群馬交響楽団・第458回定期演奏会

昨日の土曜日、関越自動車道をぶっ飛ばして高崎に行ってきました。タイトルにあるように、群馬交響楽団の定期公演を聴くためです。
会場は高崎城址公園内にある群馬音楽センター。

群馬交響楽団、愛称「群響」を本拠地で聴くのは初めての体験です。東京公演を聴いたことはありますが、私の信条としてオーケストラはその本拠地で聴くべきもの。それは海外のオーケストラも日本のオーケストラも同じことでしょう。
ウィーン・フィルなどの来日公演は一度聴けばそれで十分、というのが私の信念です。何度も聴くお金があったら、せっせと地方都市に遠征して現地のオケを聴くべし。

ということで、私も初めて群響の本来の「音」を聴いたというのが感想です。プログラム等は、

R.シュトラウス/交響詩「マクベス」
三善晃/ピアノ協奏曲
     ~休憩~
ベートーヴェン/交響曲第3番
 指揮/沼尻竜典
 ピアノ/小川典子
 コンサートマスター/伊藤文乃

ホールもオーケストラの地元公演も初体験ですから、その様子を実況中継しましょうか。

開演は午後6時45分。開場は午後6時です。毎回同じ時間設定の由。土・日の公演が原則のようですね。
どうやら毎回プレトークが行われているようで、今回は評論家の渡辺和彦氏の担当。コンサートのプログラミングに関する話で、この会は「英雄つながりプロ」ではないか、という話でした。内容についてはプログラムをご覧下さい、とのこと。

会場の群馬音楽センターは、今ではやや古いスタイルになった公会堂風の造り。2階以上はなく、全座席が1階に配置されて横に長い客席。
私が座ったのは、6列目の48番ということでしたが、前3列は無く実質3列目(というか、ピアノのための舞台が設置されているため、客席を取り払ってあるような感じ)。
48番といっても横に長いので右端という感じはしません。一応は中央ブロックの右側という位置取りでした。
(ネットで買ったので、座席を指定したわけではありません。ブロックで選ぶ仕組みですから、具体的な場所は事務局次第)

定刻、オーケストラが入場すると拍手が起きます。コンサートマスターも他の団員と同時に登場。一人最後に拍手で、というスタイルではありません。

東京では地元オーケストラの団員入場時に拍手で迎えることはほとんどありませんが、地方では自然に拍手が起きるオーケストラが多いようです。これは好ましいことだと思います。
東京では外来オケにはしつこいほどの出迎え拍手をするのに、地元オケには知らんぷり。これはチョッと異常でしょ。

ホールの響きは、聴く前から予想されましたが、かなりデッドですね。昔は東京のホールもみなこういう音がしたものですが、現在では絶滅しかかっている音響です。地方でも残響の多いホールが増えてきていますが、群馬は希少価値があると言えなくもありません。

というのは、正に後半で演奏された「エロイカ」に懐かしい響きを聴いたからです。

沼尻竜典は、来シーズンから群馬交響楽団の首席指揮者兼芸術アドバイザーへの就任が予定されていますが、早くもオーケストラとの相性を確かめるように、素晴らしく推進力のある、硬質なベートーヴェンを聴かせてくれました。

これを聴いていて私が咄嗟に連想したのは、トスカニーニとNBC交響楽団の録音。カーネギーホールであれ、ビクターのスタジオ録音であれ、彼のベートーヴェンはややデッドな響きを巧く味方につけて逞しいオーケストラ・サウンドを実現していました。

このホールが独特の威力を発揮したのは、しかし何と言っても三善晃のピアノ協奏曲でしょう。

現代音楽の鋭く研ぎ澄まされた音は、却って空気感に満ちた豊かな残響の中では霞み勝ちになるもの。
この日の演奏は、小川典子の鋭利な打鍵と強靭なピアノ演奏に見事にマッチ。三善の音楽のスペシャリストである沼尻の精緻な棒と相俟って稀に見る名演奏が生まれていました。

この日の白眉でしょう。東京では聴くことが出来ない演目だけに、高崎遠征の価値は十二分にあります。

冒頭はリヒャルト・シュトラウスの珍しい交響詩が取り上げられましたが、如何にも沼尻好みの選曲です。
ただし、これが滅多に取り上げられないという理由も仄かに見えてきたことも事実でしょう。即ち、アイディアは素晴らしいけれども、やや作品として冗長なところが感じられるのです。

