっけ・・・”
私はこれ、ナマで聴いたのは初めてじゃないですが、滅多に聴けない曲であることは確か。エロイカの10分の1、いや、100分の1くらいしか演奏機会がないのじゃないでしょうか。
確かに華やかな性格ではありますが、音楽作品としてはエロイカに決して劣りませんね。今日のような名演に接すれば、納得してもらえると思います。
気が付いたこと。ベートーヴェンの協奏曲はピアノが5つ、ヴァイオリン一つとトリプル。その中で最も短い緩徐楽章を持つのがトリプル。更に、最も長いフィナーレも、このトリプルなんですわ。
ということで、協奏曲が素晴らしかった。
最初の序曲は、アインザッツが揃わないのじゃないか、という感じでしたが、これは意識的にやっていたようです。コントラバスが飛び出すように、ズズーンと入るのです。神奈川フィルはコントラバス7本、決して低音の威力で圧倒するオーケストラではないので、あえてコントラバスを前面に出したのかもしれません。
メインのサン=サーンス。広上は今年N響でも取り上げました。あれは素晴らしかったし、CDにもなっていますが、ここで改めてライヴに接すると、神奈川フィルの透明な音感が素晴らしいですね。N響より良いんじゃないかしら。
1階8列目中央で聴くフル・オーケストラの威力を満喫しました。
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