ロンシャンのGⅠ6連発

10月4日の日曜日、ロンシャン競馬場はGⅠフェスティヴァルに沸きました。1日8レースのうち6レースがパターン・レースで、全てがGⅠという世界にも類のない開催。これに匹敵するのはアメリカのブリーダーズ・カップだけでしょう。

凱旋門賞については、既に別項で詳しく紹介しましたから、ここでは他のGⅠレースを施行順に紹介していきます。

その前に、全体を通して触れておかねばならないことがあります。それは、馬主アガ・カーンの快挙。
この日行われた六つのチャンピオン戦のうち、凱旋門賞とアベイ・ド・ロンシャン賞以外の4つのGⅠを全てアガ・カーンの馬が制覇したということです。
こういう記録がかつてあったのか否か、それは詳しくは知りませんが、奇跡に近い快挙ではないでしょうか。

アベイ・ド・ロンシャン賞(GⅠ、2歳上、1000メートル)は最強スプリンター決定戦。2歳馬にも解放されているのが特徴です。
今年は唯一の2歳馬ムシュー・シュヴァリエ Monsieur Chevalier を含めて16頭が出走。

レースはファロン騎乗のエキアーノ Equiano の逃げで始まり、ベンバウン Benbaun とストライク・アップ・ザ・バンド Strike Up The Band が追走する展開。
勝ったのは先行馬をマークして進んだ134対10の中穴、トータル・ギャラリー Total Gallery 。ゴール前の接戦を首差抑えての勝利です。
2着惜敗が8対5の1番人気に支持されたフリーティング・スピリット Fleeting Spirit でした。3着は半馬身差でウォー・アーティスト War Artist 。
英国馬のワン・ツー・スリーは、改めてイギリスのスプリンターの強さを立証しています。

勝馬の調教師はスタン・ムーア、ジョニー・ムルタが騎乗していました。
ムルタ騎手は2000年にもアベイに勝っていますが、そのときはトータル・ギャラリーの父であるナミド Namid でのもの。何やら因縁を感じますが、ナミドを調教していたのがオックス師(シー・ザ・スターズ)というのも奇縁でしょう。

トータル・ギャラリーは1年を通じて成長してきたスプリンター。まだ3歳でもあり、来年の活躍が大いに楽しみな1頭です。

マルセル・ブーサック賞(GⅠ、2歳牝、1600メートル)は2歳牝馬のチャンピオン決定戦。

11頭が出走し、9対10の圧倒的1番人気に応えてロザナラ Rosanara が快勝しました。
2着は2馬身差でオン・ヴェラ On Verra 、3着にハナ差でジョアンナ Joanna の順。
オブライエン厩舎の期待、キャバレー Cabaret はどん尻に惨敗してしまいました。

レースはキロ・アルファ Kilo Alpha の逃げで始まり、5番手を追走したロザナラが危なげなく抜け出します。
とは言ってもロザナラ、ゲートが開いた時にあわや落馬という瞬間もあり、最初の数ハロンは引っ掛かり気味という不利を克服しての楽勝。相当な器であることが予想されます。

ところでこのレース、土曜日のレポートでも紹介したように、本来はルメールが騎乗する予定でしたが落馬事故により乗り替り。
皮肉にも落馬事故からカムバックしたばかりのクリストフ・スミオンが騎乗していたのです。

スミオンは先月、ナンシー競馬場で落馬骨折し、全治4ヶ月と診断されていたもの。驚異の回復力で劇的なカムバックを果しました。
更にスミオンは、それまで主戦だったアガ・カーンとの関係が悪化、契約を打ち切られるというスキャンダルにも見舞われていた矢先のことです。

それが奇跡的に、今回はアガ・カーン所有、ロワイヤー=デュプレ調教のロザナラに騎乗が回って来、見事に陣営の期待に応えたことで関係修復に繋がるのでは、という期待も膨らむ一勝となりました。

