強者弱者(41)

冬至

 冬至、一陽来復といへど、歳末忙怱、日彌よせまり、光彌よ淡き心地す。野にありては尾花の叢小笹の道、一望狐の色にうら枯れて風にさゝめき、みぞれに鳴る。小さき野鼠の落葉の音をぬすみて通う榛の下道、『大師道』の木札さみしく多摩川用水の底すみて、大根の端に水垢のつめたきもわびし。
 政治期に入りて新聞紙皆色めく。議員の東上せるもの、多く宿を京橋に定む。花柳界の附入時なり。

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今日は冬至ですね。一年のうちで最も昼が短いとき。ここを境に陽は次第に長くなっていきますから「一陽来福」(いちようらいふく)。冬が去って春が来るの意味ですが、悪いことが回復して世の中が良くなることの喩にも使われます。正に昨今の世情にも当て嵌まるような気がします。

「忙怱」は「ぼうそう」と読みます。「忙」も「怱」も忙しいという意味で、上下をひっくり返した「怱忙」(そうぼう)の方が一般的か。

「彌よ」は、「いよいよ」。現在は「弥よ」を使いますが、昔の字の方が感じが出ていると思います。

「榛」は「はん」です。榛の木のことですね。昔の東京は現在よりぬかるんでいましたから、湿地を好むこの木が多かったと想像されます。
虫好きの人はピンと来るでしょうが、榛の木はミドリシジミの食樹。明治時代の東京ではミドリシジミの乱舞が普通に見られたのではないでしょうか。古き良き時代・・・。

大師道と多摩川とくれば、これは恐らく川崎辺りの情景描写だろうと思われます。

100年前は政治も季節の風物詩だったようで、年末は地方から上京して政治活動を活発にする政治家が多かったのかも知れません。議員はみな京橋に宿泊したそうですから、政治家という人種は当時から芸者を上げてドンチャン騒ぎをしていたみたいですな。

 

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