ディミトリ・ミトロプーロス指揮ニューヨーク・フィル(13)
1951年8月、ワルターと共にエディンバラ音楽祭出演を終えたミトロプーロスは、いよいよこの年の秋からスタートする第110シーズンからニューヨーク・フィルの音楽監督(Musical Director)に就任します。
第115シーズンまでの6シーズンに及ぶミトロプーロス時代のニューヨーク・フィル。今回から順次そのプログラムを紹介していきましょう。
1951年10月11日 カーネギーホール
モーツァルト/歌劇「後宮からの逃走」序曲
バッハ/組曲第3番~エアー
モーツァルト/協奏交響曲変ホ長調K297b
ブゾーニ/劇場風カプリッチョ「アルレッキーノ」(アメリカ初演)
指揮/ディミトリ・ミトロプーロス
オーボエ/ハロルド・ゴンバーグ
クラリネット/ロバート・マッギニス
ファゴット/ウイリアム・ポリージ
ホルン/ジェームス・チェンバース
マイム/パウリーネ・ポリージ
ナレーター/ジョン・ブラウンリー
メゾ・ソプラノ/マーサ・リプトン
テノール/デーヴィッド・ロイド
バリトン/ジェームス・ピアース
バス/J.オールデン・エドキンス、ウイリアム・ウィルダーマン
1951年10月12日 カーネギーホール
モーツァルト/歌劇「後宮からの逃走」序曲
モーツァルト/協奏交響曲変ホ長調K297b
ブゾーニ/劇場風カプリッチョ「アルレッキーノ」
指揮/ディミトリ・ミトロプーロス
オーボエ/ハロルド・ゴンバーグ
クラリネット/ロバート・マッギニス
ファゴット/ウイリアム・ポリージ
ホルン/ジェームス・チェンバース
マイム/パウリーネ・ポリージ
ナレーター/ジョン・ブラウンリー
メゾ・ソプラノ/マーサ・リプトン
テノール/デーヴィッド・ロイド
バリトン/ジェームス・ピアース
バス/J.オールデン・エドキンス、ウイリアム・ウィルダーマン
1951年10月14日 カーネギーホール
モーツァルト/歌劇「後宮からの逃走」序曲
ブゾーニ/劇場風カプリッチョ「アルレッキーノ」
ベルリオーズ/「ファウストの劫罰」三つの管弦楽曲
ファリャ/バレエ「三角帽子」~三つの舞曲
指揮/ディミトリ・ミトロプーロス
マイム/パウリーネ・ポリージ
ナレーター/ジョン・ブラウンリー
メゾ・ソプラノ/マーサ・リプトン
テノール/デーヴィッド・ロイド
バリトン/ジェームス・ピアース
バス/J.オールデン・エドキンス、ウイリアム・ウィルダーマン
1951年10月16日 アカデミー・オブ・ミュージック(フィラデルフィア)
モーツァルト/歌劇「後宮からの逃走」序曲
パガニーニ/ヴァイオリン協奏曲第1番
ラフマニノフ/交響曲第2番
指揮/ディミトリ・ミトロプーロス
ヴァイオリン/マイケル・ラビン
1951年10月18・19日 カーネギーホール
サティ=ダイアモンド/貧者のミサ
サティ=ダイアモンド/パッサカリア(世界初演)
シマノフスキ/ヴァイオリン協奏曲第1番
マーラー/交響曲第1番
指揮/ディミトリ・ミトロプーロス
ヴァイオリン/ジョン・コリリアーノ
1951年10月21日 カーネギーホール
サティ=ダイアモンド/パッサカリア
ハイドン/交響曲第80番
マーラー/交響曲第1番
指揮/ディミトリ・ミトロプーロス
1951年10月25・26日 カーネギーホール
フランク=ピエルネ/前奏曲、コラールと終曲
ダンディ/三部作「ワレンシュタイン」
シューマン/ピアノ協奏曲
デュカス/交響詩「魔法使いの弟子」
指揮/ディミトリ・ミトロプーロス
ピアノ/アルド・チッコリーニ
1951年10月27日 カーネギーホール
フランク=ピエルネ/前奏曲、コラールと終曲
ダンディ/三部作「ワレンシュタイン」
ショパン/ピアノ協奏曲第1番
指揮/ディミトリ・ミトロプーロス
ピアノ/コンスタンス・キーン
1951年10月28日 カーネギーホール
フランク=ピエルネ/前奏曲、コラールと終曲