ホールの音響も、残念ながらこの作品にはあまり味方しなかったようで、もう少し空気感のあるホールで聴いたならば印象も違ったものになったかもしれません。

響きに独特の懐かしさを感じる、と言ってもやはり本音は響きの美しい新しい群響の本拠地となるべきホールの誕生でしょうね。前監督で名誉指揮者に就任した高関健が成し得なかった夢。将来に繋げていくことが高崎の音楽ファンの願いでしょうか。

いずれにしても来期以降の沼尻/群響の活動に注目したいと思います。

演奏終了後、ロビーではコンサートマスターを中心にして「群響ふれあいトーク」という催しが行われていました。
東京に限らず地方オケも様々な形で演奏家と聴衆の交流を図っている様子。

私どもは夜の2時間ドライブが待っているので、これは失礼して帰路に付きました。

 

Pocket
LINEで送る

4件のフィードバック

  1. 音吉 より:

    はじめまして。音吉と申します。初めてお便り致します。
    群馬での感想を読ませて頂き、私も全く同感で、また、それまで自信がなかったものですから何だか嬉しくなり、つい書き込みをさせて頂きました。
    あの時の英雄は、清々しささえ感じられ、本当に心に響き、私も、ベトの時代の音はかくやとの音の原点を見るような思いでした。三善のピアコンも初聞きでしたが、色々な風景が去来、最後の生命力溢れる止揚に、名曲と言われるゆえんがわかるような気が致しました。 残念ながらのマクベスを除き、悪いはずのホールが本当の音を再発見させてくれたかのような、逆説の演奏会?! 耳の超良い沼尻さんと、たゆまぬ研鑽を積まれてこられたろう群響ならではのものだと思いました。
    いつか叶えられる悲願の新しいホールが、この原点をふと思い出させてくれるもの、オケを支える方々の心の楽しみの場になるようなものであることを願ってやみません。
    余談ですが…競馬にご興味がおありのようですね、先日、オペラのヴォツェックを検索した所、何故か競馬サイトが…同名の馬が北の競馬場で走っているようですよ。
    とりとめなく長々と失礼を致しました。

  2. メリーウイロウ より:

    音吉 様
    コメントありがとうございます。
    ホールの良し悪しは、単に残響が何秒という物理的な側面だけで決まるものではないと思います。
    私は群馬音楽センターは初体験だったのですが、最初はそのデッドさに驚きました。しかしご指摘のように、現代の三善作品や、沼尻の筋肉質で推進力に富んだ演奏では却って効果を上げていたように感じます。
    例えば同じ作品と演奏をサントリーホールで聴いても、あれほどの印象は残らなかったのではないでしょうか。
    私も群響のホームグラウンドが今のままで良いとは思いませんが、ホールあっての音楽、オーケストラであることに改めて感じ入った次第です。
    高崎往復はチト辛いものがあるので、次回はいつになるか判りませんが、またお邪魔したいと思っています。
    折角土曜日なので、開演時間をもう少し早くしてくれると気分的に行き易くなるのですがね。
    競馬については、私のライフワークのようなものです。ヨーロッパには音楽に因んだ馬名もたくさんあります。
    いずれその話題についても書きたいと思っている所。
    時々遊びに来てください。

  3. 音吉 より:

    お返事有難うございます。
    本当にハコというか、環境は必須なのですね。音の宿命かもしれませんね。
    ライフワークが競馬とはまた凄いご趣味ですね。
    私は馬は好きですが残念ながら競馬は…流鏑馬や障害やマイフェアレディの競馬、後、マンガ「風のシルフィード」は好きなのですが、日本の競馬(場)?は、どうも怖い気が致しまして…でも、映画「学校」のイノさんのくだりは感動しました。
    でも、音楽にまつわるネーミングや他の記事なども、本当に多趣味でいらっしゃいますし、また伺わせて頂きますね。
    ではでは、失礼致します。

  4. 音吉 より:

    お返事有難うございます。
    本当にハコというか、環境は必須なのですね。音の宿命かもしれませんね。
    ライフワークが競馬とはまた凄いご趣味ですね。
    でも、音楽にまつわるネーミングや他の記事なども、本当に多趣味でいらっしゃいます、楽しみにまた伺わせて頂きます。
    それでは、失礼致します。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください