強者弱者(43)

歳暮

 二十五日、クリスマス、各教会子女を集めて教主の降誕を祝す。帝国ホテルにも夜会あり。燭白く夜長く、音楽絶えず、歓楽春の如し。
 各学校試験終りて冬季休業に入る。これより山の手の邸町、生垣越にカルタを読む声の物狂はしきを聞く。貧しき家の子の窮苦に泣く時なり、幸ある家の子の最も楽しき時なり。
 二十八日 古例によれば此日餅つき、米屋の店頭に『例年の通り賃餅仕候』とあり。門松、注連飾はこれも三十日といふ古例なれど、此頃より取つくるもの多し。とみる街上の行歩彌よ忙しげなり。
 二十九日 諸官衙御用納め、電車の客半は歳暮の贈答品を携へたり。
 三十一日 大祓、除夜、市内各商店高張提灯をかゝげて夜を徹す。此日大商店は皆寂寞、唯寂寞のうちに大なる取引ありと知る可し。除夜の鐘鳴る。

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特に説明を要しない年末の風景です。

歳暮そのものには贈答品という意味はありません。単に歳の暮れという意味。これに「お」が付いて初めて贈り物の意味が出るのです。日本語の面白い、というか難しい所ですね。

クリスマスに帝国ホテルで夜会があったようですが、どんな音楽が奏でられていたのでしょうか。興味を覚えるところです。

現在ではカルタは正月の遊びですが、明治期には年末に行われていたようですね。尤も現代では正月でもカルタ取りをやる家庭は少なくなっていますが・・・。

二十八日の餅つきも現代では廃れました。東京ではスーパーで買ってきてお終い。私の子供の頃は、拙宅でも男衆が集まって餅つきをする習慣がありました。

注連飾は「しめかざり」と読みます。馬鹿にするな、と叱られるかもしれませんが念のため。古例では三十日に飾るものだそうですが、100年前でも二十八日頃から飾る家が多かったようですね。
煩いことを言えば、二十九日は「苦日飾り」、三十一日は「一夜飾り」といって避けるのが本来でしょう。やはり古式に則って三十日が本来です。

「官衙」は「かんが」と読みます。役所や官庁のこと。「衙」一字でも役所の意味があります。
100年前は二十九日が御用納めでしたが、現在は二十八日。一日休みが増えた勘定ですね。

 

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