第108回マエストロ・サロン、「マルティン・ジークハルトの巻」
昨日は日本フィル恒例のマエストロ・サロン。実は先月のラザレフの会は、結局日本フィルのホームページに音声アップされることなく、サロン参加者のみが聞けた幻のサロンになってしまいました。
ということで、今回もサロンの様子がウェブに掲載される可能性は決めて低いことが想像されます。折角のサロンですから、今回はその概要を出来る限り忠実に再現しようと思いました。ただし、要点のみの箇条書き。当方の聞き違いがあるかもしれません、他への引用などは注意してください。お願いします。
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第108回《マエストロ・サロン》マルティン・ジークハルトの巻
-東京国際フォーラム G701- 午後7時~
今回のマエストロはウィーンの指揮者マルティン・ジークハルト氏。司会は日本フィルのヴィオラ奏者である新井豊治氏。ドイツ語通訳は横浜国立大学准教授であられる小宮正安氏。
1.近況
現在はオランダのアーネム・フィルとエクストン・レーベルにマーラーの交響曲を録音中。2年間で全集を完成させる予定だが、未完に終わった第10番については一般的に知られているクック版以外のものになるかもしれない。
第10の完成版については、2001年にウィーン交響楽団とサマーレ版を演奏したことがあり、その時は完成版そのものに疑問を抱いていた。
しかしその時の演奏はオーレストラから賛同を得、聴衆からも好評で迎えられた。特に聴衆の中にいた老婦人に感謝されたのが忘れられない。その婦人は作曲家マーラーの孫娘だったのである。
第10の完成版については、クック版、バルシャイ版など様々なエディションを比較した結果、サマーレ版がベストだと思うし、現在では当初抱いていた疑問は解消している。
今回の録音もサマーレに送って聴いて貰った。編曲者も大いに喜び、この版の演奏はジークハルトのみに許可するという一札を貰っている。日本フィルとも是非演奏したい。
(筆者注:サマーレはイタリア人だそうです。マーラーの第10完成版は、サマーレの他にクック、フィーラー、カーペンター、マゼッティ、バルシャイなどの版があり、夫々演奏用の譜面が出版されています。ファンが見ることが出来るスコアは、私の知っている限りではクック版とバルシャイ版だけでしょう)
2.ベートーヴェン/「コリオラン」序曲
この曲はハ短調で書かれており、しかもアレグロ・コン・ブリオであることも今回のメインである第5交響曲と結び付く。両曲の間に性格の異なる第4交響曲を演奏することで、一晩の演奏会として完結させたい。それがプログラミングの意図。
今日はリハーサルの二日目で、未だコリオランは練習に入っていないが、日本フィルのレヴェルなら明日一日のリハーサルで十分だ。
個人的には大好きな序曲。エグモントやレオノーレに比べて緊密性はやや劣るが、疾風怒涛の雰囲気が素晴らしいし、二つの主題の対極性も見事。
3.ベートーヴェン/交響曲第4番
この交響曲があまり演奏されないのは、奇数番の交響曲が有名になり過ぎたことも原因の一つ。第2も第8も素晴らしいし、日本フィルとは既に第6も演奏した。私は敢えて日本フィルと偶数番号の交響曲を演奏したい。
主調は変ロ長調だが、そこに至るまでの序奏で様々な道を経て行く。これは正に現代的なアイディアではないか。
(マエストロの終楽章のテンポは、アレグロ・マ・ノン・トロッポという速度表示に対しては早過ぎるのではないか、という司会者の問いに対して)
フィナーレではファゴットの速いソロが出てくる。ここが吹けるか、あるいは奏者に吹く意志があるか否か、が決め手だ。
(司会者からのエピソード紹介。かつてウィーン・フィルの首席チェリストであるバルトロメイから聞いた実話では、カルロス・クライバーが第4の第2楽章の伴奏リズムをテレーズ→テレーズ→テレーズと弾くように指示した。ところがウィーン・フィルは何度繰り返してもマリー→マリー→マリー、と弾いている。立腹したクライバーは公演をキャンセルしてミュンヘンに帰ってしまった。慌てた事務局が必至でピンチヒッターを探すと、幸いにロリン・マゼールがウィーンに来ていて代打を受諾してくれた。やってきたマゼールはヘッツェルから経緯を聞き、ではマゼール→マゼール→マゼール、とやってくれ。この逸話に対する感想を求められて、爆笑したあと)