アガ・カーン/デュプレ/スミオンのコンビは、もちろん去年のザルカヴァで頂点に立った組み合わせ。
早くもロザナラに第二のザルカヴァという評判が立つのも無理ないところでしょう。
1000ギニーに7対1というオッズが出ましたが、陣営としてはフランス1000ギニーに向かいたい意向のようです。

ジャン=リュック・ルガルデール賞(GⅠ、2歳、1400メートル)は、未だに旧名グラン・クリテリウムで呼び習わされている2歳のチャンピオン戦。

7頭立てを制したのは、又してもアガ・カーン/ロワイヤー=デュプレのコンビでした。
勝馬は6対1のシユーニ Siyouni 。評判馬でしたが、ここ2戦の2着続きでやや人気を落としていました。これもルメール予定でしたが、こちらはジェラール・モッセに乗り替り。

2着は1馬身半差で逃げ粘ったゴスデン厩舎のパウンスト Pounced 、3着に更に半馬身でバズワード Buzzword 。
7対5の1番人気に支持された無敗のディック・ターピン Dick Turpin は、英国からの挑戦も実らず5着敗退。内ラチ沿いの5番手に付けていましたが、前が空かない不利が敗因でしょう。

勝ったシユーニ、2000ギニーに14対1のオッズが付きましたが、アガ・カーンは“最初はスプリンターとしてスタートし、成熟に連れて距離を克服してきた馬。1マイルには問題なく、イギリスに遠征するかは未定だが、何処かの2000ギニーを目標にすることは間違いなかろう” とコメントしています。

次は凱旋門賞の一つ前のレース、オペラ賞(GⅠ、3歳上牝、2000メートル)は9頭立て。

又してもアガ・カーンの所有馬が勝ちました。それは185対10というかなりの穴馬シャラナイヤ Shalanaya 。2着は1馬身半でボード・ミーティング Board Meeting 、3着に短頭差惜敗がセシル厩舎のミッドデイ Midday 。そうオークス2着馬ですね。
2対1の1番人気アルパイン・ローズ Alpine Rose は4着敗退。

シャラナイヤはデュプレ厩舎ではなく、マイケル・デルザングレ Mikel Delzangles 師の管理馬。騎手は、これもルメールから乗り替ったマクシム・グィヨンでした。

デルザングレ師はアガ・カーンの馬を預かって2年目になりますが、アガ・カーン殿下の下で10年間見習いを務めていた人。その所有馬については隅々まで理解している若手の調教師です。
この勝利によって、ブリーダーズ・カップに行くという可能性も出てきました。

そして最後はカドラン賞(GⅠ、4歳上、4000メートル)。
12頭立てでしたが、何と言っても注目はこれが引退レースとなるイェーツ Yeats 。多少はご祝儀もあって、3対1の1番人気。

レースはウィンザー・パレス Windsor Palace がペースメーカーとなつて進み、ムルタ騎乗のイェーツは2番手を追走。
あと5ハロンでラストスパートに入り、そのまま流れ込むかと思われましたが、マークして進んだアランディ Alandi が並びかけると、最早イェーツには抵抗する力が残っておらず、追い込んだカスバー・ブリス Kasbah Bliss にも交わされて3着に終りました。
勝ったアランディと2着カスバー・ブリスとの差は短頭、3着イェーツとの差は1馬身半でした。

アランディは先月アイルランド・セントレジャーに勝った馬。これまたアガ・カーンの所有馬で、最初に触れたように、殿下は1日にGⅠレース4勝という大記録を樹立したのです。

アランディはアイルランドでジョン・オックス師が管理する馬、騎乗していたのはミック・キネーン。
即ち、オックス/キネーン・コンビにとって、カドランは凱旋門賞とのダブルというお土産付きの結果でした。

負けたイェーツ。オブライエン師以下、関係者は全てこの馬の長年の労を労っていました。故障も無く、無事に完走してくれたことで大満足でしょう。
“イェーツは、生涯に一度の名馬” というオブライエン師の別れの言葉が全てを物語っていました。

イェーツの引退は、陣営にとっても新たな時代のスタートになります。

 

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