今年もベートーヴェン全曲

去年スタートしたサントリーホールのチェンバーミュージック・ガーデン、今年の核になっているのもベートーヴェンの弦楽四重奏曲全曲演奏会です。一つの団体によるツィクルス、毎年続けられていくのでしょうか。
去年はアメリカのパシフィカ・クァルテットによる精力的な演奏で圧倒されましたが、今年はドイツのヘンシェル・クァルテットの担当。全5回をほぼ1週間かけて演奏する予定になっています。日程は以下の通り。

6月8日 ≪サイクルⅠ≫
ベートーヴェン/弦楽四重奏曲第1番作品18-1
ベートーヴェン/弦楽四重奏曲第11番作品95「セリオーソ」
     ~休憩~
ベートーヴェン/大フーガ作品133
ベートーヴェン/弦楽四重奏曲第13番作品130

6月9日 ≪サイクルⅡ≫
ベートーヴェン/弦楽四重奏曲第2番作品18-2
ベートーヴェン/弦楽四重奏曲第16番作品135
     ~休憩~
ベートーヴェン/弦楽四重奏曲第4番作品18-4
ベートーヴェン/弦楽四重奏曲第9番作品59-3「ラズモフスキー第3番」

6月10日 ≪サイクルⅢ≫
ベートーヴェン/弦楽四重奏曲第5番作品18-5
ベートーヴェン/弦楽四重奏曲第8番作品59-2「ラズモフスキー第2番」
     ~休憩~
ベートーヴェン/弦楽四重奏曲第12番作品127

6月15日 ≪サイクルⅣ≫
ベートーヴェン/弦楽四重奏曲第6番作品18-6
ベートーヴェン/弦楽四重奏曲第10番作品74「ハープ」
     ~休憩~
ベートーヴェン/弦楽四重奏曲第15番作品132

6月16日 ≪サイクルⅤ≫
ベートーヴェン/弦楽四重奏曲第3番作品18-3
ベートーヴェン/弦楽四重奏曲第7番作品59-1「ラズモフスキー第1番」
     ~休憩~
ベートーヴェン/弦楽四重奏曲第14番作品131

日本の6月は音楽会シーズン真っ最中、個人的にもいろいろ予定が入った後にチケットが売り出されるため、私が聴けたのは(聴けるのは)10日のサイクルⅢだけ。昨日の午後、赤坂を覗いてみましたので、短い感想を書いておくことにしました。

取れたチケットは中央ブロック8列。普通の舞台を想定して選んだ席でしたが、今回も横長スタイルの舞台配置、8列とは一番後ろの列でした。ここからでは演奏者は見えません。知らずに選んだ私が悪いのでしょうが、楽しみが半減するような気持ちでヘンシェルを迎えます。
彼らを聴くのは、確か今回が3度目。メンバーを見て気が付いたのは、セカンドが交替したこと。当初はヘンシェル3兄弟で結成した団体、今回の来日ではセカンドがダニエル・ベルに替っていました。ベルリン・フィルに在籍していたこともあるそうですが、英国人のようです。

ヘンシェルでこれまで聴いたのはハイドン、メンデルスゾーン、ブラームスなど。ベートーヴェンは今回が初めてです。四重奏以外の作品を積極的に取り上げることが多いようで、私もヴィオラの澤氏との共演を聴いてきました。
ロビーに並べられていたCDでも、ヴィオラやピアノ、更には声楽との共演物もあり、四重奏専門というよりも室内楽全体をレパートリーにしていく団体なのでしょう。今回は王道、ベートーヴェンの全曲。

選曲は各回が初期・中期・後期をバランスよく組み合わせたもので、単発で聴いてもベートーヴェンのスタイルの変化を楽しめるように工夫されています。これは去年も同じでしたが、当然ながらパシフィカとは組み合わせが微妙に異なり、セットで聴く人はその違いを味わうという楽しみもあるのでしょうね。

私が聴いたサイクルⅢ、メンバーが変わったためか、チクルスという長丁場の所為か、果てまた単に調子が悪かったのか、最初はどうも演奏が安定しないような印象を持ちました。前2回では感じられなかったこと。
それでもラズモフスキーの最後は堂々と締め括りました。この辺りを聴いていると、ヘンシェルはドイツの主流を行く団体だと感服してしまいます。多少のフラツキがあっても、基本をシッカリ押さえているので、エンジンが掛かってくると加速度的に実力がモノをいってくる。

その意味でも、圧巻は作品127でした。これもオヤッ、という個所が散見されはしましたが、全体的な表現は真に説得力のある演奏で唸らせます。
音量の点でも迫力十分、何よりベートーヴェン語の文法が完璧で、これは同国人でなければ容易に会得できないことではないでしょうか。

去年もベートーヴェンについて色々考えさせられましたが、今年もそう。クラシック音楽に限らず、あらゆる芸術でも最高峰に君臨すると考えられるベートーヴェンの弦楽四重奏は、音楽を超越した哲学、論理の世界。
旋律、リズム、和声などは、音楽上の約束事を超えて人間の意志表現のツールでしかない。127なんて正にその典型でしょ。
ヘンシェルの演奏を聴いていると、様々な齟齬に直面しても、それを克服して思考の結論に到達する。その過程を追体験しているような感覚に捉われていくのでした。

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1件の返信

  1. まとめtyaiました【今年もベートーヴェン全曲】

    去年スタートしたサントリーホールのチェンバーミュージック・ガーデン、今年の核になっているのもベートーヴェンの弦楽四重奏曲全曲演奏会です。一つの団体によるツィクルス、毎年…

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