私もウィーン交響楽団で首席チェロを弾いていたのでその気持ちは良く判る。カルロス・クライバーは繊細で感じ易い人だった。何か巧くいかないことがあると、それをオーケストラの所為にせず自分自身を悪いと思ってしまうような人。それは父親であるエーリッヒ・クライバーに対するコンプレックスがさせたものだ。クライバーのように極度に繊細なタイプは、人との共同作業が難しくなってしまう。
4.ベートーヴェン/交響曲第5番
第5交響曲は10年以上振っていない。自分がリーダーであるスピリット・オブ・ヨーロッパでも第2と第4はよくやるが、第5はまだやっていない。第5はウィーンでも余りやらなくなっている。
特に第1楽章はテクニカルな面からも、内面的にも難しい音楽だ。
日本では年末に第9がブームになるが、オランダでは復活祭にマタイ受難曲を演奏するのがブーム。上はコンセルトへボウから下はアマチュアまで200回以上やるのは日本の第9以上かもしれない。
あるときマタイでなくヨハネ受難曲を演奏しようとしたら、そもそも企画を通すのが難しかった。実際にチケットも売れなかった。
その意味で日本の第9とオランダのマタイは似ている。
今回は第3楽章のスケルツォを繰り返す。ベートーヴェンが出版社(ブライトコブフ)に宛てた手紙が残っていて、その中でベートーヴェンが何故 da capo の表示を忘れたのか、と怒っていることからしてもベートーヴェンの真意は明らかだ。
この個所について新全集は繰り返し記号にアド・リブと書かれているだけ。指揮者にとってはイエス・ノーをはっきりさせてもらいたいところだが、これについてはアルド・チェッカートの意見が参考になる。
チェッカートは、当時の演奏でベートーヴェンの指示通り出来たこと、出来なかったことをリストにしている。第3楽章の繰り返しに関するチェッカートの意見は、繰り返しをするのは決まり切ったことだ、ということだった。
個人的には、作品全体のプロポーションから見ても繰り返しが当然のことだと思う。
当時の楽器の性能を考えると、現代の楽器では金管の音が強過ぎる。これはベートーヴェンの責任ではなく、当時の楽器の制約による。特にフォルテとフォルティッシモの違い、全体の楽器バランスに注意して練習している。
必要なのはパワフル・プレイではなく、古典的な響きだ。
(筆者注:アルド・チェッカート Aldo Ceccato (1934- ) はミラノ生まれのイタリアの指揮者。チェリビダッケに指揮を学んだ人ですね。ジークハルト氏によれば、ベートーヴェン演奏の権威だそうです)
5.オール・ベートーヴェン・プログラムを定期でやることの意義について
今回、ベートーヴェンの名曲を演奏する機会を与えてくれた日本フィルに感謝している。スコアを再検討し、新しいベートーヴェンを築きたい。特に同じプログラムで2回の演奏会をすることに大きな意義がある。
今回は対抗配置で演奏する。即ち左から第1ヴァイオリン→チェロ→ヴィオラ→第2ヴァイオリンの順に並べ、コントラバスは下手、第1ヴァイオリンの後ろに置く。
自分は古典派を演奏する時には対抗配置をとるようにしている。それは音楽的な対話を重視するからだ。
ブリテンやブルックナーでは対抗配置の必要はない。しかしマーラーについては対話が重要なので対抗配置にする。
自分の対抗配置は流行だから取り入れるのではなく、あくまでも作品の必然性に従うもの。作品によって配置は変える。
6.聞き手からの質問1 古楽器奏法や往年の倍管演奏について
私もアーノンクールの下でチェロを弾いてきた。アーノンクール一派は、政治に譬えれば「緑の党」に相当する。要するに考え方が極端。
これに対してカラヤンなどの伝統的な倍管によるベートーヴェン演奏があった。
自分は両方の演奏を知って、両方を結び付ける所に自分の立ち位置を見つけたいと思う。