ダンディ/三部作「ワレンシュタイン」
リスト/ピアノ協奏曲第2番
デュカス/交響詩「魔法使いの弟子」
指揮/ディミトリ・ミトロプーロス
ピアノ/アルド・チッコリーニ
1951年11月1・2日 カーネギーホール
フランク/「贖罪」交響的小品
ハイドン/チェロ協奏曲二長調 作品101
ヴォルぺ/バレエ「The Man from Midian」第1組曲
サン=サーンス/交響曲第2番
指揮/ディミトリ・ミトロプーロス
チェロ/グレゴール・ピアティゴルスキー
1951年11月3・4日
フランク/「贖罪」交響的小品
サン=サーンス/交響曲第2番
シューマン/チェロ協奏曲
リムスキー=コルサコフ/スペイン狂詩曲
指揮/ディミトリ・ミトロプーロス
チェロ/グレゴール・ピアティゴルスキー
1951年11月6日 コンスティテューション・ホール(ワシントンDC)
フランク=ピエルネ/前奏曲、コラールと終曲
ダンディ/三部作「ワレンシュタイン」
ラフマニノフ/ピアノ協奏曲第3番
指揮/ディミトリ・ミトロプーロス
ピアノ/ジーナ・バッカウアー
1951年11月8・9・11日 カーネギーホール
ロッシーニ/歌劇「絹の梯子」序曲
ハイドン/交響曲第104番
ミルズ/主題と変奏 作品81(世界初演)
ラフマニノフ/ピアノ協奏曲第3番
指揮/ディミトリ・ミトロプーロス
ピアノ/ジーナ・バッカウアー
1951年11月12日 ホテル・プラザ
ヴォルフ=フェルラーリ/歌劇「スザンナの秘密」序曲
ボッケリーニ/チェロ協奏曲 変ロ長調 作品34
ハイドン/交響曲第80番
ドビュッシー/組曲「子供の領分」
指揮/ディミトリ・ミトロプーロス
チェロ/ラースロ・ヴァルガ
1951年11月15・16・18日 カーネギーホール
バッハ=シェーンベルク/二つのコラール前奏曲
シェーンベルク/モノドラマ「期待」(アメリカ初演)
ブラームス/交響曲第4番
指揮/ディミトリ・ミトロプーロス
ソプラノ/ドロシー・ダウ
1951年11月22・23日 カーネギーホール
グルック/歌劇「アルチェステ」序曲
ブラームス/ピアノ協奏曲第1番
モホープト/交響曲第1番
バラキレフ=カセルラ/東洋的幻想曲「イスラメイ」
指揮/ディミトリ・ミトロプーロス
ピアノ/ルドルフ・ゼルキン
1951年11月24日 カーネギーホール
ベートーヴェン/交響曲第1番
サン=サーンス/ピアノ協奏曲第5番
ブラームス/交響曲第4番
指揮/ディミトリ・ミトロプーロス
ピアノ/ジャン・カサドシュ
1951年11月25日 カーネギーホール
バッハ=ベッセンロート/コラール前奏曲「クレド」
ベートーヴェン/交響曲第1番
ブラームス/ピアノ協奏曲第1番
バラキレフ=カセルラ/東洋的幻想曲「イスラメイ」
指揮/ディミトリ・ミトロプーロス
ピアノ/ルドルフ・ゼルキン
1951年11月29・30日 カーネギーホール
プフィッツナー/歌劇「パレストリーナ」第1・2・3幕のための前奏曲
パガニーニ/ヴァイオリン協奏曲第1番
ブラームス/交響曲第1番
指揮/ディミトリ・ミトロプーロス
ヴァイオリン/マイケル・ラヴィン
1951年12月1日 カーネギーホール
バッハ=ベッセンロート/コラール前奏曲「クレド」
ウィエニアフスキ/ヴァイオリン協奏曲第1番 嬰へ短調 作品14
トラヴィス/交響的アレグロ(世界初演)
ブラームス/交響曲第1番
指揮/ディミトリ・ミトロプーロス
ヴァイオリン/マイケル・ラビン
1951年12月2日 カーネギーホール
ヴォルフ=フェルラーリ/歌劇「スザンナの秘密」序曲
ウィエニアフスキ/ヴァイオリン協奏曲第1番 嬰へ短調 作品14
ブラームス/交響曲第1番
指揮/ディミトリ・ミトロプーロス
ヴァイオリン/マイケル・ラビン
