強者弱者(25)

国境の山

 快晴の日浅草の六区賑ふ。活動写真に飽かぬ人々、夏を送り秋を迎へて得意顔なるもをかし。
 季、秋晴に入り、大気澄徹して四ツ谷、赤坂、牛込、麻布の各区より、西に遠く蜿蜒たる大山山脈を望む可し。富士は市内各区随所に得て之を見る可く、道灌山は東、筑波を見るによし。山はむさし野の榛莽を分けて、遠く尾花の末に之を見るもよけれど、物売の声いそがはしき巷の夕暮、電柱、火の見櫓を抽き、物干台を距て、老舗多き町の土蔵がくれに見るを最も妙とす。
 多摩川の右岸武相の国境、鶴間、原町田、長津田、川和のほとり、早く霜を見ることあり。川和は菊の名所、近年横浜鉄道の開通と共に市人の口に膾炙す。

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これも特に解説の要はないでしょう。100年前の東京は遥かに眺望が利いたということ。

「蜿蜒」(えんえん)とは、蛇が長く曲りくねって行く様。

川和は、現在は横浜市都筑区に属しています。東名高速の港北インターを降りた辺りですね。明治時代は菊の名所だったようですが、現在はどうなのでしょう。私は訪ねたことがないので事情は良く判りません。

横浜鉄道というのは現在の横浜線のことでしょうか。中山で降りて鶴見川沿いに北上すれば川和です。

 

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