ベートーヴェン時代の演奏がどんなものであったか、誰も判らない。それはスコアから読み取る以外になく、その作業の結果私が得た結論は「ベートーヴェンは偉大だ」ということ。
7.聞き手からの質問2 耳が聞こえなかったことが作品に影響したか
第3交響曲以降はベートーヴェンの耳は聞こえなくなった。例えば第9は、素晴らしい作品であることを前提としても、オーケストレーションは完璧とは言えない。
頭の中に音の記憶はあっても、長年使わないうちに変質してしまうものだ。第5のフィナーレ、金管楽器のフォルティッシモにもその影響が感じられる。だからここは注意して演奏しなければならない。
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ところでこの日、お客さまからの質問を受け付ける前に、司会の新井氏からマエストロ・サロンは来年1月で終了する旨の宣言がありました。
特に常連の参加者の間にはチョッとした衝撃が走りましたね。
私もサロン終了後、オーケストラ側の二人の方とこの件で長話をしてしまいました。
そもそもマエストロ・サロンは、定期会員を増やすための手段として企画されたもの。10年以上が経過し、現実にはサロンのスタート時に比べても会員数が増加していないのが現実。これ以上存続させる意義があるのか、という点が決め手になったのでしょう。
今流行りの表現で言えば、日本フィルも「事業仕分け」をしたということ。その結果の打ち切りが本音でしょうね。
公には、土曜定期のプレトークを充実させるなどの「発展的解消」という解説。
私としてはいろいろ言いたいこともありますが、ここはその場じゃありません。サロン休止の報告に留めておきます。
こんばんわ。
先日は大変失礼を致しました。
さて、日フィルのサイトにマエストロサロンの音声がアップされたとのこと、かの幻のラザレフ偏も聞けるようですよ!
取急ぎお知らせまでにて。
失礼致します。
音吉さん
アップされましたか!
実は今回の最初の質問者は私です。声が公開される恐れが無いと思って質問したのですが、失敗でした。もちろん冗談ですよ。
私はどちらも現地にいましたので聞く気はありませんが、後になれば良い思い出になるでしょう。
そうなのですか…うわ、申し訳ございません[i:63915] 実は私はケイタイしか持っておらず、アクセスするもののうまく操作ができず、まだお聞き出来ていないのです…[i:63897] でも、いつかご記念のご質問、必ずお聞き致しますので…!
ところで、余談ですが、私も木下美穂子さんのファン、尤も、つい最近からなのですが[i:63943]
新国の蝶々さんをTVで見たのがキッカケです。 最近の有名オペラ歌手によくある、無駄に体を動かす歌い方があまり好きでなかった私、勿論、楽にした方が大きく高い声がでるのですが…、TVでもあったからか見ている方も視線が定まらず、集中出来なくて[i:63897] 木下さんの蝶々さんは、無駄を省いたある意味日本的な~道などの動きのようでしたが、所作動作はとても美しく、蝶々さんはこんな方だったのかもとも。歌だけでなく演技でもあるオペラは動きも重要だと思います…[i:63974]
そんな訳で??佐渡カルメンも拝見致しておりました。ミカエラ、私は何回か見てきたカルメンでこの方のキャラは良く分からず、?だったのですが、あのミカエラは腑に落ち、なるほどあの感じの方なら、夜を徹して犯罪?組織のもとへ山中歩く方だなと。 最後、疑惑の妊娠説ですが、私も最初は気づきませんでした[i:63915]ミカエラは始めからお腹もしっかりあった方でしたので…でも、あの綺麗なお洋服に不似合いなお腹はと、でも私は幸せそうな姿に、別の人と結婚されているものとばかり[i:63943]最後出てきたホセはすごくヤツレ、浮浪者のようでしたので、家庭は持っていないとも[i:63915] でも、あの二人だったのですね…なかなか男女の関係は複雑…!?良く解りません[i:63953]
ではでは、またトリトメもなく…失礼を致しました[i:63943]
またまたお邪魔を致します。。
スネグルさんのサイトに良くお邪魔もしている私ですが、それによりますと、マエストロサロン、無くなってしまうだけでなく、サイト自体も、つまり、文字や音声も見られなくなってしまうとか…[i:63897]