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音楽監督という地位に就いたこともあって、最初のシーズンから実に意欲的なプログラムが続きます。凡そ昨今の東京のオーケストラでは想像もできない内容になっていますね。
最初のプログラムで取り上げたブゾーニのアルレッキーノは、4つあるブゾーニの特異なオペラ作品の一つ。ここではパントマイムを加え、ナレーションによって進められる演奏会形式になっているようです。
10月18日のサティ作品2曲は、いずれもアメリカの作曲家・ダイアモンド David Diamond (1915-2005) がオーケストレーションしたものを演奏しています。
貧者のミサは、オリジナルが合唱とオルガンによる作品ですが、合唱団の名前が記載されていませんので、純粋にオーケストラ作品として編曲されているのかもしれません。別資料によると1960年編曲となっていますから、あるいは後に改訂して最終稿になっている可能性があります。
パッサカリアは恐らく1906年作曲のピアノ曲でしょう。サティのピアノ作品はかなりの数が様々な作曲家によってオーケストレーションされていますが、パッサカリアはこの時が世界初演。
11月1日に演奏されたヴォルぺ Stefan Wolpe (1902-1972) は、ベルリンに生まれてニューヨークに没したドイツの作曲家。ユダヤ人であったためナチに追われ、オーストリアからパレスチナを経て、最終的に1944年にアメリカに移住、ユダヤの民族音楽や12音によらないセリーを使って作曲した人です。
「ミデアンの人」と題されたバレエ音楽は1942年の作曲。ヴォルぺの代表作です。
(因みに、ミデアン Midian とはアラビア半島にあったとされる古代の地名)
11月8日に世界初演されたミルズ Charles Mills (1914-1982) は、ノース・カロライナのアシュヴィルに生まれ、ニューヨークに没したアメリカの作曲家。17歳の時からジャズ・バンドで演奏していた経歴の持主で、この作品はミトロプーロスとニューヨーク・フィルの委嘱作。他に交響曲を6曲残していますし、ジャズ・バンドを使った作品もあります。
11月15日のシェーンベルク「期待」も文字通り期待されたであろう演奏。これがアメリカ初演です。
続いて11月22日のバラキレフ「イスラメイ」。これは有名なピアノ曲ですが、いくつかのオーケストラ版が作られています。ブルックナーで有名なシャルク版、ロシアのリャプノフ版などがありますが、ミトロプーロスが取り上げたのはイタリアのアルフレッド・カセルラがアレンジした版。
11月25日の演奏会の冒頭で取り上げられたバッハの管弦楽編曲版。原曲はオルガンのためのコラール前奏曲集のうち、「教理問答集コラール」と呼ばれる曲集からBWV680に分類されているもの。「われらみな唯一の神を信ず Wir glauben all’an einen Gott」と題されたもの。同じタイトルの681は手鍵盤のみの作品ですが、ベッセンロートがオーケストレーションしたのはペダル鍵盤付大オルガンのための曲。
編曲者については判りませんが、ミトロプーロスはこの編曲版をSP時代にミネアポリス交響楽団とアメリカ・コロンビアに録音していました。レコードの品番は 11994D となっていますが、CD化されているか否かについては不明です。
12月1日に世界初演されたトラヴィス Roy Travis (1922- ) は、ニューヨーク生まれの作曲家で、未だ現役だと思います。特に記述はありませんが、これもミトロプーロス/ニューヨーク・フィルの委嘱作でしょうか。
以上、どのプログラムも一筋縄では行かないものばかり。“あ、どれも知ってる”というような、いわゆる名曲だけを並べたプログラムはほんの数えるほどでしょう。ハイドンの交響曲を取り上げても、第80番というのですからねぇ!!
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