なんとも残念ですね。。
無くなると聞くと最初から聞いてみたくなるのがお恥ずかしいのですが、アーカイブなり、限定CDか~ブック?が出来ると良いなと、または、マエストロサロンのあった会の演奏会がCDになっているならそれに載せて頂いても、日フィルさんやファンにとっても一石二鳥になるのではとも。
メリーウィロさんも仰っておいででしたが、クラシックは解説の有り無しで、聞き取りの深み?がずいぶん違ってくるかと思います。それだけキャパの広い分野なのでしょうが…知識や経験の必要な音楽でもある、いや、あったらより感動が増しますし。
土曜のプレトークをじっくりお聞きしたことないのですが、時間的に短いと、何だか授業みたくなるのも淋しい気が致します。マエストロサロンは、まさにお振りになる方から、色々な知識や想いや裏話が聞けて、楽しかったからです。裏話も、音のプロの世界を知らない私(達?)にとって、それもとても新鮮、まるでリハーサルを垣間見るような感じでしょうか?? 後、私は大の沼尻さんのファンなのですが[i:63897]、沼尻さんのお話はとても面白く分かりやすく、例えば、以前シュプレヒ…コール?いやシュティール?、ルルで三文オペラのように地声を取り混ぜて唄う歌い方ですが、あれは夢と現実を行き来するような感じを表しているのだ、とか。目からうろこ、そして、最初は耳障りに聞こえたら歌がお話し後は親しみが増しさえするのでした。
これはクラシックにはとても大切なことのような気が致しました。
いつもカタリモノで申しわけございません。。
あの、話は変わりますが、公開コメントか否かはどう判断したものかと。特別大多数の方に聞いて頂けるような内容は持っていませんので…。とは言え、聞いて貰いたいような時も…?!
でも、今日は非公開を選ばせて頂いて良いでしょうか…?
音楽のみならず、メールまで弩素人[i:63943]失礼致します。。
音吉様
お話はごもっともです。私もほぼ同じ意見です。
事務局のお話では、①サロンの効果が直接に集客には結びつかないこと ②現実問題としてサロンの運営からホームページへのアップ作業の負担が事務局にとっても相当なものであること が、サロン中止の原因だと思われます。
第2ホームページも事務局ではなく楽員のボランティアで継続してきたサイトです。現実に作業する時間が無いことや後継者問題もあります。
こうしたサイトは、こまめに管理しないと「荒らし」の対象に成り勝ち。閉鎖もやむを得ないと思われます。
日本フィルとしては、お客様へのサービスを第一に考えているはずですから、ここは聴衆がもっと声を上げることが大事ではないかと思慮します。
サロン継続の声が大きければ、オーケストラとしても考え直す選択枝があるかもしれません。
プレトークについては、従来より時間を多く取り、プログラムに相応しいゲストを予定しているとか。それでも演奏家自身が語ることは無くなるでしょう。
指揮者のメッセージやリハーサルの裏話などは何か別の形で公開できないものか、先日も事務局の方に提案しておきましたが、どうなりますか。
最後にコメントの公開についてですが、私としては公開されて問題はないと思います。私がコメントを承認制にしているのは、事前に問題あるコメントをチェックするためのもの。音吉さんのコメントは公開で良いと思っています。
詳しい内容のお返事を頂き、有難うございました。 なるほど11年もの間続いていたものをお止めになるのには、それなりの背景があるのですよね…。
何だか軽はずみに申してしまったようで、申しわけなく感じています。。
裏話などの件、メリーウィロさんご提案なさっていたのですね!これからまた色々な方々のご意見やアイデアが出てくるかと思いますし、きっと何かより良いものが出来ていくような気もいたします。私も何か考えられたらなとも思いました。
そういえば、20金BS-hiで21時から、三浦皇成騎手のイギリス、ニューマーケット武者修行の様子が放送されるようです。超有名人とか?のデットーリ騎手も出るそうですよ。取り急ぎ情報まで[i:63993]
それでは失礼致します。